第13話 ご高尚な心掛けですわ
エカテリーナは冷笑を
そしてアドニスは、逃げられないであろう絶対的なバッドエンドから、なんとしても逃げるべく策を巡らせる。
二秒で思い付いた最善。
それは手近にいた取り巻きのひとりを生贄に捧げることだった。
「ぉぎゃっ!?」
なにを告げるわけでもなく、同級生のひとりの尻を蹴る。正中線に突き立った爪先から繰り出された衝撃に前のめりとなった少年はたたらを踏んでエカテリーナとの中間に立った。
「あら。あなたから死を教わりたいのですか? それはそれは。ご
「ち、ちが、違う違う違う違う違う違う!」
先日、失禁して腰を抜かしたばかりの少年は、アドニスの身代わりにされたと察知した瞬間にまた今日も失禁した。
誰だって死にたくはない。もうなりふり構っていられない。
猛獣の檻に放り込まれるがごとく。それでも言葉は通じるので盛大に漏らしながら否定する。
同時に歩くごとに足元に盛大な水溜りを生産しながら、エカテリーナの間合いに入るや体勢を低く。まるで顔面を地面に擦り付けるかのような自虐的なスライディングを敢行。
投降と自虐を織り交ぜた服従の姿勢。
「………フン。つまらねー、ですわぁ」
鼻を鳴らし、板きれと化した上級者を跨ぎながらエカテリーナは不発に終わった最初のトラップをクリアする。
アドニスにすれば蹴飛ばした下僕がエカテリーナを押し倒し、数秒の隙ができれば宝剣を叩き込む算段を講じていたものの、
「さぁ。お次はどなたが豚のような悲鳴を
廃材と化したグランドピアノをルンルンと
平伏すればグランドピアノの餌食にはならないが、翌日から「下級生に命乞いをした上級者」という汚名が拡散されてしまう。アドニスにとってはなんとしてでも回避したい屈辱だ。
ところが、
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁああああああっ」
アドニスの下僕と成り下がった面々は、昨日のトラウマが再発し、失禁しながら降伏を選択。命が余程大切なのだろう。
現に大破したグランドピアノからは様々なパーツが今もばら撒かれているが、総重量は成人男性であっても単独で受け止められるものではない。
よって怯えるあまり泣き
「本当にどうしようもない。………しかし、あなた様は違いますわよね? アドニス様。わたくしをこのような血で血を洗うパーティにお誘いくださったのですから、最後までわたくしと踊ってくださいませ?」
「くっ………い、いいだろう。格の違いを見せてあげよう。精々怯え、命乞いをしながら逃げ纏うがいい!」
アドニスの
エカテリーナの挑発を受けて、両手で握った宝剣を正中線に構える。剣の腕には自信がある。金属が混じっていようが、壊れかけた木製の塊を切断してしまえばエカテリーナを無力化できる。
短く息を吸い、
ーーーーーーーー
「なんだ………これは………」
エカテリーナとアドニスの私闘が行われてから数分後。
誰かの悲鳴と倒壊音を聞きつけたハイパーは、数人の部下を引き連れて現場に急行した。
そこで目にしたのは、目を疑いたくなるほどの
廃棄物収集場は学園内でも貴族の子供に相応しくない場所のひとつで、近寄ることさえ忌避されている。
そんな生徒と教官の共通の認識を
ハイパーの予想として、ここで開戦したことは間違いない。
なぜなら二年生らが失神して倒れていたからだ。外傷もあるが深傷ではない。
そんなことができるのはハイパーの知る限りひとりしかいなかった。
そして、
「ったく………忠告しただろうが。深入りするなって。もうちょっと強めに言っておくべきだったか」
倒れている二年生のなかに先日指導と忠告をしたばかりのディールを発見し、呆れて嘆息する。二年生より酷い怪我をしていると見る限り、ここで暴行を受けて、発見したエカテリーナが激怒したというところだろう。
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