キシダン・インザ・ダークネス

第13話 アメリア・クライス

 騎士とは一般的に栄えあるモノだと思われがちだが、実際のところ違う。というのが異世界のお決まりだろう。異世界の騎士と言えば特権意識の強い貴族連中の金と陰謀が渦巻く魔窟である。

 つまりガチでマジな騎士とは主人公やその周辺の一握りに過ぎず、全体の凡そ七割八割が性悪の豚。ノブレスオブリージュだったか、それを勘違いした糞袋野郎なのだ。

 ただ。

 ただし。

 僕は眼前の光景を見て、ちょっと考えを改めなければならないと。そう思った。


「……漏れなく全員の顔面偏差値が高過ぎて誰が三下なのか分からない、だと」


 それは所謂イケメンパラダイスであった。否、イケメン&美少女withビッグブレスト。視界に無数のキラキラエフェクトが見えるような、そんな素敵空間が広がっていたのだ。

 僕のイメージにあるような典型的な明らかな三下顔の性悪貴族なんてのは、見た目上は存在しなかった。


「しかもこの胸部装甲、尋常じゃない……」


 そして肝心の女生徒はこの年にして女性的な丸みをしっかりと持っていた。それは断じて肥え太っているだとか、或いは線が太いだとか。そんなもんじゃない。地球に於いては年不相応の代物を胸に掲げていた。いや、掲げてはいないか。ツンと上向く形の良いバストを持っているだけで。

 クッ、なんだこれは。

 僕は貧乳派! 僕は貧乳派! 僕は貧乳派! 僕は貧乳派! 僕は貧乳派!

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされそうになる下の心に蓋をする

 ……ふぅ、危ないところだった。光と影の二つの心、とはよく言うが、これらのバランスを取るのは困難を極める。一歩間違えればおっぱい大好きおっぱい星人の出来上がりと来た。今の僕は貧乳好きと巨乳好きの両方の性質を併せ持つ。が、表向き巨乳しかいない世界だ。気を抜けば完全に天秤は巨乳の方に傾いてしまう。

 自制しなければなるまい。

 自制しなければ……。


「えっと、君が、夜間学校に新しく入る子?」


 すると背後から声を掛けられた。緊張しているのか小さくか細い声だったが、こっちは真祖の吸血鬼。聞き漏らすような愚は犯さない。


「ああ、その通りだ。貴公は……」


 振り向き、ハッとする。声を掛けてきたその少女は、


「やっぱり! 私はアメリア・クライス。貴方と同じく吸血鬼なの。よろしくね!」


 驚く程、ばあやに似ていた。

 年若いながらも違法建築の気配を早くも予感させるバストに、どこかおっとりとした表情。そして何よりも、美しい金砂の髪。昨今おっぱいにばあやを見出しがちな僕だが、これだけははっきりと分かる。


「失礼。もしや、貴公はマリーという人物を知っているか」


「え、どうして姉上の名前を……」


 ああ、やっぱり。やっぱりそうなのか。

 アメリア・クライス。この娘はばあや……マリーの妹君だ。

 しかしそうなって来るとちょっと、ちょっと、いや、かなり不味いかもしれない。


「いや、貴公の姉君は……マリーはニューボーン家に仕えていてな。顔つきがそっくりだったからもしやと思ったんだ」


「そっか。それじゃあ、君があのヴラド君、なんだね」


「あの、が何を指すかは分からないが、僕がヴラドだ。今はベルフォルマ家に厄介になっている」


 微妙な沈黙が降りかかる。しかしそれも仕方あるまい。

 ここに居るのは、単に下女の妹、ではないのだから。


「姉上は……やっぱり、死んでしまったのでしょうか。最近のニュースで聞くところによれば、ザビナーの住人は漏れなく全員死亡、とのことですが」


「ああ。マリーは、死んだ。……僕の目の前で、殺された」


「……あっ、そのすみません。折角の入学だと言うのに湿っぽい話をしてしまって。それに、君もイマリティに両親を惨殺されてるもんね」


 人の死と、憎しみは切っても切り離せないものだ。

 だからこそ、僕にとっては非常に不味い。


「おい、ご主人様。そろそろ席につけだとよ。いつまでもくっちゃべってないで、さっさと座ったらどうだ」


「……ああ、そうだな。椅子を引いてくれ」


「あ? 何で俺がそんな事を……あーあー、分かったよやりゃあ良いんだろやりゃあ。全く怠惰で横暴なご主人サマだこと」


「イマリティ……!!」


 それは想像以上に憎悪の籠った呟きだった。

 そして、それこそ僕が一番危惧していた事でもあった。


 加害者と被害者が同じ空間内に居合わせる事態。


 それが今まさに起きていた。

 

 ああ、不安とは、決して杞憂にはなり得ないものだ。

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遥か遠きAカップを求めて~転生吸血鬼は巨乳になんか負けない~ 睦月スバル @mutukisubaru

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