第17話
夕方になった。
あれから殿下と食事を共にし、しばらく街を出歩いた。
誰かと一対一で遊びに行くといった経験があまりなかったのでとても新鮮だったし、私の案内で殿下も楽しそうな様子だったのでこちらも嬉しくなった。
だけど、
「結局言えなかったなぁ……」
あんな大事なこと。さっさと行ったほうが良いに決まってる。
でも、思っていた以上に楽しい時間を過ごせてしまったから、それを言ってしまうとこの時間が終わってしまうのではないかと思い、言えなかった。
不誠実だなぁとか思いながらも結局後回しにして後回しにして、そのまま解散となってしまったのだから、なんとも我ながら情けない。
「……でも、楽しかったな」
今までは自分に好意を持つ異性の人と出掛けるだなんて自分には縁がないものだと思っていたけど、いざ体験してみるとこうも気分がいいものなんだなって。
それはもう、次にまた会う約束を持ちかけられたときについ反射的に頷いてしまうくらいには。
でも、このままではよくないことくらい私にも分かってる。
次に会うときははっきりと伝えよう。
そしてごめんなさいをして、それでも友人としてこれからも付き合って欲しいと伝えよう。
そうするべき――だよね?
「……なんだろ、この感じ」
ああ、もう。
胸の奥がモヤモヤする。
自分から拒絶の言葉を口にするというのに、エヴァン殿下に拒絶されるをの恐れるだなんて。
なんて私の心は自分勝手なのかしら。
あわよくばこの中途半端な関係を続けてしまえばいいのではないか、と。
そんな悪魔のささやきが聞こえてきてしまいそうなくらい、私は落ち着きを失っていた。
「はぁ……」
どうしよう、ため息が止まらないや。
まさか私がこんなことで悩む日が来るなんて。
あのお屋敷でこそこそ魔法の勉強をしていただけの頃の私に伝えたらどう思うのかな。
もし私が昔からモテモテで毎日のように恋愛のことばかり考えてる女の子だったら、この程度のこと、とあっさり答えを出せていたのかな。
思い浮かべるのは、二人の男性の顔。
片方は私がお飾り妻として嫁いだ相手、アーリー・ハルベルト。
片方はつい先日私が命を救った相手にして、私を真剣に妻に娶りたいと申し込んでくる王子、エヴァン・フォン・アーセナル。
もしも。もしも。
今の私が私が侯爵家に嫁ぐ前。何も考えなくてもいいフリーな身だったとしたら。
どっちを選ぶのかと聞かれると、私はきっと――
「だめだめっ! こんなの一人で考え込んだって意味ないじゃない! 今日はメアさんに頼んで多めのご飯貰っちゃおう!」
そうだ。きっと私は疲れているんだ。
立て続けに慣れないことを経験して、頭の中の整理ができていないだけだ。
今日はご飯をたくさん食べて一度忘れて、大好きな魔法の勉強をしてから寝よう。
それがいい。
リーザに頼んだ例の調べ事もあるし、殿下との次の約束もまだ日にちがある。
何も焦ることは無い。焦らなくていいんだ。
少しくらい答えを先延ばしにしたって大丈夫なはずだ。
あとで思いっきり後悔するくらいなら、今精いっぱい悩んで答えを出したほうが良い。
きっとそうに違いないから。
お飾り妻生活を満喫していたのに王子様に溺愛されちゃった!? あかね @akanenovel1
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