テレパシーのように感情を読み、
千里眼のように標的を探り当て、
念動力のように触れずして敵をいなす――
主人公の一人であるクロウが駆使する特殊な力。異世界ファンタジーでありながら、驚くべきことにその力の正体は『香り』です。
花屋の片隅で調香に勤しむクロウは、人並外れた嗅覚と天賦の才による調香技術によって、魔法と見紛う超人的な能力を『香り』にもたらすことが出来るのです。
人が発する体臭やフェロモンから感情を読むのはお手の物。現場に残されたわずかな匂いを辿って追跡をする姿はさながら探偵のようです。
たとえ悪漢に囲まれても、その驚くべき発想力と機転によって絶対絶命の窮地を『香り』の力で打ち破る。
それはまさに、神より授かった祝福の名に相応しい力と言っても過言ではありません。
本作は2万字という短さでありながら、花のように芳醇なドラマと、スパイスのように刺激的な活劇がこれでもかと詰め込まれています。
一つのアイデアを自在に操り多彩な物語を紡いでいく、クロウにも引けを取らない作者の豊かな発想力がいかんなく発揮された一作です。
是非、ご一読ください。
おすすめです。
カレノルド帝国に看板を出す花屋フランジュリア。その店主であるマシロの歯の浮くような、でもどれも心のこもった接客によってお店は常に繫盛していた。そして従業員として働く調香師のクロウ。彼は女神から祝福を賜って、超人的な嗅覚を持つ。そんなマシロとクロウが「香り」を辿って、とある事件を解決していく物語だ。
きっと、現代において一番使用されている五感は視覚だろう。視覚社会なんて言葉があるように、目に見えることを評価する時代の流れを感じる。SNSもその一種のはず。
本作は「香り」を通して、目に見えない部分の核心に触れて物語が動く。不安の香り、嘘の香り、死の香り。本質的な部分を描いているからこそ、読者の目には鮮やかに見える。
そして何よりマシロとクロウの関係性が尊い。匂いがわからない代わりに超人的な身体能力を持つマシロは、クロウが調香した香りだけは感じ取ることができる。少し物寂しいマシロの世界を豊かにしてくれるクロウのことを、彼はきっと生涯手放すことはないだろう。そして仄暗い過去を抱えたクロウも、嘘の香りがしないマシロに救われている部分が多々ある。ギブ&テイクじゃないけど、お互いにお互いが必要な存在。尊い。推しメンにふさわしい二人です。
わずか2万字の中で展開する世界観、事件、そしてブロマンス。ぜひこの感動の香りを楽しんでいただきたい。