悪政

結騎 了

#365日ショートショート 301

 リチャード王は叫んだ。

「隣国を攻める支度をしろ!明日には侵攻する!」

 王宮はにわかにざわついた。突然の開戦宣言である。

 騎士団を取りまとめるラザロは、王の座前で声を張った。

「陛下、なぜ急に……」

「ラザロ、お前なら分かってくれるか」。リチャード王は満面の笑みで答えた。「隣国には、大道芸人の一族がいるらしい。それもいくつかの部族に分かれているとか。彼らは蛇や火を自由に操ると聞いた。だから、隣国を自分のものにするのだ。私は一刻も早く大道芸が見たいぞ」

 跪き、その額に脂汗を滲ませながら。ラザロは恐る恐る口を開いた。

「しかし、その……。先月は陛下の号令で、牛の放牧が盛んな遠くの国を攻め落とし領地としました。その直前までは、オリーブが食べたいという陛下のご要望にお応えすべく、騎士団全員で剣を置いて栽培に励みました。皆、疲弊しております。どうか、もうしばし休息をいただけないでしょうか」

 しかし、リチャード王は頬を膨らませた。

「よく聞くがいい、ラザロよ。私は気になってしまったのだ。この気持ちはもう止められない。牛も、オリーブも、そして今度は大道芸も。それを知りたいと思ってしまったのだ。そうなれば、やるしかあるまい」

「も、もちろん……。陛下がそこまで仰るなら……」

 言葉を返せなかったラザロは、肩を落としながら王の座前を後にした。

「ラザロ団長!」

 扉の外で待っていた部下が声をかける。

「いかがでしたか」

「駄目だ。陛下は止まらない」

「このままでは国そのものが消耗してしまいます」

 ラザロの目は遠くを見ていた。

「後年、悪政として語り継がれるだろう。好奇心王政と」

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悪政 結騎 了 @slinky_dog_s11

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