エピローグ 死神から

 死神のルイだ。


 これで虎徹と竜一が、悪魔から自分たちの街と仲間を守った物語はひとまず終わる。だが、ここまで読んだ君に最後に伝えておきたいことがあるんだ。



 それは――君は悪魔の秘密を知ってしまった。君にはこのことを周りの人々に知らしめる義務が生じた。ということだ。



 何のことだか分からないって? とぼけちゃいけない。



 悪魔は君や君の大切な人たちの魂を狙っている。そのために心の中にある欲望やそれに伴う罪の意識を煽り立て、闇の方向へと引きずり落とそうとする。


 君も知っただろう?

 人の中にはよい心もあれば、悪い心もある。強い心もあれば、弱い心もある。二つがバランスを取ってこその人間なのだが、時として負の部分に捕らわれてしまうのも人間なのだ。


 この物語に出てきた生け贄になってしまった二人がそうだった。いや、一人はある意味無理矢理だったが、それでも罪の意識を利用されたことに変わりはない。


 ブラック・マンバのメンバーや恭一と冬次の兄弟もそうだ。邪霊に取り憑かれた人たちも合わせれば、もっと多くの人々が悪魔の奴隷となってしまっていた。

 彼らのように、悪魔の好きにされたくはないだろう?


 悪魔は口では散々いいことを言うが、本心では自分の都合しか考えていない。君の力を利用したいだけなのだ。


 いつでも君は狙われている。だから心の闇に捕らわれないようにして、悪魔に隙を見せるな。奴らはいつでも君の魂を狙っているぞ。


 できるだけ多くの人に、特に君の大切な人たちに君が知ったこのことを広めてほしい。


 それが、私が……死神であるルイが、君に伝えたかったことだ。くれぐれも、よろしく頼む。



 さて。それでは彼らのその後のことを少し報告しておこう。


 まず虎徹だが、彼は竜一の妹である幸の飼い猫として新しい住処を得た。今は、お母さんや幸に可愛がられて幸せに暮らしている。あんなに自由を愛していたはずなのに、やはり幼い頃の甘い記憶は忘れられないというところなのか。まあ、生来の野良猫だから、野生の誘惑にいつまで耐えられるかは見物だがな。


 それと、竜一たちのスカル・バンディッドだ。彼らは、結果的には警察に捕まることはなかったが、解散ということにになった。


 元々、警察からそれほど危険なチームだと思われていなかったということもあるが、ショッピング・モールに来た警察官も、スカル・バンディッドが事件を止めようとしたことを証言したらしい。それで逮捕には至らなかったのだが、一連の騒動のけじめは付けざるを得なかったというところ、なのだそうだ。


 それから、ブラック・マンバだが、覚醒剤の事件や傷害事件を起こしていたところに、あの日の傷害事件の現行犯が重なり、リーダーの緋村兄弟はもちろん幹部の多くが逮捕された。


 今回のことは、テレビや新聞でも地元の暴走族が絡んだテロ的事件として取り上げられたが、悪魔云々については報道されなかった。現地の人間たちに取材をすれば、そんな話はいくらでも出てきたはずなのだが、荒唐無稽すぎて取り上げられなかったのか、何か別の力が働いたのかは定かではない。


 緋村兄弟については、悪魔からの影響もあったのだから、罪を償ってまっとうな人間になってほしいところだが、あの事件では死人や怪我人も多く出ていた。ひょっとすると、彼らの刑務所生活は相当長くなるかもしれない。


 最後に竜一のことだが、今も雇われのバーテンとして働いているが、将来独立するために昼間の仕事も入れて、貯金に励んでいるようだ。たまには実家に顔を出して母親や妹、そして虎徹とも仲良くやっている。


 百合子も今は勉学に励みつつ、竜一との付き合いを続けている。

 これから竜一と百合子がどうなるか。人生の行く末は私にも分からないが、悪魔とさえ戦い抜く強さを持った二人だからな。きっと大丈夫だ。


 簡単だが、彼らのその後のことはこんなところだ。

 ――さて。私はそろそろ本来の仕事に帰るとするよ。


 今回の一連の事件で、成仏させなきゃいけない霊もたくさん増えたんだ。しばらくは、本業で目が回ることだろう。


 それじゃ、また――

 縁があれば会おう。

              了

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最強のヤンキーと孤高の野良猫は死神とともに悪魔と戦う 岩間 孝 @iwama-taka

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