好き。好きなの。

たちばな

好き。好きなの。

 私、心晴こはるちゃんのことが好き。その気持ちを、今になってようやく思い出した。


 ー ー ー


 きっかけは簡単だった。街中で偶然会って、私の家に招待したの。

 中学生の時以来だった。薄ピンクのカーペットにちょんと正座した心晴ちゃんは、とっても可愛かった。細身の体に、ベージュのニットが良く似合ってる。「和香わか、変わらないね」と穏やかな声が耳に届いて、心地よくなる。


 ああ、私やっぱり心晴ちゃんが好き。私の心は、一瞬で舞い上がってしまった。

 ただ、気になるところがあった。心晴ちゃんの目の下に、濃いくまがあった。

 眠れてるの? と、私は聞いた。あんまり、と心晴ちゃんは言った。

 大学が、忙しいの。ぽろ、と心晴ちゃんが溢した。他にも、家で一人なこと、家事が大変なこと、大学を辞めたいと思っていることを、ぽろぽろ話した。

 心晴ちゃんは、辛そうだった。


 心晴ちゃんは痩せていた。薄いニットから、くっきりと鎖骨が見えた。黒い髪もパサパサして、適当に切ったのか毛先も揃っていなかった。

 心晴ちゃんは弱ってるんだ、って、分かってしまった。


 ――ああ。

 このままにしたら、心晴ちゃん、死んじゃう。

 嫌。そんなの嫌よ。私の愛しい人が、こんなに辛くて苦しい思いをしているなんて、私のいないところで死んでしまうなんて、耐えられないわ。


 そう思って――心晴ちゃんの紅茶に、砂糖を入れるふりをして薬を入れたの。


 心晴ちゃんは、すぐに眠ってしまった。眠れてないって言ってたからかしら?

 すう、すう、と規則正しい寝息を立てている。私に寄りかかって寝ちゃった。ふふ、心晴ちゃん、可愛い……。


 そして、ベッドに運んで。華奢な足首に鎖をつけようとした。

 でも、やめた。鎖じゃ、心晴ちゃんの綺麗な足がきっと傷ついてしまうわ。

 だから、シーツの切れ端で縛った。

 これからは、私が心晴ちゃんと一緒にいるから。

 心晴ちゃんを一人になんて、絶対にしないわ!


 ー ー ー


 ……私、心晴ちゃんのこと愛してる。――だから、監禁したの。

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好き。好きなの。 たちばな @tachibana-rituka

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