第6話 魔物よりも恐ろしい

「まあまあ、とりあえずお茶でも飲んで」

透さんが名前も知らない6人目の犠牲者の肩を叩き、お茶を進めている。当然、意味不明のこの状況に犠牲者くんは戸惑うばかり。

高校生には見えないけれど、社会人にも見えない。連と変わらないくらいの年齢だろうか? 髪はぼさっと長く、真面目そうなタイプには見えるが、こんな状況でなければ近づかないタイプに見える。

「おじさん何歳? 俺は11歳。連と同じくらい?」

「おじさんって言ったらかわいそうだろ。まさか晴喜、俺のこともおじさんと思ってるのか?」

小学生におじさんと言われるのが傷つきそうだ。20歳にもなっていないのに言われたくはない。

「あ、20歳です。こんなに小さい子まで?」

20歳ならばこの中で二番目に年上になる。

「ちゃんと俺だって戦力になってるし」

「晴喜は生意気だけど、・・まあ、そういう年齢だとおもって可愛がってやってください」

その年を過ぎてきて男ならば、晴喜の気持ちはわかるだろう。だれしも一度は通る時期だと思う。

「で、名前はなんて言うの? 大学生? それとも社会人? いきなり巻き込まれて驚いたでしょ」

「はい。らいとです。雷に北斗七星の斗で雷斗。今は大学生で、・・はい。突然知らないところにいて驚きました」

なかなか目立ちそうな名前だ。自分だったらそんな名前を付けられたくはない。雷斗は名前と違い静かそうな感じだけど。

「文系?理系?」

「理系です。生物の研究を少々。ところでここは?」

連にとってはお決まりになっているらしいこの状況と場所の説明を慣れたように雷斗へ話していく。

「はあ、つまり、ちょうどいい便利屋をやらされてると。けれど・・」

何を言うのかとこちらは身構えた。

「その、地球に居ない生物というのは大変興味がありますね。ぜひ、外見や生体、骨格なんかも違ってくるのでしょうか? 体の器官にも違いがありそうですね」

こちらは驚くしかない。おとなしいと思っていた人が急に今までの倍の速さほどで話し始めたのだから。

「ああー、もしかして、ちゃんと研究をするために大学に行ったタイプ?」

苦笑いの透さんがそう尋ねた。

「他に、何のために大学にいくのでしょう?」

「ちなみに何大?」

ぼそりと雷斗が答えた大学は、日本では知らない人がないような超有名大だった。しかもとても頭が良い所。同時にそこに入れるのは変人ばかりと噂される場所である。

「連、そこってとっても頭が良い所? 雷斗って連の何倍も頭が良い?」

俺達には当然のようにわかっているようなことを晴喜は、子供特有の無邪気さで質問する。

「何倍、どころじゃないな。俺は、運動で大学に入ったから勉強はあんまり」

「じゃあ、勉強おしえてくれるか? ここには学校無いから、だれも教えてくれる人はいなくて」

晴喜がそんなことを言うとは思わなかった。まだ小学生。最低限。知っておいた方が良いこともまだ習い終わっていないだろう。

「これだけ大人がいるんだから聞けばよかったじゃないか」

「・・・透さんはできなさそうだし、連は論外、陽暮は難しいこと言いそう。涼には教えてもらいたくない!」

随分、春喜は好き勝手なことを言ってくれる。

「僕でよければ。最近の小学生は英語もちゃんと習うんだっけ? 社会以外ならある程度出来るから、何でも聞いて」

「ここの言語って全然違うから英語は必要ないけど、まさか英語ペラペラだったり?」

蓮が恐る恐るという感じで尋ねる。

「えっと、話すのは苦手ですけど、英語の論文なら沢山読むので、説明文のようなものなら書く方も出来ますよ」

頭の出来が自分とはとても違う気がする。

「言語も違うなら意思疎通が難しそうですね。本を読む事にも一苦労。それなら自分で確かめるしか・・・」

雷斗は一人でぶつぶつと宙を見つめて呟いている。

「聖女ってところには驚かないの?」

「どうでも良いです。永遠に回復出来る仕組みには興味が、皆さん良ければデータを取らせては貰えませんか?!」

何かを察したらしい春喜がジリジリと後ずさってくる。気持ちは分かる。

「この人数なら回復し放題ですね。ゾンビ戦法で未知の生物を捕まえる事も可能では?」

恐ろしいことを言ってくれる。あれを捕まえるなんて絶対にしたくない。

それに、ゾンビ戦法。一応聖女なのだから真逆の存在である。

「ちなみに、捕まえた後はどうするつもりで?」

引き攣った笑顔で透さんが尋ねた。

「育てて、習性や地球の生物との違いなど比較して研究をしたいです」

よく言えば適応力が高い。悪く言えば、興味のためなら何でもするような人らしい。

「あー、ここではこれが制服みたいな物だから」

話を逸らすためにあの真っ白の服を差し出しておく。これを見れば・・

「そうですか。ありがとうございます」

抵抗無く受け取った。研究者というのはとても不思議な生き物らしい。

この世界の知らない生物以上に不思議かもしれない。そして下手に触ってはいけない。

「ところで、何か今までスポーツの経験は? 今の所、魔物を狩るのが主な仕事だから武器が必要なんだけど」

透さんがその辺りの事情もサクッと説明してくれる。

「これといって何か特定のスポーツをやっていた事は無いですけど、それなりに運動はできますよ」

出来そうに見えないけれど本当だろうか? それとも人は見た目によらないというやつだろうか?

「武器ですか。それより網とか檻で捕獲したいですね。野生の動物を捕まえることならよくやっていたので得意ですし」

みんなで視線を合わせて頷く。

「うん。とりあえず、一つずつ試していこうか」

「おれ、銃の扱いは得意だから教えてやる!」

「春喜、年上にその言い方は失礼だ」

半強制的に外に雷斗を引っ張り出す。

あんな凶暴な生物とは誰も暮らしたくは無い。今のここを動物園のような場所にするわけにはいかない。

その一心で研究話から遠ざけるように、それぞれの武器を勧めた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖女寮へようこそ 〜男ですが聖女始めました〜 浅葱咲愛 @sakua_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ