第16話 クリプティッドヒーローズ

「ここは、旧校舎ですよね。ここに何の用ですか?」


「竜晴はこの中に入ったことはあるか?」


「ないです。だってここは立入禁止で、入り口も鎖やバリケードで厳重に封鎖されています。たぶん他の生徒もみんな入ったことないと思いますよ」


「そうだろうな。言うなれば、ここは秘密の館ということだな」


「まあ、そうですかね。それで結局、ここに何の用なんですか?」


「とにかく、ひとまず中に入ろう」


「えっと、どうやってですか? まさか、入り口を無理やり破壊するだなんて言いませんよね」


「そのとおりだ」


「えっ!」


「嘘だ」


「……もう」


「ふっ。冗談はさておき……こっちだ。着いてきてくれ」


 鬼塚さんの後について行き、旧校舎の裏側へと回った。


「えーっと、壁……ですね。扉がないようですけど」


「ああ。たしかに壁しかない。ただ、この壁は単なる壁ではない」


 そう言って鬼塚さんは壁をトントンと叩いてみせた。すると、驚いたことに壁の一部がクルッと回転したのだ。


「隠し扉!?」


「さあ、中に入ろう」


 平然と先に進む鬼塚さんの後を慌てて追いかけて建物の中へ入った。そこには廊下や教室、靴箱など見慣れた風景があった。


「旧校舎っていうだけあって、中は割と普通の学校って感じですね」


「そうだな。さあ、次はこっちだ」


 鬼塚さんはさらに先に進み、階段までやって来た。


「上に行くんですね」


「いや、下だ」


「えっ、でもここは1階ですよね? 下に続く階段も見当たらないし」


「ここにある」


 そう言って鬼塚さんは階段下の空間にある床を、何やらいじって開けた。そこには下に続く階段が隠されていた。


「行こう」


 階段を下った先には、教室ほどの広さの空間があり、机や椅子、ついたてなどが所々と置かれていた。さらに扉もいくつか確認でき、この地下の空間がさらに広いこともわかった。


「なんだか秘密基地みたいですね」


「そのとおり。ここは我らクリプティッドヒーローズの秘密基地だ」


「クリプティッドヒーローズ? なんですかそれ?」


「私たちチームの名前だ。そして、君もすでにチームの一員だ。この名を忘れぬようにな」


「はい! クリプティッドヒーローズかー。かっこいい名前だ。ちなみに、鬼塚さんや木暮さん以外にも仲間っているんですか?」


「ああ。それを今から紹介しようと思ってな」


 鬼塚さんがそう答えた直後「なんか騒がしいですネ」と言って、ついたての陰から何者かが現れ出てきた。


 俺はその人物を見て、思わず身体を固まらせた。


 なんとその人物は、口元を広く覆うマスク――忍者がつけるようなマスクをしていたのだ。


 この人、まさか本物の忍者か? それとも格好だけだろうか? 本物だとしたらかなりヤバい。


「おや? この少年は何者ですか?」


「……」


「彼は竜晴。新たな仲間だ」


「……」


「どうした? 何をそんなに緊張しているんだ? 竜晴」


「そうだヨー。ワタシは怖い人じゃないです」


「……そのマスク」


「あっ、これですか? ワタシは忍者なので、このマスクはマストなのです」


「うわぁー! 本物の忍者なんですね! 初めて見ました!」


 噂でしか聞いたことのない忍者という存在に会うことができて、俺は興奮した。胸がドキドキしている。


「そんなに喜んでくれるとはね。――えっと、ワタシはグッドウィン。皆からはウィンと呼ばれているヨ」


「あっ、俺は火燈ひとぼし竜晴りゅうせいです」


「よろしく。竜晴くん」


「あの、俺もウィンさんって呼んでもいいですか?」


「構わないよ」


「やった。これからよろしくお願いしますね。ウィンさん」


「うん。あっ、そうだ。これあげるよ」


 そう言ってウィンさんは、こぶし1つ分くらいの大きさの紙包みを差し出してきた。


「何ですか、これ? 何が入っているんですか?」


兵糧丸ひょうろうがんだヨ。これを食べると元気になれるんだ。ぜひ、食べてみてね」


「うわぁ、ひょう糧丸ですかー! 食べてみたいって思ってたんだよなー。ありがとうございます!」


「どういたしまして」


 話がひと段落したところで、俺は改めてウィンさんを観察してみた。


 口元がマスクで隠れていることもあってか、自然と目元に注目が向く。まつげは長く、瞳は青色で、その瞳は大きくて可愛らしかった。


 目の次は髪に注目を向けた。ふんわりとパーマのかかった金色の髪が肩より少し上のあたりまで伸びていて、前髪もゆるくカールしていた。


 もう少し素顔を覗いてみたい気もするが、それは今するべきことではないだろう。


 ――ガチャ。


 いくつかある扉のうちの1つが開き、そこから新たにまた1人、何者かが現れたのだった。


「ふうー。疲れた」


 その人物はそう言いながら髪をかきあげた。そのおかげで顔がよく見えた。とても美形な青年だった。


「おや? 彼はどちら様?」


 その青年はこちらに近づきながら、声をかけてきた。


「あっ、俺は火燈竜晴です。先程、このチームの一員となりました」


「そっか。僕は御剣みつるぎ真司しんじだよ。よろしくね、竜晴くん」


 彼はニコリと笑い、握手を求めてきた。その手は美しい顔とは裏腹にややデコボコとしているように見え、実際に握ってみると、ところどころ皮膚が固くなっているように思えた。


「よろしくお願いします。御剣さん」


「うん。共に頑張ろう」


 握手を終えると鬼塚さんが「さて、これで紹介は終わりだ。竜晴、最後に何か言いたいことはあるか?」と声をかけてきた。


 俺はうなずいた後、ウィンさん、御剣さん、鬼塚さんを順に見つめ、こぶしを掲げ高らかに宣言をした。


「俺、火燈竜晴は、負けない、泣かない、くじけない、をモットーにこの先頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」


「熱いネ」


「頼りにしているよ」


「ふっ。素晴らしい宣言だ。ただ、選挙演説のようだな」


「ははっ、選挙演説ですか。たしかにそうかも」


「でも、それも大事かもしれないね。このチームにとって」と御剣さんが言う。


「どういうことだ?」と鬼塚さんが問うと、御剣さんはこう答えたのだった。


「だって、ひょう(票)は多い方が良い」


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秘密結社クリプティッドヒーローズ sudo(Mat_Enter) @mora-mora

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