第15話 再び
――カランカラン。
扉を開くのに合わせて、ベルが鳴る。
「いらっしゃい」
「おはようございます、木暮さん」
「おはよう。あちらへどうぞ」
木暮さんは俺がやって来たことに特別な反応を示すこともなく、慣れた手つきで店の奥の席を指し示し、着席を促した。
「ありがとうございます」
もはや、あの奥の席は彼の指定席なのかもしれない。今日もまたあの席に鬼塚さんが座っていた。
「おはようございます。鬼塚さん」
「竜晴か。もう君に話すことは何もない」
「そうですか。でも俺にはあります」
「何だ? 言っておくがライオブカラムは渡さないぞ」
「ええ。それはもう必要ありません」
「……なるほど。それなら安心だ」
「鬼塚さん。実は俺、新たなライオブカラムを手に入れたんです」
「なに!?」
「そのライオブカラムは、俺の身体に宿しました。つい昨日のことですが」
「……ふっ。まさか、君がそんなつまらない嘘をつく人間だったとはな」
「嘘じゃありません。それに聞いてください。ライオブカラムを宿す時に、気を失わなかったんです。これってもしかして、俺が強くなってるってことなんですかね?」
「いつまで嘘の話を続けるつもりだ?」
「本当の話ですよ」
「……そうか。君がそこまで言うのなら、そうなのかもしれないな。私も出来ることなら君を信じたい。だから、君がライオブカラムを宿したという証拠を見せてもらえないだろうか?」
「わかりました。では、鬼塚さん。俺と勝負してください」
「私と戦うだと!? ふさげているのか?」
「いいえ」
「……どうやら本気のようだな。面白い。相手をしてやろう」
そう答えた鬼塚さんは、木暮さんの方を向き「じいさん。今から道場を使うが構わないか?」と問いかけた。
「ああ。構わんよ」
「ということだ、竜晴。これから道場に向かう。着いてきてくれ」
「わかりました」
俺たちはカフェを出て建物の裏に回った後、その先にある別の建物まで移動し中に入った。
そこは、学校にある50メートルプールと同じくらいの広さで、床は木の板が使われていた。
「さあ、位置につけ」
「はい」
距離を取ってお互いに向き合う。
しばらく沈黙が流れた後、お互いの呼吸が合ったタイミングで戦いが始まった。
「行くぞ!」
鬼塚さんは掛け声とともに大剣を取り出しこちらに向かって走り出した。
「――うっ!」
気迫に押され、一瞬身体が硬直する。
「遅い!」
その僅かな隙に、鬼塚さんは攻撃可能範囲まで距離を詰め大剣を振るった。
「ぐぁ!」
後ろに滑るように飛ばされながら、俺は膝をついた。
「勝負あったな」
「まだまだ!」
俺はすぐさま立ち上がり鬼塚さんに近づき、腹を殴った。
「ふっ。この程度か」
鬼塚さんはのけぞることもなく、大剣を振って攻撃を返してきた。俺は再び後ろに飛ばされ膝をつくが、すぐに立ち上がる。
「なんのこれしき!」
「ほう。まだ立ち上がるか。しかし、いつまでもつかな?」
「くらえ!」
再び鬼塚さんに近づき殴りかかる。が、大剣でカードされてしまった。
「甘いな」
鬼塚さんは大剣を振り払い、俺を大きく吹き飛ばした。
「早くライオブカラムの力を使ったらどうだ? このままでは君に勝ち目はない」
「うぉおおー!」
猛ダッシュで鬼塚さんに近づき、飛び蹴りをくらわせた。鬼塚さんは少し後ろに滑り、わずかにのけぞった。
「ふっ、やるな。しかし、この程度の攻撃では、何十発、いや何百発くらったところで倒れはしない」
「だったら何千発でもくらわせてやるさ!」
「その前に君が私の攻撃に耐えられなくなるのがオチだ」
「やってみなくちゃわからない!」
俺は勢いよく鬼塚さんに飛びかかり殴りかかった。しかし、鬼塚さんが素早く大剣を構え、そして――。
「くらえ。
気づけば、刃の軌跡が鬼のように描かれていた。直後、耐え難い鈍痛が幾度となく襲いかかる。
無慈悲で圧倒的な力は、俺が築き上げてきた覚悟を、いとも簡単に崩した。
「終わりだな」
俺は弧を描くように宙を舞い、背中から地面に落ちた。
「身体と心は引き裂かれ、再び立ち上がることを諦めさせるだろう」
――水泡に帰せ。
俺は地面に倒れた後すぐに後転をして、勢いよく立ち上がった。
「まだだ!」
「な、なぜだ!? あれだけの攻撃を受けておきながら、なぜ立ち上がれる!?」
「これが俺のライオブカラムの力です。相手から受けたダメージをなかったことにする力。その名も
「来零……。なるほど。実に恐ろしい力だ。そして今、君がライオブカラムを宿したという話が本当だとわかった。……疑って悪かったな」
「いえ、気にしないでください。――それより、鬼塚さん。お願いがあるんです」
「なんだ」
「もう一度、俺を仲間にしてください」
「……それは、君だけの意志か」
「もちろんです」
「なら、拒む理由はないな。――改めて、よろしく頼む。竜晴」
「はい!」
こうして俺は、再び鬼塚さんの仲間となることになった。今は純粋にその事実が嬉しかった。
「さて、竜晴。悪いがここで少し待っていてくれないか。木暮のじいさんと話したいことがあってな」
「わかりました」
それから木の床で寝っ転がりながら数分の間ボーッとしていると、鬼塚さんが戻ってきて「竜晴。今から学校に向かう。着いてきてくれ」と声をかけてきたのだった。
「学校? どうしてですか?」
「行けばわかる」
「わかりました」
それから俺たちは小走りで学校へと向かった。
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