第8話(終) そして二人は並び立つ
戦いの余韻は薄く、すぐに波が引いた。
まだ一回戦。他でも試合をしているし、まだ彼ら自身次の試合がある。
全員まだ汗は引かず、もうもうと蒸気が立っている。
握手しながら、半田兄弟はじとりと二人を見た。
「きみたち……ぼくたちのこと、見えてる?」
「びっくり人間の次は、透明人間にでもなったつもりか?
バッチリくっきり見えているとも! 存在感たっぷりだ!」
「ものすごく目線引くし……そういう戦法でしょ」
半田兄弟は何か恐ろしいものを見るような目で二人を見たが、それ以上は何も言わず去っていった。
「さあ! 一回戦突破だ!
次もその次もバリバリ気合いを入れて、勝ち進もう!」
「甘くはないと思うけどね……やっぱり高校に上がると、周りのレベルが上がる……」
「なんだ
試合に勝つにはまず気持ちからだ! 心が
「気持ちがあれば勝てるワケでもないんだよ……優等生はそういうふうにいけちゃうのかもしれないけどさぁ……」
二人の調子は変わらない。いつも通り。
いつものように、優等生で完全無欠の
そう、見せかける。
「ああそうだ、
ふと、
「グッドゲームだった」
二人の間に飛び散った火花を、二人以外の人間は知らない。
もしかすると、二人自身でさえ。
(
だから見下す。僕のすごさを間近で見せつけて、屈服させる。
だから
キミを折ることができるのは、世界でただ一人、僕だけだ)
(
だから見下す。キミのすごさを間近で難癖つけて、あおり続ける。
だから
キミが心砕くことができるのは、世界でただ一人、俺だけだ)
二人はそして、並んで、歩く。
立ち上る二人の汗の蒸気は、渦を巻くように絡み合って、ひとつになってゆく。
混ざり合ってゆく。
圧力を感じた。
ぱきりと、
視線を感じる。そして殺気。いくつかの。
その殺気の圧力が、ピンポン玉を割ったか。
「はっは! 警戒されているな
「もともと中学のころから、それなりの戦績だったからね……
まあまあ知名度あった半田兄弟を倒して、実力が知れ渡っちゃったかな……」
「めんどくさ……」
「はっはっは! 弱気か
陰キャのキミにはツラい展開か!? 僕は平気だがね何しろ僕は優秀だから!
強者との熱い戦い望むところだ! 僕の優秀さを知らしめる
「それならもっと技術を磨かないとね……
やっぱり
「ほうそうか!? それはじっくり教えていただいて改善しないとなぁ!?」
ぴきぴき、
「まあ、やること変わらないけどね。誰が相手でも」
「ああ。変わりはしない」
変わらない。誰が相手でも。
結局のところ、対戦相手はただのダシだ。
隣にいる、この世界で一番大嫌いな相手に対して、自分が上回っていることを認めさせるための。
二人はまた、並んで歩く。
受ける闘志の熱気も、彼らにとってはそよ風でしかない。
互いに向ける殺意の熱さに比べれば。
二人は仮面を被り続ける。
快活な笑顔の仮面と、陰気な前髪の仮面を。
隣に立ち続けるために。
ゼン・ジン・ソッ・コー! 卓球ダブルス青春殺伐高校男児裏腹業腹仮面舞踏会 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます