第7話:激戦 名神高速


 エリックの指示でセブンはアクセルを床まで踏み込む。13Bは咆哮を響かせ、たちまち時速120キロへと加速する。


「やっぱりな。ウロボロス御一行様の登場だ」


 エリックが後方を確認すると、4台の黒い車――UBモーターズのセダン3台とBMW M4――が猛スピードで追って来ていた。


「M4の方が多分リーダーだな。セブン、コイツらに絶対横をとらせるな」


「分かりました」


 RX-7の高いコーナリング性能に加え、彼女の目にも留まらぬハンドルさばきで一般車をパイロンのように避けていく。対する追手たちもぎこちないながらも車を避けながらエリック達に必死に食い付いている。しかし、進めば進むほど徐々に一般車の数が増え、ハンドルをさばくセブンの顔が苦しくなっていく。


「車が……多い……!」


「帰宅ラッシュか……もしかしたらコレを狙っていたな」


 エリックが再び後方を確認すると、先程まで突き放していた追手たちがすぐ後ろまで距離を詰めていた。そして一台のセダンの窓が開き男が小さなバズーカのような銃を構えRX-7へと照準を合わせる。


「避けろ!!」


 エリックの咄嗟の指示で右に避けた瞬間、銃から黒く丸いパッドのようなものが射出され、避けた先にいた車のボディーへと張り付き青白く発光する。


「なんだ?」


 異変に気付く運転手。すると突如タコメーターの針が急激に下がり、エンジンの回転数が低下し始める。


「なんだこれ!?アクセルを踏んでもスピードが上がらないぞ!」


 そればかりか車内の電子機器全てがストップし、さらにはパワーステアリングも働かなくなってしまい操縦がほぼ不可能となる。


 運転手は必死になるが車は急激にスピードを落とし、ついに後続を走る車に激突。大きな衝撃音をあげながらクラッシュする。


「あれは……?」


「電磁パッドだ。強力な電磁波を出して車の電気系統を全部ダメにさせるやつさ。あれを付けられたらたちまちエンジンが止まっちまう」


 そうこうしている間に次の電磁パッドの射出準備が完了し、再びRX-7に銃口が向けられた。


「少し右に寄せてくれ」


 セブンが車を右に寄せたその瞬間、エリックは窓から身を乗り出し雷を帯びた魔弾2発をセダンに撃ち込む。一発は運転手の右腕に命中すると一時的に全身を麻痺状態にさせ動きを止め、もう一発は電磁パッド銃を持っている男の手を撃ち抜き銃を手放させた。


 運転手が撃たれたことにより操縦不能になったセダンは悲鳴のような激しいスキール音を鳴らしながらスピンし、そのまま後続にいる仲間のセダンに激突する。


「油断すんな。まだ後ろにいる」


 すると今度は後方から乾いた発砲音が3発鳴り響く。エリックが確認すると、窓から拳銃を覗かしているセダンが近づいていた。


「この野郎、銀狼ヴォルフに傷がついたらどーすんだ!」


 エリックは瞬時に魔法陣の術式を書き換え、冷気を帯びた魔弾をセダンのボンネットめがけて一発放った。


 魔弾がエンジンルームに着弾すると、みるみるうちに氷――エーテルによって作られた――が出現しエンジンを始めとした機器類を凍りつかせる。氷漬けにされたエンジンは絶対零度の冷気に耐え切れずストップしてしまう。


「おい……なんか寒くねえか?」


 気がつくと運転手の手はハンドルごと氷に覆われていた。2人は必死になって脱出を試みるが氷と冷気は徐々に車内全体へと広がり、やがてセダンは中の乗員もろとも氷に覆い尽くされ停車してしまう。


「さーて残るは親玉だけだ」


 エリックは再びデザートイーグルを構えM4に向けて魔弾を放つ。が、M4はまるで弾丸が見えているかのように次々と避けていき、徐々に距離を詰めていく。一方のセブンはスピードを出せないぶん、巧みなブロックや一般車を利用した足止めを駆使しM4の接近を阻止している。


 高速走行下での操作ミスはそのまま死を意味する。いつしか彼女の呼吸は少し荒くなりハンドルを握る手にはじんわりと汗が流れていた。両車両とも辺り一帯に甲高いスキール音を撒き散らしながら熾烈なカーチェイスを繰り広げていた。


「野郎……なら!」


 目にも止まらぬ速さで弾倉を交換すると銃口に白い魔法陣を展開し一発の弾丸が発射される。氷や雷といった属性を帯びていない見た目は普通の弾丸だ――ただ一つ点を除けば。


 M4が避けるとまるで追尾機能がついたミサイルのように向きを変える魔弾。あらゆる物理法則、因果を捻じ曲げ対象を追跡するさまは、まさしくかの魔弾――フライクーゲルそのものであった。悪魔の力を持つそれに狙われれば逃られるのは100%不可能である。











「何……?」


 使の話だが。


 エリックがM4を注視すると、助手席に座っている男が何やら呪文のようなものを唱えていた。


「チッ……あのM4、魔術師を乗せてんな……こうなったら」


 するとエリックは屋根に手をかけ上半身を窓の外へと出して屋根の上に上がろうとする。


「セブン、俺が屋根に登ったら減速してM4に近づけてくれ」


 そしてエリックが登り終えるとセブンはシフトダウンで減速し、後ろを走るM4との距離を縮めた。スピードダウンしたと言っても時速80キロという速さだ。常人であればそんなスピードで走る車の屋根の上に立てるはずがない。だが、彼は激しく吹きつける風にびくともせずに屋根の上に立ちM4の方へと体を向けた。


「一体何をするつもりなのですか?」


「こうすんだよ!!」


 天井からドンという音が響いたその瞬間、エリックの体は宙を舞っていた。


「な……何だアイツ狂ってんのか!?ブチのめしちまえ!!」


氷槍アイシクル・ランス!!」


 短縮詠唱による氷魔術でエリックを迎撃する。が、氷の槍は一発だけ頬をかすめただけでほとんどが彼の早撃ちによる防御壁シールドの展開によって防がれてしまう。


「よっと」


 エリックは何食わぬ顔でボンネットへと着地する。運転手は必死になって振り払おうとハンドルを左右に切るが振り落とせない。


「どうもごきげんよう!!」


 にたりと笑いながら拳でガラスを破り、車内にいる二人に電気を帯びた魔弾を撃ち込み無力化する。


「セブン、今からそっちに行く」


 二人を車から落としRX-7の真横まで走らせると窓から器用に助手席に乗り移った。運転手がいなくなったM4は操縦不能になり後続を走っている車数台を巻き込みながらやがて壁に激突し爆発、炎上した。


「あーあ、今更だけどもったいねえ」


「まさかあの車を持ち帰るつもりだったのですか?もし細工でもされてたらどうするんです」


「まあそうだけどよ……」


 再び後方を確認するエリック。自分達を追ってくる車がもういないと分かると安堵のため息を漏らした。


「これ……もしかしたら俺達のこと監視されてるっぽいな」


「では優吾のところにも」


「ああ、そのうちちょっかいかけに来るだろうな。一応和葉には後で連絡するつもりさ」


 気がつけば、空はすっかり暗くなっていた。ウロボロスの追手を見事振り払い、二人を乗せたRX-7は一路群馬へと向かう。





『……分かった。燕青にも伝えておくよ』


「頼んだ」


 店に戻り、和葉への連絡を済ませるとエリックはジャックとセブンがいる食堂へと向かう。


「電話は済んだか?」


「ああ。それでジャック、話って何なんだよ?」


 ジャックはテーブルにタブレット端末を置き、そこに日本地図を表示させた。


「ウロボロスの秘密研究所の場所を割り出した」


「おおマジか!」


「場所は新潟県北部、日本海沿岸のとある地域だ。ソアラの情報によるとどうやら以前は別の場所にあったみたいだが今年になってこの場所に移ったみたいだな」


 地図上に刺さっている赤いピンをタップすると、その周辺を撮影した衛生写真が映し出された。しかし、どこをさがしても研究所らしき建物が見当たらない。ジャックは海岸沿いにある木が生い茂っている場所を拡大し指差す。


「この森みたいなところに研究所がある。よく見ると工場みたいなのも併設されててご丁寧に衛生写真に映らないよう特殊な迷彩まで施している」


「なぜこんな場所に工場があるのでしょうか?」


「地図にして左上にスワイプしてみな」


 エリックに言われるままセブンは地図を左上にスワイプしていく。陸を離れそのまま日本海を渡っていくと、その理由が明らかとなった。


「ここは……ウラジオストクの近くですね」


「そうだ、ここで作られた兵器とかをロシア本国へ秘密裏に輸出してるんだ。あそこはウロボロスとズブだからな。世界を裏で支配する会社と大国相手じゃ、流石に日本も口出しできねえから泣く泣く黙認してるって状況だ。しかもこの場所はちょうどフォッサマグナの真上にある。この真下には大量のエーテルが埋蔵されてるうえに凶界孔が発生している場所が密集しているから奴らにとっては絶好の立地条件なんだよ」


「なるほど……」


 ふと、セブンは部屋の周りを見渡した。


「ジャック、ナターシャは?」


「ああ、ナターシャなら……」

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凶界の吸血鬼〜(不)完全無欠のダンピールと吸血鬼の姫〜 管理人 @Omothymus_schioedtei

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