第29話 真相

当日。

いつもならアレクがオシャレなカクテルを作るところだが、今回はスーパーで買った缶酎ハイがテーブルに並んでいた。


「実習お疲れさまでした!乾杯!」

タケシが乾杯の音頭をとるのはゼミメンバーの恒例になっていた。


「その実習先どうだった?」

「そのケースはどう対応したの?」

「これって間違ってたのかな?」


各自が実習で感じた疑問などが会話の中心になっていた。

一通り実習の話が済み、各自ほろ酔いになったところで食事も終わった。


「ゲームしようぜぃ!」

何か考えてなのか、酔った勢いなのか、顔を紅潮させながらタケシは話す。


「いいね!いいね!」

俺以外は乗り気だった。


「大丈夫だろうな?」

タケシに小声で問いかける。

「もち。任せろって」

普段と違い酒の場面でのタケシは格段に信用性が低下する。


「じゃあ大富豪で!」


「好きだな~」

周りが少し呆れた声で応える。


「じゃあ何かしたいゲームありますかっ?ないでしょ?」

自慢げな表情でタケシは言う。


「じゃあ、王様ゲームは?」

“なんでお前が?”

正直驚いた。

提案したのはしずくだった。


「早くない?」

リコが少し焦った表情で返す。


「そう?こないだ楽しかったけどなぁ~」


嫌な思い出が蘇る。

今回はアレクがいないからさすがに前ほどではないかと勝手に安心した。


「とりあえず大富豪しようぜ!」

聞こえていなかったかのようにタケシは言う。


「分かった~」

無気力なしずくの回答で大富豪をすることになった。

毎回だが、このメンツで大富豪をしても負けるのは決まっている。

タケシとリコだ。


「また負けた~。もうお腹ちゃぽんちゃぽんなんだけど~」

タケシは顔がタコのようになり、リコは珍しくお腹が出ていた。


「よぉ~し、お待ちかねの王様ゲームといきますか~」

ベロベロのタケシが目を輝かせながら言う。


「ひとつ聞きたいんだけど、タケシ君とリコって付き合ってるんだよね?」

しずくには伝えていなかったらしい。


「知ってたんだ?」


「さすがに一時期から二人でいるところ見る機会が増えたし、気づくよね」

それはそうだ。

授業を隣で受けたり、男女でペアを組まないといけないときは二人がいつも一緒だったからだ。


「なんだ気づいてなかったのは達也だけか」


「それはこないだ話しただろ。学校に行ってないからだって」


「間違いない」


「いいわ。もうこの件」

俺とタケシだけが笑っていた。


「でも、急に何で聞いたんだ?」

一瞬、素に戻ったようにタケシはしずくに問いかける。


「いや、カップル増やしちゃったなぁ~と思って」


「ってことはもしかして......」


「そう!アレクと付き合った!」


「おめでとう!」

タケシとリコは満面の笑みで祝福している。


「いついつ?」


「実は年始には付き合ってたの」


「達也聞いてた?」


「いや、まったく」


「アレクのやつ、俺らにも言わないなんて酷い奴だな~」


「ちがうの!私が伏せといてもらったんだよ。みんな実習とかで忙しいし、気を遣わせると悪いなと思って」


「別に気を遣うことじゃなくね?普通にお祝いしたのにさ」


「なんか私が気にしちゃってさ。だから、王様ゲームとか、暴露する機会を作ろうと思ってさ」


“そういうことか”

付き合ったというのに王様ゲームを自ら言い出すのは不思議で仕方なかったが、説明を聞いて理解した。


「で、王様ゲームはどうする?」

悪い顔でタケシは話す。

もちろん今のが目的なら続ける理由はないだろう。


「せっかくだし、やろうよ」

“は?なんで?”

またしてもしずくだった。

タケシとリコも少し困惑していたが、タケシも言い出した手前引けなくなっていた。


「そうだな......じゃあやるか!」

割り箸をひく。


「王様だ~れだ?」


「はい」

まさかの初っ端に引いてしまう。


「じゃあどうぞ」


「じゃあ3番が王様だけに何か暴露するとか」


「そうやってすんのさ?」


「別の部屋で耳打ちとか?」


「オッケー!じゃあ3番だーれ?」


「はーい!」

しずくだった。

正直暴露される予想をするものはあるが、そうでないことを祈っていた。


「じゃあ隣の部屋で暴露お願いしまーす」

気楽なタケシの声に苛立ちを感じた。


隣の部屋に移動するなり

「こないだリコから聞いたんだよね?」

思い当たるものは一つしかなかった。


「何のことか分からないけど、聞いたんじゃないかな」


「じゃあ話は早いね。私がカスミに仕返しを促したのは事実だよ。でもそれをお願いしてきたのはキョウコ自身だよ。これで暴露はおしまいだね」

一番聞きたくない内容だった。

真偽は分からないが、嘘をつく必要がしずくには無い。

ましてや二人しかいない状態で嘘をつくなんて、こちらに気がある場合を除いて何もメリットはない。アレクと付き合ったということをわざわざ言った後にそれはないだろう。

ほぼ間違いなく真実だ。

聞きたかった話が円滑に聞けたのは良かった。

ただ、これを聞いてどうする?

自問自答を繰り返していた。


「まーだー?何かしてるんじゃないだろうなぁ~」

タケシの笑い声に再度いらだった。

「聞きたいことあるかもしれないけど、私はただ頼まれただけだから理由とかは知らないし、聞かれても分からないから、何かあるならキョウコ自身に聞いてね」


「わかった」


リビングに戻るとタケシとリコがイチャイチャしていた。

こちらの暴露に興味などない様子だった。

しずくと空気を読んで帰ることにした。


帰りも方向が同じだったため歩きながら少し話していた。


「私とキョウコの母親は親友なんだよね。だからキョウコのお母さんのことを話に聞いたことはあるけど、あんまり関わらない方が良いと思うよ。キョウコも少し普通とは違うと思うし」


「どういうこと?」


「お母さんヒステリックを起こすんだけど、そのたびに夜中に出て行って手を血だらけにして帰ってくるんだって」


「何それ?」


「私も詳しくは分からないけど、キョウコが昔話してた。キョウコ自身もついていったことがあるって言ってたけど、何をしているのかは教えてくれなかったよ」


「そっか。ありがとう」


「あんあり人のこと話すのは気が進まないけど、キョウコの元カレの話聞いた?」


「あぁ、何か亡くなった人がいるって」


「知ってるんだ。あれも何か隠してる感じだったんだよね」


「何を?」


「それは分からないけど、お母さんが絡んでるのは間違いないと思う。で、どうするの?今日の話を含めてキョウコに聞くの?」


「いや、今は向こうも実習中だし、いきなりだとしずくにも何かあるかもしれないから少し様子見ながらどこかで聞くわ」


「そっか。お気遣いどうも。でも、手遅れにならないようにね」


「冗談でもやめてくんない?」


「あはは!そうだね!じゃあもう着くから。バイバイ!」


「バイバイ」


毎回そうだ。

何か話を聞くたびに不安と恐怖が出てくる。

今回の話でキョウコ自身に対しても不信感が湧いた。

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