第7話 京本莉瑠香もとい
「ふう、今日も守ることができたし、早苗にも大胆に近づくことができたな」
早苗の帰宅後、莉瑠香はそっと胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
そこに映るはまさに今日、彼の秘密を暴こうとしていた早苗だった。
「しかし、あの子の不幸体質にも難儀させられる。まあでも、妹だから仕方ないか」
そう、京本莉瑠香こと京本隼人は早苗の兄であった。
幼い頃、海外旅行中に両親とはぐれ川に流されてしまった隼人は、運よく河辺に住んでいた農家を営む子なし夫婦に拾われすくすくと育っていった。
もちろん、隼人の両親も血眼になって探したのだが、残念ながら見つけることができなかった。
縁とは不思議なものである。
そして十歳を迎えた日。
ざっくりとその辺りの地域で成人となる日。
隼人は自身が拾われた子であることを知らされる。
隼人は育ての親への感謝は忘れることなく、しかし、生みの親に会いたいという思いからめちゃくちゃ金を稼いだ。
もともと勉強はよくできる方ではあったが、その才が如何なく発揮された。
育ての両親ビビってた。
いくつもの会社を立ち上げ、財をなし、そして自身の生い立ちを徹底的に調べ上げた。
そして十四歳を迎えた日、とうとう自身がどこで生まれ育ったのか、そして両親が誰なのかを知ることができた。
そして故郷である日本で実の両親に再会するべく、はやる思いを抑えながら来日した隼人はとある存在に目を奪われてしまった。
「え? めっかわ。おおん」
それは隼人の生き別れた妹、早苗であった。
早苗は隼人と血は繋がっていない。
早苗の両親は隼人の両親と幼い頃からの付き合いであったが、早苗が生まれてすぐ交通事故で他界してしまったのだ。
そして、早苗は八頭司家の養子として迎えられ、隼人と本当の兄妹として育てられることとなった。
隼人に小さき頃の早苗の記憶はあるものの、彼自身も彼女も幼かったこともありあまり鮮明ではない。
もちろん、都合よく義兄妹であることも忘れている。
都合とは良ければ良いほどいいものである。
成長した『妹』はとても美しく、そして品があった。
一目見た瞬間から隼人は早苗のことしか考えられなくなった。
生みの親に会いたいなんてことはもうどうでもよくなった。
むしろ今両親に会ってしまえばめっかわな妹をじっくり観察することなんてできなくなってしまう。
そう考え、とりあえず隼人は気の済むまで妹を観察した。
妹の自宅外での生活圏、その全てに監視カメラを設置した。
その状況はリアルタイムで確認できるように、特注のコンタクトレンズを開発した。
三日で。
研究にも才があった。
観察をし始めてすぐに妹のとある体質に気づくことになる。
「あの子、不幸が舞い込みまくってる」
奇しくもそれが判明したのが隼人にとって何もない日だった。
隼人はその日を「妹再発見記念日」と制定した。気持ち悪い。
そしてすぐに調べ上げた。
その不幸が舞い込む要因を。
昼夜問わず、妹のプライベート無視で。
燃え上がる使命感。
焼け落ちる道徳的思考。
「そうか、早苗はお嬢様不幸体質だったのか」
数週間後。
隼人は電子顕微鏡を通してみた妹の遺伝子を見て確信する。
そう、彼女はお嬢様不幸体質だったのだ。
説明しよう!
お嬢様不幸体質とは、お嬢様であるがゆえに家の方針とは別に自身の意思をもって決断をした結果として現れる不幸とそれを呼び込む体質の総称のことである。
お嬢様は家の方針が絶対。
なぜならお嬢様がお嬢様であるためには家の支援が必要であり、さらにお嬢様として自身の子もお嬢様にするにはやはり自身もお嬢様でいる必要があったからだ。
お嬢様は生まれ落ちてから死ぬまでお嬢様ディスティニーからは逃れられないのだ。
呪い、そう呼ぶのも君の自由だろう。
そう、つまりお嬢様不幸体質とはお嬢様道から外れようとするお嬢様を引き戻すためのお嬢様神の作り出したシステムといっても過言ではない。
実は早苗はその時すでに兄への個人的感情を理由に女子高への進学を見据えていたのだ。
中学二年生なのにしっかりしている。
もちろん、早苗の両親としてもお嬢様学校への進学を特に問題なく考えていた。
そのため、早苗に舞い込む不幸は特段大きいものではなく、何もない道で躓く程度のものであった。
しかし、隼人はそれを看過できなかった。
もちろん隼人は彼女がどんな意思をもって自身の道を貫こうとしているのかまでは知らない。
しかし、このまま妹が自身の意思を貫き続ければより大きな不幸を招くかもしれないことは容易に想像できた。
その時兄として何ができるのだろう。
悩みに悩み、仕事が疎かになり、二社ほど思わず売却してしまった頃、ようやく結論が出た。
「よし、早苗と同じ高校に行き、直接守ろう」
果してこの結論が正しいのかは毛ほどもわからない。
しかし、彼は使命感に燃えながら、日本での活動の基盤を築くために日本で会社を複数立ち上げ業績をあっという間に上げていった。
さらに早苗が行くであろう女子高に通うために体を極限までシェイプアップし、メイク術を学んでいった。
元々線が細く、中性的かつ端正な顔立ちをしていた彼はあっという間にその美貌を開花させていった。
彼自身もその美しさのあまり、思わず自分をオカズにしてナニしたのは思春期的な秘密であろう。
ちなみにこの時はまだ中学一年生だった早苗が進学する高校をどのようにして特定し、彼女が入学するよりも一年以上前に受験し、入学できたのかは企業秘密であるとして、晩年になっても彼の口から語られることなかった。
そもそもそんなことを語る相手もいなかった。
語りたかった。無念。
「早苗、俺が守ってやるからな」
今日も兄妹の在り方をはき違えたお兄ちゃんのお嬢様的不幸体質のめっかわ妹を守る戦いは続く。
その「恋」は難しい りつりん @shibarakufutsuka
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