幸福

たちばな

僕の幸せなこと

 朝、目が覚めること。

 隣にあなたがいること。寝癖のついた髪に、ゆっくりした寝息、ほんの少し開いた口……全てが、愛おしいと思えること。

 あなたを起こさないように、ベッドを出ること。


 顔を洗って、すっきりすること。

 歯ブラシ立てには二本の歯ブラシが置かれていて、嬉しくなること。


 僕らの家のキッチンがいつも寒いこと。

 あなたが作ったエプロンを身につけること。

 あなたが、いつも卵をいっぱい買っておいてくれること。

 朝から、僕とあなたの大好きな卵料理を一緒に食べられること。


 卵を焼くこと。

 焼けた卵が、あなたの髪の色に似ていること。


 だんだんと、キッチンが暖かくなってくること。


 あなたが起きてくること。

 まだ眠そうな声で、「おはよう」と笑うこと。それを返事を返せること。

 あなたが僕の背中にくっつくこと。「危ないよ」と注意すること。

 あなたがパンを焼き始めること。トースターの前にはりついて、「焼けたかな?」と楽しそうにすること。


 トーストの香ばしい匂いがすること。卵とレタスを乗せて、朝ごはんにすること。

 「いただきます」と、声を揃えること。サクッと良い音が鳴ること。

 「美味しい」とあなたが言うこと。


 あなたの淹れたコーヒーで、体が温かくなること。窓から射した日で、あなたの髪がきらりと光ること。

 薄い水色の目が、僕を映して微笑むこと。


 「幸せだね」と、あなたが優しく――本当に、幸福そうに言うこと。恥ずかしくなったのか、頬を染めること。


 「うん」と頷けること。


 ――ああ、しあわせだ。

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