第28話 葛藤と困惑

実習への不安と緊張から一日が過ぎるのが異常に早く感じていた。

実習が始まってからも時間が過ぎるのはあっという間だった。


1回目の実習地は候補地のなかでも厳しいと有名な施設だったが、睡眠時間を削り何とか乗り切った。2回目の実習は一職員として雇用されているような感覚で、就職したときのイメージをつけることができた。心配だったのは地方での実習であり、初めての一人暮らしということだったが、高校時代の寮生活の経験が活き、生活面でも苦労することはなかった。


合計約5ヶ月の実習期間が終了し、キョウコと出会って2回目の紅葉の季節を迎えていた。


実習が終っての開放感と達成感から学校に行くことが億劫になっていた。


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明後日は抜き打ちの小テストがあるらしいから学校来いよ!

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タケシからだった。


タケシが知っている時点で抜き打ちじゃないだろうと思いながら

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サンキュ。助かる。

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と返信しておいた。

せっかく学校に行くなら、しずくの件もついでに確認しようと思っていた。


「良かった。ちゃんと来たな」


「さすがに連絡されてこないのはヤバイだろ」


「間違いない」


久しぶりの再会だったが、変わらずの距離感で安心した。


「そーいや全然聞いてなかったけど、リコと付き合ったんだって?」


「言ってなかったっけ?てか、お前が学校来ないからだろ」


「間違いない」


互いに顔を見合わせて笑いをこらえていた。


「で、その後は順調なのか?」


「さすがにこの歳になって、数日で別れるほど適当な付き合いはしないよ」

さすが優秀な奴は違うと感心していた。


「お前こそキョウコとはどうなんだよ?」


「特に変わりないけどな。一つ気になることがあってさ」


「何?」


「前にカスミの友人から嫌がらせされたりとかあったっしょ?」


「あぁ~もう懐かしく感じるな」


「こないだクリスマスのときに暴露大会みたいなのお前が提案したの覚えてるか?」


「悪い。正直、全然記憶にない」


「だろうな」

申し訳なさげにタケシは笑っていた。


「そのときリコが最後に暴露することになって、その内容がカスミに仕返しすることを促したのはしずくだったって言ってたんだ」


「あぁ。それ知ってたんだな」


「ん?タケシも知ってたのか?」


「付き合ってからリコから聞いたんだ」


「そっか。それは一旦いいとして、しずくとキョウコは実は幼馴染で、親同士も仲が良いみたいなんだ」


「そうなのか?じゃあ尚更なんで?」


「それが分からないから困ってんだよ」


「そういうことか。それでどうするつもりなんだ?」


「正直終わったことだし、流そうかとも思ってたんだけど、違うことでまた何かあっても嫌だからさ。直接しずくに聞いてみようかと思ってる」


「それはまずくないか?仮にしずくがキョウコ自身から頼まれて悲劇のヒロインになりたいみたいなんだったらどうする?」


「それはないと思いたい。ただ、キョウコの母親からの指示だった場合がよけいにややこしいんだよ」


「たしかにな。実際、キョウコ自身とか母親とかからの指示だった場合、達也はどうするんだ?」

聞かれて初めて考えた。


たしかにそうだ。

仮に母親だったとしても今後も付き合いがあるだろうし、付き合い方を考える?いやいや、付き合っていくこと自体が難しくなって当然だ。


「正直、どうするかまでは考えてなかったわ」


「気になる気持ちは分かるけど、難しいところだよな」


「かといって、聞かずにまた面倒を起こされるのも御免だけどな」


「間違いない」

同じようなくだりに笑ってしまった。


「やっぱ確認するわ。自作自演だったとしても、母親だったとしてもさすがに付き合い続けるのは難しいし、結婚とか言われても困るしな」


「相変わらずドライだな」


「冷静と言ってくれ」


「バーカ」




「と、いうことで協力してくれ」


「何を?」


「しずくと話す機会が欲しいけど、アレクのこともあるし、二人で会うのはあまり芳しくない気がしてる」


「たしかにな。ましてや実習中でいないときにとなると尚更だな」


「そ。だから、実習終わりの打ち上げ的な感じで何人か集めて、それとなく話せる機会を作ってほしいんだ」


「それなら多分できるな。リコにも経緯を話して良いか?」


「もちろん大丈夫」


「分かった。じゃあリコと話して日程とか調整するわ」


「頼むわ。ありがとう」

人のことにも関わらず、ここまで協力してくれる友人をもてたことを改めて喜んだ。

タケシからリコに話したところ、リコも気になっていたらしく協力してくれることになった。

いつもならアレクの家だが、リコが一人暮らしを始めていたので、リコの家で「引っ越し祝い」という名目で集まることになった。

ゼミ以外の友人にも声はかけたが、結局集まったのは俺、タケシ、リコ、しずくの4人だった。


「ちょっと聞きづらいメンツだな」

なんとなく感じたことをタケシに伝えた。


「そうか?しずくは分かってないだけで、こっちは全員事情を知ってるし、むしろ聞きやすいんじゃないか?」


「単純にことが進めばいいけどな」

若干嫌な予感がしていた。

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