第27話 贈り物

翌日からはバイトに勤しんだ。

忙しくしていると何も考えなくて都合がよかった。

気づけば大学生の短い冬休みも終わりに近づき、憂鬱な学校生活が始まろうとしていた。

学校が始まったらすぐに確認したいことがあった。

しずくのことだ。


キョウコ自身が関係していれば、キョウコへ確認しても、うやむやにされるのは目に見えている。ならば、しずく本人に確認するのが早いと思った。

ただ、アレクのこともあり、ややこしくはしたくなかったので、ゼミで集まる機会を探っていた。


今年は各自が月単位の実習に行くため、全員で集まる機会は多くなく、どのタイミングで誰が実習に行くのかで集まるにしてもメンツが変わる。

ひとまずはその発表を待つことにした。


何の変哲もない日常。

それが久しぶりのように感じていた。

会話も初詣からバレンタインの話題へと変わっていった頃、実習期間の発表があった。


俺とタケシ、しずく、リコは春から夏にかけての期間で秋以降は国家試験の勉強として、授業のほとんどが自習になる予定だった。アレクとマヤは夏~秋の期間だった。


“実習が終ったら確認しよう”

これといった問題が起きることもなくなり、自分の中でも確認する必要があるのか曖昧になっていた。

「もし覚えていたら」ぐらいに思っていた。


実習前は研究とバイトでみんな慌ただしい日々を過ごしていた。

キョウコとは定期的に連絡を取っていたが、会う機会は必然的に減っていた。

二人の間で記念日は一緒に過ごすということだけ決めていて、バレンタインはお返しなども面倒だからと互いに無しにしようと決めていた。


「達也欲しい物ある?」


そうキョウコに聞かれて自身の誕生日が近いことを思い出した。

「なにもいらないよ」

キョウコと付き合ってから、以前よりは買い物に出かける機会も増え、少ない物欲も満たされていた。


「さすがに何もなしだと私も言いづらくなるじゃん!」

気遣いなのか本心なのか、キョウコの誕生日が来ることが少し怖くなった。


「強いて言うならでもないの?」

困った顔でキョウコはこちらを見ている。


「強いて言うなら......財布かな」

物欲はないし、使えなくなるまで物を使うことが多かったが、財布だけは少し気にした方が良いかと思っていた。


「いいじゃん!財布ね!せっかくなら使ってほしいし、気に入るやつを見にいこうよ!」


実習の前に財布を見に行くことになった。



「なんか久しぶりだね!」


学校帰り以外で会うのは初詣以来だった。


「お互い忙しかったしね」


「会いたいって思ってくれた?」

いつもの悪戯っ子の顔で聞いてくる。


「思った思った」

“しまった”


「あ~二回言ったな~さては思ってなかったな?」

いつも以上に悪い顔だ。


「思ってたって!」

勢いが余る。


「冗談だよ!ムキになっちゃてかわいいんだから」


「やめろ」

皮肉を言われながらも、いつも通りのキョウコに安心した。


財布はすぐに決まった。

希望は「黒」という色だけで、あとは全てキョウコに任せたからだ。

次いつ会えるかわからなかったため、その場でプレゼントしてもらった。

財布だけでは物足りないと夕食もキョウコが考えてくれ、案内されるがままに予約先へと向かった。


“今日は変なところにつれていかれないよな”

始めてのデートを思い出していた。


「そういえば、クリスマスはしずくとは何か話したの?」

いきなりの問いに動揺してしまった。


「やっぱ何か聞いたんだね。何を話したの?」


「昔から知り合いだったとかかな」

探り探り答えるしかなかった。


「そっか......そうなんだよね!幼馴染み的な!それだけなんだけどね!」

明らかに何か隠している様子だったが、追求はしないでおいた。


「今日のご飯はここ!」

目の前には高層ビルが建っている。


「ここ?」


「そう!ここの最上階にある創作料理屋さん」


「相変わらずお店良く知ってるね」


「前も言ったじゃん!ママに教えてもらうって」

「そっか、お義母さん元の仕事柄色々知ってて当然か」


「そうそう。だからお店とかは任せて!」


「心強いわ」


「たまには店も考えてよね!」


「ごめん」


「だから冗談だってば!」

自然と笑顔になれる。

この瞬間はやっぱり好きだった。


お店は大学生が来るような雰囲気ではなかった。

ラフな服装で来てしまった自分を恥じていた。

出てくる食事は全て見た目からこだわっているのが分かり、食事は当然のようにおいしかった。ただ、高級店あるあるで大学生の俺には量は物足りなかった。


「〆にラーメンでも行く?」

こういう男心が分かってくれるのはありがたい。


堅物そうな親父さんの店でラーメンを並んですすった。


「しずくはさ、ママの親友のこどもなんだよね」

“食べ終わっていてよかった”


「そうなんだ」


「昔からママは私を悩ませることするんだよね。でもママ的にはそれが私のためなんだってさ」

今にも泣き出しそうな表情でキョウコが話す姿を見て、しずくの一件はお義母さんとしずくのやり取りで起きたことだと勝手に解釈した。


「そっか......それはキョウコとしてはどうなの?」


「私は望んでないことを伝えたことはあるけど、そのたびにママは昔の話とか出してきてヒステリックになってしまうから、あんまり言わないようにしてるんだ」


しずくがカスミに嗾けたことを伝える気にはなれなかった。


「そろそろ帰ろっか!」


何事もなかったかのような表情のキョウコを見て、心が締め付けられた。

互いに実習を頑張ろうと励まし合い、帰路についた。

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