第14話 生まれて初めて後悔を知った
まずは部下に生徒の応急処置を施すよう命じて、自分はディールの怪我の具合を診る。外見に反して度合いは酷くはない。これならすぐに治るだろう。
などとすぐに
失神したなかには指導を行ったばかりのロゼッタの姿がある。
エカテリーナの性格を知り尽くしているハイパーにしてみれば、目を背けたくなるほどの惨状だとしても、これはまだ食事の途中といったところ。
エカテリーナの姿がないとすれば場所を移してメインディッシュに取り掛かっている。つまり首謀者は別にいる。
事件にロゼッタが関わり、彼女が前菜だとすれば。首謀者は彼女の関係者。親しい人物。
「………仕組んだのはアドニス・デカルトか。あーあー、エカテリーナも面倒な奴を相手にしやがって。いくらなんでも相手が悪い。あいつの剣の
「ハイパー教官! 奥で誰かが暴れているようです!」
「俺たちに簡単に見つかるほどド派手なパーティしてるってのかよ………わかった。俺が行く。諸君らは彼らを収容し、治療後に聴取するように。このディール・アンパシーは俺が行うので、別室に収容してくれ」
「ハッ!」
エカテリーナが絡んだ事件の最中にて、後悔をしている暇はない。騒動を
ーーーーーーー
アドニス・デカルトは、生まれて初めて後悔を知った。
数分前、自分は確かにこう告げた。「精々怯え、命乞いをしながら逃げ纏うがいい」と。
しかしこの状況はなんだ。とアドニスは自分がどのような状態に陥っているのか認識していながら、現実逃避に浸りたくなった。
「アハハハハ! 待て待てぇ。ですわぁ」
なぜ自分は前にいて、彼女が後ろにいるのだろう。
改めて観察するとエカテリーナという後輩は、美しい女性だった。
満面の笑みは一切の
小柄で
そんな少女に追いかけられるのも悪くない––––わけがない。
これまでアドニスが後悔という感情を覚えなかったのは、その家柄と、王家の後ろ盾と、自らが築き上げた嗜虐的な性格による裏の仕事による自信だ。
しかしエカテリーナという頭が狂っているとしか思えない女は、デカルト家を敵に回しかねない事実を承認していながら、今もアドニスを亡き者にせんと距離を詰めてくる。
猛然と追尾する狂戦士のような女は、華やかさを従えてはいるが右腕が不相応である。アドニスがすでに泣きたくなっていたほどに。
アドニスは初手で誤った。最高の
相手の武装を奪うはずが、まさか初手で自分の武装を奪われたアドニスは、
それでもエカテリーナはアドニスを許さなかった。丸腰の男相手にグランドピアノだったものを振り上げ、猛追しているのだ。
しかもアドニスの宝剣が突き立ったグランドピアノから、今もなおパーツが
アドニスが
まさに高機動。
元々アドニスの宝剣を一瞬の油断にうちにぶち折るほど
「待て待てぇ!」
「い、ギィィィイイイイ!?」
恐怖を呑み込み、振り返ると幸運なことにエカテリーナがグランドピアノを投げたことを認識する。もしコンマ一秒でも遅れていたら巻き込まれていた。
貴族の息子という高貴な身分とは思えないほど、全力の回避モーションでなければ片腕か片足かが持っていかれた。汚れた地面に身を放り出して前転してこそ可能にした回避。
「あらあら。避けるのがお上手ですわね。虫ケラ」
「ひぎぃっ」
偶然そこにあった樹木を叩き折って止まるグランドピアノを引き抜いて、追尾を再開するエカテリーナ。
完全にアドニスを狩りに来ていた。怪我を負わせることになんの
「ほら。命乞いをしながらお逃げなさって? アドニス様」
「も、ももも、申し訳ない! 謝る! 謝るからどうか命ばかりは助けてほしい!」
エカテリーナに投げた台詞を、まさか自分で述べるとは数分前の自分は思わなかっただろう。
弾けぬなら・投げてしまえ・大洋琴 桐生 夜縫 @kiryuyonu
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