炸裂☆モンティー学園

Tsuyoshi

第1話虎寅虎

 暗く無限に広がる宇宙の闇。その暗闇の中に一つ、青く輝く星があった。地球だ。


「ウホホホー・・・・・・」


 その美しい星を小型の衛星機の窓から、うっとりと眺める一頭のオランウータン。  

 夜空の下で光り輝く幻想的で広大な海、ロマンチックな光景にオランウータンは心奪われていた。

 しかし、突如地表に小爆発が起きた。一つ、二つ、次第に戦火が広がっていく。灰色の雲、赤い炎、それらがオランウータンの純粋で穢(けが)れの無いつぶらな瞳に映る。

 絶望を目の当たりにするオランウータンに更に追い打ちをかけるように、衛星機内に警報アラームが突然鳴り始めた。それと同時に激しい揺れが襲い掛かる。衛星機の軌道が変わり、地球の重力に引き寄せられ始めたのだ。

 火の海が間近に迫り来る光景に、オランウータンの表情が引き攣(つ)る。恐怖でパニック状態に陥り涙と鼻水が宙を漂う。

 そして、衛星機は大気圏に突入し赤熱した。


「ウキィーーーーーーーー‼」


 窓に映るは赤い炎。オランウータンの絶叫は衛星機と共に炎の中に飲み込まれていった。



 それから数日、数週間、数か月。いや、正確にはどれだけの時間が流れたのかは分からない。


「・・・・・・キキィ」


 オランウータンが目を覚ました。自分が今どんな状況なのか、一瞬飲み込めなかったが、意識が途切れる前の記憶がフラッシュバックされて思い出した。オランウータンは自分の体を触ったり、匂いを嗅いだりして、精神を落ち着かせる。

 生きている事を実感し、安堵したオランウータンだったが、外がどうなっているのか気になり始めた。恐る恐る窓の外を覗き込む。そこには灰色の世界が広がっていた。

 自分が宇宙に打ち上げられる際、人間から教え込まれていた知識を思い出し、オランウータンはポッド搭乗口のロックを解除する。ボタンを押してレバーを引くと、プシューと音を立てハッチが開いた。

 オランウータンが震えながら搭乗口に手を掛け、地面に足を踏み出す。コンクリートに細かい塵が積もる感触が、足の裏に伝わる。辺りを見渡すと、そこには荒廃しきった世界が広がっていた。崩れた建物の残骸、かつて道路だった痕跡、風に舞う砂埃、とても人間がいるとは思えない光景だった。

 人間の姿は見えないが、全ての生物が根絶したわけではないようだった。地を這う虫の姿に、どこからともなく聴こえてくる鳥の声。オランウータンは自分以外の生物を探しに、この荒廃した街だった痕跡を歩いてく。突然崩れ落ちる瓦礫(がれき)に警戒しながら、慎重に歩を進める。

 街を歩いている途中、何匹か野生動物を見かけた。しかしどれも警戒しているのか、オランウータンの姿を見ると逃げてしまう。仲間になり得る動物はいないのか、そう感じていた時、犬と猿のけたたましい鳴き声がオランウータンの耳に入ってきた。オランウータンはただ事ではない、そう判断すると同時に、声の方向に駆けていった。

 そして駆け付けた先には、一匹の野犬が二匹のニホンザルに今にも飛び掛かりそうな勢いで唸り、吠えていた。猿達はつがいのようで、オスの猿がメスの猿を庇(かば)うように、犬の前に立ち塞がっている。しかし、実力差が分かっているのか、猿の方は及び腰だ。

 野犬が牙を剥(む)き出し、猿に飛び掛かる。猿は恐怖で固く目を閉じる。


「キャインッ‼」


 来るはずの痛みが来ない、代わりに犬の怯える声が聞こえる。そして頭を撫でるような優しい感触。猿は恐る恐る目を開けると、目の前には彼らに優しく微笑みを向けるオランウータン・・・・・・そして自分達に背を向けて尾を丸めて逃げる野犬の姿が映った。

 それからオランウータンは再び歩き出した。今度は一頭ではなく、先程の猿達と一緒に三匹で歩いている。猿が途中何かの音に気付き、オランウータンの腕を引っ張る。オランウータンが目を閉じて耳を澄ます。風鳴りのようにも聞こえるが、何かの雄叫びにも聞こえる。

 音の方向に注意深く進むと、横倒しになったビルの瓦礫が見えてきた。音もどんどん大きくなっていく。音の正体は声だった。助けを求める叫びだ。その叫びは積み重なった瓦礫の中から聞こえていた。

 オランウータンと猿達が協力して、一つ一つ、瓦礫をどかしていく。助けを求める声の主はすぐそこだ。三匹は懸命に救助作業を続ける。遂に見えてきた。黒い剛毛に覆われた太い腕。

 腕の主は外の空気を感じたのか、自分も藻掻(もが)き脱出を試みる。三匹が多くの瓦礫をどかしてくれていたお陰で、自分の上に乗る残骸(ざんがい)を押しのけ、再び外の世界に出られた。瓦礫の中から出てきたのはシルバーバックのマウンテンゴリラだった。

 ゴリラを助けた後、オランウータンは再び街を見渡す。人間が築いた文明が崩れ去ったこの景色を見て、オランウータンは無性に悲しい気持ちが沸き上がってきた。その気持ちは猿達やゴリラにも伝染する。

 自分を助けてくれた三匹が悲しむ姿を見たゴリラも悲しくなり下を向く。すると瓦礫の中で何かが光った。薄汚れた黒いサングラスのフレームが光を反射していた。ゴリラはサングラスを手に取り、悲しみに暮れる三匹の前に立つ。

 ゴリラはおもむろにサングラスをかけて外す、その行為を繰り返した。ゴリラはその何気ない行動で皆の気分を和ませようとしているのか、いないいないばぁの要領で付け外しをする度に変顔をしている。ニホンザルのつがいはゴリラの仕草と顔に笑わされ、腹を抱えて転がっていた。

 絶望的な世界の中でも、こうした彼らの平和的な光景にオランウータンは和み、そして同時に救われた気がした。

 また仲間を探しに、そう思い、オランウータンは次にどちらに行こうかと周囲を眺める。見回した先の灰色の世界にポツンと一つ、小さな赤色があった。オランウータンがその赤い何かに近づくと、それはランドセルだった。瓦礫の隙間から色を放っていたのだ。

 ランドセルを手に取ると、何かが中に入っている。表面の砂汚れを払い、ランドセルを破ってしまわないように、慎重に下部の留め具を外す。逆さまに持っていたせいで、蓋(ふた)が外れたランドセルから、バサバサとノートや教科書が数冊落ちていった。

 オランウータンが算数の教科書を手に取る。ゴリラ達もオランウータンの行動に興味津々のようで、じっと見つめている。オランウータンが教科書を開く。そこには足し算や引き算、掛け算に割り算が書かれていた。ゴリラ達も後ろから教科書を覗き込むが、何が書いてあるのかさっぱり分からない。

 しかし、オランウータンにはなんとか理解出来るらしい。身体をブルブルと震わせていた。この荒廃した世界の再生、それを決意したかのようにオランウータンが両手で教科書を天高く掲げた。天使の梯子(はしご)が後光の如く降り注いだ。



 それから数十年後・・・・・・そこには『モンティー学園』が設立され、猿達の社会が出来ていた。荒廃した世界はそこになく、緑と新旧の文明が入り混じる世となり、知能を持った動物達の楽園が広がっていた。

 オスとメスの若いニホンザル達がド派手な髪型と学生服でモンティー学園に登校していた。所謂(いわゆる)ヤンキーのような恰好で、通称『モンチー』と呼ばれている。中には真面目そうな見た目の猿もいるが、全校生徒の三割程しかいないようだ。

 そんな生徒達を校長室から、オランウータンが優しい眼差しで眺めていた。校長の机の上には『七音(どれみ)校長』というネームプレートが置かれている。そして机の後ろにはガラスケースがあり、その中に古いボロボロの赤いランドセルが厳重に展示されていた。


「あら? ウフフフ、青春ね」


 彼女が見つめる先ではオスのモンチーとオス犬が、七色の綺麗な尾羽を持った雄クジャクを取り合って睨み合いをしているようだった。


「なんだコラ、テメェ。やんのか? お?」

「オレの可愛い子ちゃんに手ェ出すんじゃねぇよ」

「やだぁ、アタシを巡って争わないで~!」


 雄クジャクは尾羽を広げて二匹の争いにあたふたとしていた。そこに遠くから凄い勢いで近づいて来るドラミングの音。


「ゴルアァァァァ! お前ら何しとるんじゃあぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 スーツ姿でサングラスを着けたダンディーなゴリラが、激しく胸を叩きながら喧嘩をしている二匹に迫っていた。


「やっべ! 力(りき)先生だ!」

「逃げろ!」


 力の接近に慌てて散るモンチーとオス犬。取り残された雄クジャクはどうしたらいいのか分からずキョロキョロしていたが、


「お前も自分とこの学校に戻らんかー‼」


 という力の牙を剥き出した迫力満点の怒号に震駭(しんがい)し、羽根を撒き散らして逃げ去って行った。



 朝の教室ではモンチー達が騒いでいた。特に、モヒカン頭とツンツン頭、ロン毛のモンチーが一際うるさい。


「モヒカン、オメェの髪型イカシてんなぁ」

「だろ~? つーか、オメェもなかなか良い逆立ちじゃねぇか、ツンツン」

「オレも逆立てようかなぁ」

「おい、ロン毛。やめろや~、オレとキャラ被るだろうが。つーかさっきからモミアゲ何してんの?」


 ツンツンが教室の入り口で何かやっているモミアゲがモフモフになっているモンチーに声を掛ける。モミアゲは引き戸を僅(わず)かに開けて、戸に何か挟んでいるようだった。関係の無い周りのモンチーや生徒達も彼に注目しているうちに、何をしているのか何となく察した様子だった。


「まぁ、見てろや。お、お前ら、力先生来たぞ!」

「やべやべ!」


 モミアゲが教室のモンチー達に力が来た事を知らせる。慌てて自分の席に戻る生徒達。鼻歌混じりの力が近づいて来る。入口の仕掛けに注目して笑いを堪えるモンチー達。引き戸に手を掛けて勢いよく戸を開ける力。

 その瞬間、ボフッと音を立てて力の頭に黒板消しが直撃し、モクモクと白煙を立てた。その光景に噴き出す教室のモンチー達。真面目な生徒達は気まずそうに視線を逸らしている。


「誰じゃあぁぁぁぁ! こんなくだらん悪戯(いたずら)をした奴はぁぁぁぁぁぁ!」


 激昂(げっこう)した力が毛を逆立てて、笑っているモンチーに片っ端から、


「お前かー⁉ お前か⁉ それともお前かぁぁぁ‼」


 出席名簿の角で頭を叩いていく。


「あああああ‼ 頭が割れるーーーー‼」

「イデェェェェェェ‼ オ、オレじゃねぇッスよぉ!」


 頭を押さえて悶絶(もんぜつ)するモンチー達。


「犯人は誰だぁぁぁぁぁ⁉」


 力が胸をドラミングし始める。その際に力は、自分が怒り狂う光景と無関係のモンチー達が悶絶するのを見てゲラゲラ笑い転げるモミアゲに気付く。


「お前だな、モミアゲーーーー‼」


 力は両手で彼のモフモフのもみあげを掴み、


「もみあげフラーーーッシュ‼」


 そのまま両腕を思い切り上げ、モミアゲを持ち上げる。彼の両足は完全に宙に浮かんでいる。


「ああああああああっ‼ 抜ける‼ 抜ける‼ イダダダダダダダあっだだだだあ‼」


 主犯のモミアゲは自分のもみあげを庇うように力の両手を掴むが、想像を絶する痛みに涙と鼻水と涎(よだれ)を垂らして懺悔(ざんげ)する。



 気を取り直して、力は教壇に立ち、出席名簿を開いて点呼を取る。


「・・・・・・ウホン、これからホームルームと言いたいところだが、そこのバカチンのせいで時間が無くなった。早速一時間目の授業を始める」


 力が教壇の下からダンボールを取り出す。


「今日は算数のおさらいをするぞ」


 ダンボールの中からリンゴを二つ取り出す力。それを生徒の前に見せる。


「まずは引き算からだ。引き算は食べる事だ。二つのリンゴのうち一つを食べると・・・・・・」


 力はリンゴを丸かじりして、良い音を立てながら食べている。生徒やモンチー達は唾を飲みながら、力の様子を凝視している。力がリンゴを一つ食べ終わる。


「この通り、リンゴは一つになる。これが引き算だ。そして次は足し算だ。足し算は・・・・・・」


 力は再びダンボールからリンゴを一つ取り出す。


「おかわりする事だ」


 力が真面目な顔で生徒達に取り出したリンゴを突き出す。モンチー達も真面目にノートに力の授業内容を書き写している。その間に力が黒板に足し算と引き算が合わさった問題を書く。


「じゃあ、この問題出来る奴、手を挙げろ」


 力が問題を書き終わると生徒達の方に向き直す。その中で二人のモンチーが勢いよく手を挙げる。モヒカンとロン毛だ。


「センセー、オレ分かるよ!」

「は? お前絶対分かってねぇだろ!」

「んだコラ、やんのか!」


 二人は手を挙げたまま睨み合う。


「喧嘩はやめんか。そんなに自信があるなら、モヒカン、ロン毛、お前ら前に出てやってみろ」


 力がモヒカンとロン毛を指名し、二匹が黒板の前に立つ。問題は六引く三足す一だ。二匹は両手の指を折って、計算している。


「出来たぜ、センセー! 答えは三だ!」

「バッカじゃねぇの! 答えは二だよ!」


 モヒカンとロン毛が自信有り気に答えを書く。力が二匹の答えをチラッと一瞥(いちべつ)すると、


「どっちも違ぁぁぁぁぁぁう!」


 と力が二匹の額に強烈なデコピンをする。吹き飛ばされて額を押さえるモヒカンとロン毛。


「デ、デコが砕けるぅぅううううう‼」


 床で悶絶しながら転がる二匹を尻目に、力は先程のリンゴを使った説明をして答えを出す。


「・・・・・・それから一つおかわりして、答えは四だ。なんか質問あるか?」


 力の呼びかけに手を挙げる生徒がいた。力がその生徒を指名する。


「力先生! 割り算を教えて下さい!」

「おぉ、お前は勉強熱心だな。良いだろう、教えてやろう」


 力はダンボールからバナナを一本取り出す。


「割り算はな、こうやって・・・・・・」


 ポキッとバナナを真っ二つに折って、片方を前に突き出してみせた。


「これが二分の一だ。二つ合わせたら、ホレ、元の一本だろう?」


 力が折ったバナナの上にもう半分のバナナを乗せると、元のバナナの姿になる。それを見た生徒達が驚嘆(きょうたん)の声をあげる。そんな中、先程とは別の生徒が手を挙げる。


「先生、掛け算も教えて下さい!」


 力が手に持ったバナナとダンボールを交互に見つめる。


「うるさぁぁぁぁぁぁい‼ また今度な、今度‼」


 良い例えが出てこなかったのか、力は大声を張り上げて誤魔化した。彼はチャイムが鳴る少し前に、ダンボールを持って教室を出て行った。



 昼の休み時間、購買の売店には猿達が群がっていた。彼らの狙いはバナナパン。それはコッペパンにむき身のバナナを丸ごと一本挟んだシンプルな物だが、猿達には一番人気のパンだ。これを巡ってオスメス関係なく激しい争奪戦が繰り広げられている。

 そして校舎裏では、複数のオスのモンチー達が集まって、セクシーなメス猿が載った写真集を見ていた。


「ウッヒョー、この毛並みたまんねぇな!」

「この娘の尻エロいな。この赤みが良いっ!」


 しゃがんだモンチー達が鼻の下を伸ばしてだらしない表情で、頭上で両手を叩きながら大盛り上がりしていた。


「コラー! お前らこんなとこで何しとんじゃ!」


 モンチー達の頭上の窓がガラッと勢いよく開かれ、力が怒鳴りながら顔を窓から突き出す。


「やべっ! ゴリ先だ!」

「隠せ隠せっ!」


 モンチー達が慌ててセクシー本を自分達の背後に隠しながら後退る。しかしそれを見逃さない力。力は指をさして怒鳴る。


「おい、ロン毛! 後ろに隠したヤツ出せ!」

「な、なんの事ッスか・・・・・・?」


 ロン毛が口笛を吹きながら誤魔化すが、目が泳いでいる。他のモンチー達もロン毛を中心に密集して集まり、本の存在を隠そうとしていた。


「お前らバレバレなんだよ!」


 そう言って力が窓枠に足を掛けて、ロン毛の前に直地した。


「あっ、ちょっ、センセー!」

「モミアゲ、どけオラ!」


 ロン毛の真横にいたモミアゲをグイッと押しのけて、ロン毛の肩を掴んで彼が背後に隠したセクシー本を奪い取る。


「あっ・・・・・・」

「ロン毛、何だこの本は?」

「えっと~・・・・・・」


 力に本を眼前に突き付けられて、オドオドし始めるロン毛。


「学校に関係無い物を持ってくるな! 罰として・・・・・・」

「ひえぇやあぁぁぁ!」


 力がロン毛の両足を掴んで逆さまにする。そして自身の右足をロン毛の股間に当て、


「電気あんまの刑じゃああああああ‼」


 小刻みに右足を振動させ、電気あんまを炸裂させる。


「ぎゃあああああああ‼ アハハハハハハハ‼ や、やめてぇええええええ‼」


 未体験の刺激に泣き笑いながら悶絶するロン毛。


「・・・・・・ふぅ。今日はこのくらいにしといてやる。お前ら、授業に遅れるなよ」


 昼休み終了のチャイムが鳴り、力はロン毛を解放する。ロン毛は身体を小刻みに痙攣(けいれん)させており、汗と鼻水と涎を垂れ流して地面に横たわっていた。そんな彼を引き気味で見つめるモンチー達を背に、力は没収した写真集を持って去って行った。



 それから数時間後、放課の時間になった。音楽室でモミアゲとロン毛とツンツン、モヒカン達が派手な衣装を身に着けて、バンド活動をしていた。彼らは軽音部で、毎年干支(えと)に選ばれた動物へ捧げる歌を作っていた。

 ちなみに猿達は干支に選ばれた動物を敬う特有の文化を持っており、干支に選ばれれば犬猿の仲である犬に対しても一応敬意を持って接する。・・・・・・ただしあくまで「一応」だが。


「今年は寅年だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

「みんな、聴いてくれ! 虎(とら)寅(とら)虎(とら)おんど‼」


 ギターを持っているツンツンが、自分達の前に置いてあるカメラに向かってピックを向ける。この演奏はカメラを通して校内中のテレビに生演奏で放送されるのだ。

 ドラム担当のモヒカンがスティック同士を叩き合わせ、スタートの音頭(おんど)を取り、全員が肩でリズムを刻む。ドラムから音が入り、ギターのツンツンとベースのロン毛が続けて演奏を始めた。モミアゲもキーボードで音を合わせる。



  虎寅虎 トラトラトラ とらとら音頭だ

  YEAR――――――‼



「うるさあああああああああい‼」


 ガラガラガラッと勢いよく音楽室の扉を開けて、力が怒鳴りながら演奏中の彼らにドスドスと大きな足音を立てて近寄る。


「り、力先生⁉ いま生放送中ッス‼」

「うるさーい! わしが手本を見せてやるから、マイク貸せい!」


 力がツンツンの前に置かれてあるスタンドマイクの前に立ち、ツンツンを横に移動させる。そして室内の電気を消灯、天井のスポットライトを自分達に当て、ミラーボールを回す。


「ミュージック、スタート!」


 いつの間にか用意していた赤いストールとスーツの色に合わせた白ハットを身に着けた力は、カメラに向かって指を鳴らす。キラリと光を反射するサングラスが力のダンディズムを更に加速させる。



  虎の子渡しな時代でしょ

  雁字搦(がんじがら)めにならないで

  堂々と千里を歩もうぜ



 モンチー達の演奏に合わせて、力が渋い声で力強く、そしてしなやかに歌う。肩を揺らしながら指を弾いてリズムに乗る。



  大きいもの求めるのに 失敗してしまうかも

  なんて思ってちゃ 一歩も踏み出せないのさ



 教室に残っていた生徒達がテレビから流れる生放送に注目していた。


「力先生って歌上手いんだ」

「すごいダンディだよね」


 力の意外な歌唱力に聞き惚れる生徒達。



  松竹梅 松竹梅 松竹梅



 ツンツンとモミアゲとロン毛、モヒカンの四匹が合唱コーラスを入れる。



  イエローベース デンジャラスなあいつを起こそうぜ

  さあ、トラの尾踏んで踊ろうぜ!



 力がサングラスに指を添えた後、その手を横に広げ、反対の手でマイクスタンドを掴む。


「YEAR~~~~‼ HEY! COME ON‼」


 力がポケットからリモコンを取り出し、振付に合わせて電源を入れた。メンバーの背後のスクリーンに大草原の映像が流れる。大きな白い鳥が羽ばたいて草原を渡る。



  虎は死して皮を 残すって言うじゃない



 力が人差し指を口の前で横に振る。モンチー達もキメ顔をカメラに向ける。



  命尽きるまで生きて 生き抜いて

  この時代のベールを 駆け抜けようじゃないか

  さあ、虎の翼を以(もっ)て

  明るい秩序(ちつじょ)を築こうぜ!

  はい‼



 白い鳥が羽根を散らしてその一枚がスクリーンいっぱいにアップで映り、羽根が画面下にフェードアウトする。そこには二頭の虎が雄叫びを上げていた。



  虎寅虎 トラトラトラ とらとら音頭だ

  YEAR――――‼

  虎寅虎 トラトラトラ とらとら音頭だ

  YEAR――――‼

  虎寅虎 トラトラトラ とらとら音頭だ

  YEAR――――‼



 力が渋く伸びのあるセクシーな歌声を存分に放ち、それに合わるように両手を軽く広げた。後ろのスクリーンでは先程とは別の虎がゴロゴロと横に転がり、大きな欠伸をしている。


「Thank You!」


 力がカメラに背を向け、右手を真横に一直線に伸ばす。力の動きに合わせて、ドラムのシンバルが曲を締めた。



 学園中で拍手や指笛、喝采が巻き起こる。その音は校長室の七音の耳にまで届いていた。七音もテレビの放送を見ながら、両手で湯呑を持って茶をすする。


「今日も平和ねぇ・・・・・・あら、茶柱」


 七音は柔らかく目を細めて湯呑の中を見つめていた。

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炸裂☆モンティー学園 Tsuyoshi @Tsuyoshi-k

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