御礼状

前略


芝生の丘から寝転んで観る星空があんなに広くて深いだなんて

知りませんでした



あの日は生まれて初めてのことがたくさんあった


オートバイのうしろに跨って、風の中を疾ったこと

白バイのお巡りさんに停められて、青い紙を渡されるのを目の当たりにしたこと

山の上の牧場に行ったこと

オートバイに乗ったままフェリーに乗船したこと

湾を横切るだけなのに

海のうえにぽつんと一隻、強い風に吹かれながら


そして

五月の風がやさしい丘の上、爪の先で隠れてしまう夢の国の花火を見つめながら

あなたに告白されたこと



黙ってしまってごめんなさい

いろいろ気持ちが追いつかなくて


でもこれだけはわかって欲しい

あのときわたしは心地よかったのです

託された疑問符に応えるよりも

夜空に包まれた時間ときを大切にしたかったのです



昼の饒舌とはうってかわったあなたの沈黙も

ヘルメットに流れ込む絶え間ない風が紛らわしてくれる

オートバイってとてもいい

喋らないのが自然なのに、身体は触れていられる



これからも

もっとたくさん

あなたのうしろに乗せてください


早々

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創作詩 深海くじら @bathyscaphe

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