エピローグ はじまりの花火
気づけば、オレも
「戻ってきた、よな?」
「うん……」
夏希も戸惑いながら辺りを見回している。
表から聞こえてくる祭ばやしで、時間がほとんど経っていないことがわかる。あっちの世界では丸一日経っていたのに。
「なんか夢みてぇ……」
思わずそう言うと、夏希はくすっと笑いながら言った。
「いっちゃん、左手、見てみなよ」
「え?」
見ると、あの赤いリストバンドは無くなっていて、代わりに夏希のくれたミサンガがしっかりと結ばれている。そしてそこには、
「やっぱり、夢じゃないんだ」
イチョウの葉が輝くミサンガに、オレはそっと触れた。
「また、会いたいな」
「きっと会えるよ」
夏希の言葉にオレは頷く。根拠なんてないけれど、黄介たちにはまた会える気がする。住む世界は違っても、こうして繋がっていられたなら、いつかきっと。
「あ、そうだ」
オレはポケットからウサギのヘアピンを取り出した。壊れてたらどうしようかと思ったけど、ヘアピンはちゃんと無事だった。
「夏希、これ」
「拾っててくれたんだ! ありがとう!」
夏希は嬉しそうにヘアピンを受け取って、また髪につけ直した。
「けど、それ、ちょっと子どもっぽくね?」
「いーの! だって、いっちゃんが初めてくれたプレゼントじゃん」
当たり前みたいに言われて、聞いたオレのほうが照れる。
夏希のこういう素直でまっすぐなところが、オレには眩しい。
そこへドーンと響く音。見上げると、空に大きな花火が次々と打ちあがっていた。
「今年からお祭りと花火大会がセットになったんだよね。最後に見れてよかったー!」
最後。そう言った夏希の横顔が、赤・青・黄色と、カラフルな花火の光に照らされる。花火よりもそっちに見入って、オレは胸がいっぱいになった。
「なぁ、夏希」
「ん?」
「言うの遅すぎ!って突っ込まれそうなんだけど……」
転校するって聞いてから今まで、ビビって時間をかけまくった。挙句に異界での冒険だ。さんざん遠回りをしてきたけれど。
「オレ、夏希が好きだ」
一年前のことを謝って、お礼も言って、伝えたかった最後の気持ちを、オレはやっと言葉にした。。
それを聞いた夏希の目に、花火とは違うきらめきが浮かぶ。
「うん、嬉しい。私もだよ、いっちゃん」
眩しい笑顔と一緒に返ってきた夏希の答え。それまでの恥ずかしさとか、緊張感とか、色んなものが吹き飛んで、嬉しさだけが沸き上がっていった。
「よっしゃあぁーーー!!」
夜の神社で思いっきり叫ぶ。祭りの騒ぎや、花火の音にも負けないくらい大きな声で。そんなオレに、夏希は少し呆れていた。
「オーバーだなあ。いっちゃんらしいけど。向こうに行っても、ちゃんとメールちょうだいね?」
「そういうのは苦手だけど、努力します……」
情けないオレの返事に、夏希は元気な笑い声をあげた。
「樹ー! 時間だよー!」
聞こえてきたのは、圭兄ちゃんの声。そう言えば、十五分経ったら迎えに来る約束だった。時間は間に合わなかったけど、二人一緒にって約束は守れそうだな。
「行くか」
「うん!」
オレと夏希は自然と手をつないで、皆のところへ歩き出した。
おわり
オレとタヌキの花嫁奪還作戦!! 荒月アラン @alan-moon-1016
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