第6話
エルルゥに促さられ席に着いたものの、状況が理解できず落ち着いていた頭がまた混乱の中に戻って行く。
しかし、体の調子は正直で彼女が準備したであろう料理から目を離すことが出来ず、このまま見ているだけでは空腹である自分には拷問の様だ。
テーブルの上にはカリカリに焼かれ香ばしい匂いのパン、引き寄せられるような甘い匂いがする果物、そして食欲のそそる肉と脂の匂いを強烈にさせる肉の塊等がに並べられており、空腹を自覚してしまった自分では抗えない魅了が溢れている。
だが、まだわずかに残っている自制心を働かせ自分の口にした内容を思い出す。あの時自分は「豪華な料理を腹一杯に食べれたら何でもする。」と口にした。ならば、これらの料理に手を付けなければ契約が成立せずにまたリリア達の元に帰れるのではないかと。
「ねえエルルゥ、この料理を食べることが契約なら僕が食べなければ成立しないはずだよね?」
このことを僕が指摘すると笑顔だった彼女はしばらく固まった後、言葉が出てこないのか口をパクパクさせていたが、落ち着くために一度深呼吸をしたのちに震える声で僕に問いかけてきた。
「一緒に食べるって約束したでしょ。」
「でも食べたら契約が成立するんだよね?なら僕はこの料理を絶対に食べない。」
「料理を食べるだけで何もしないわよ。」
今まで余裕を浮かべていたエルルゥの声が震えており、料理を食べないことが彼女にとって都合が悪いのは明らかと分かった為、僕は手に爪を立て血が出るほど握り締め痛みで、目の前の魅力的な料理から気をそらそうとしたが出来なかった。
「っ……、い、一緒に食べるってやくそくしたのに。」
エルルゥが大きな声で泣き出してまい、彼女以上に僕が動揺してしまったからだ。
目の前の少女が堰を切ったように泣き出してしまったことにより、彼女の思い通りにならないと決めた気持ちがどこかに転げ落ちていってしまった。その空白の隙間を埋めるようにエルルゥをどうすれば泣くのを止めてくれるのかという事がフィンの頭の中を埋め尽くす。
時間にしては数十秒だろうが、その結論に達するまでの感覚は言葉に出来ないほど頭の中で反芻したせいで何時間にも及ぶと錯覚するほどであったが結論が出た。
どうすれば良いか分からないが目の前の料理を食べることだと考え、フィンは勢いよく食べ始めたが焦っていたこともあり料理を喉に詰まらせて呼吸困難となり顔が青ざめていく。
がちゃがちゃと音をさせながら食べ始めたことで食事を始めたことに気付いたエルルゥは大泣きしたことで少し腫れた目でしばらく成り行きをぼーっと見ていた。
しかし、急にぴたりと止まったので訳も分からず眺めていたが、胸を叩くフィンを見て喉を詰まらせていることに気付き慌てて動き出し背中を軽く叩きながら飲み物を差し出した。
「もう、ほんと何なのよ。ほら、落ち着いてゆっくり飲みなさい。」
コップに入った飲み物をゆっくりと飲み干したことにより落ち着きを取り戻したフィンは、エルルゥが泣き止んだこともありも覚悟を決めて自分がこれからどうなるかを聞いたが、思いもよらぬことを言われ思わず聞き返してしまった。
「この料理を一緒に食べたら後で元の場所に返してあげるわよ。」
「えっ。本当にそんなことで良いの?」
「一人で食事すると味気ないから誰かと食べたかっただけよ。」
そう言い照れくさいのか誤魔化すように視線をそらす彼女を見て、フィンは自分がとても大きな勘違いをしていてエルルゥを傷つけたことに気が付いた。
「ごめん、エルルゥのことをずっと勘違いしてたよ。都合が良い事を言ってしまうけど、僕と今からでも一緒に料理を食べてくれないか」
「さっきみたいに後から、約束を破らないって一生誓える?」
「うん、誓うよ。」
その言葉を聞いてエルルゥにようやく笑顔が戻り、食事を再開し話をする。フィンやリリアの日常であったり、エルルゥの友だちの事など取り留めのないことを話していたが、料理を食べ終わるころには最初のころのような笑顔に戻っていたので楽しく食事ができたようだ。
食事を終え手を拭いているときに気付いたが薬指に指輪のような赤い線が入っていた。どうやら握り締めたときに変な跡が付いたのだろう。帰ったらこのことを自慢するついでにリリアに治してもらおう。
悪魔に「貴様を必ず地獄に送ってやる」と言われる。行きたくないので逃げ回っていたが、追い詰められ観念し地獄に送られたがどうにも様子がおかしい。 @taimeshi
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