第10話 ブルームーン

カチ、カチ、カチ、カチ。



ロケットが飛ぶ予定の夜中12時。

満月がちょうど、空の1番高いところに差しかかる。


待ち続ける間、アズールとの思い出が次々と蘇る。その度に涙がこぼれていった。

泣きすぎたルナは、もう涙さえ出なくなっていた。



…しかし、予定時刻になってもロケットが飛ぶ様子は見えなかった。



「ロケットは見えないんですかね…。距離が遠すぎるのかなぁ…。最後のお別れだと言うのに、見えないのかぁ…。」


時計を手に持ち、月の隣に見えるように並べる。ちょうど丸い形が二つ並んでいる。

時計の針は12時を過ぎて、次の日の時刻を進み始めている。


「にゃー。」


先程、アズールの最後の見送りをするためと久しぶりに姿を見せた猫のブラン。呑気にルナの膝の上で鳴いている。


「んー。そうですね、…なかなか見えないものですね。ブランちゃんも楽しみに出てきてくれたのに…。アズール様はいつも自分勝手で、突っ走るところがありましたからね。…やれやれです。時間もろくに守らなかったし、私のお願いもなかなか聞いてくれない。いっつも怒ってるし…。…はぁ。…そういうところも含めて好きでしたけども…。」


なかなか見えないロケットを待つのに疲れたのか、ブランはルナの膝から降りて、アズールの部屋の方へと歩き出した。




「ブランちゃんはもう見ないのですか?ご主人様の旅立ちですよ…。…もう少し待っても見えないのなら、私も諦めようかな…。」



ブランは呑気にゆっくりと歩き、アズールの部屋へと入っていく。そんなブランを目で追って部屋の方を見ると、そこには死んだはずのアズールの姿が見えた。




「…ロマンチックな雰囲気で出てこようと思ったんだが、俺の悪口ばかり言いやがって…。」


アズールはいつもと変わらない姿で、不機嫌そうに部屋から出てきた。


「…え、なんで…。アズール様は死んでしまったはず…。今日は遺灰を月へ撒かれに行くと…。」


枯れたはずの涙が、再び溢れ出てきた。



「すまん。みんなには芝居を打ってもらった。死にそうになったのは事実だったが、…運良く臓器ドナーが見つかったんだ。本当に良いタイミングだった…。奇跡としか言えないと医者は言ってたよ…。そのおかげで、無事に回復出来た。」



そう言いながら、アズールはバルコニーを歩いて、泣いている私の隣に座りポンポンと頭を撫でた。

そして、私の持っている時計を取り上げて、代わりに四角い小箱を私に持たせた。






「…ルナ、結婚しよう。」






「…え、え?なに?なに?」


「…何回も言わせるな…。俺と結婚してくれ。…こういうシュチュエーションでも作らないと、恥ずかしくて言えないからな。」



四角い小箱を開けると、中には指輪が入っていた。

指輪の中心には小ぶりながらもダイヤが付いており、月明かりに照らされて青白く輝いている。

返事も聞かずにアズールは私の指に指輪を嵌めた。



「…一時は本当に死ぬかと思ったんだ。医者からもそう言われたし…。」



アズールは月を見上げながら続けた。



「…そんな時にお前の顔が一番に思い浮かんだ。俺が死んだらお前は行き場を無くすんじゃないかって…。」


照れくさそうに頬を赤らめている横顔が、月に照らされてよく見えた。



しばらくアズールは月を見ていたが、照れくさそうなハニカミが消え、こちらを真っ直ぐ向いて真剣な顔になった。



「月が見えなくなる日は好きじゃないんだ。お前の顔を毎日見せてくれ。ずっと一緒にいよう、ルナ。」


真っ直ぐこちらを見つめる青い眼差し。


私をメイドとして雇うと言ってくれた時と同じ眼差し。とても澄んでいて、綺麗に輝いている。

全てを柔らかく吸い込んでいく青色の瞳。



アズールの綺麗な瞳を見つめたまま、目をそらさずに答える。



「…はい。ずっと私のそばに居てください。アズール様。」



アズールの瞳に段々吸い込まれていくように、視界はお互いの瞳しか見えなくなる。瞳が眼前まで近づききったところで目を閉じる。


私はアズール様と口付けをした。




☆.*゚•*¨*•.¸♡o。+ ☆.*゚•*¨*•.¸♡o。



(おまけ)



☆.*゚•*¨*•.¸♡o。+ ☆.*゚•*¨*•.¸♡o。



「アズール様が前から食べたいって言ってた、月見だんご作ったんですよ!生き返ったなら食べてください!」


形が不揃いで、見た目はべちゃべちゃの団子が皿に並べられている。


「…気持ちはありがたい。…が、料理はこれから頑張ろう。」


「見た目だけで判断しないでください!味は美味しいんですからね。アーンしてあげますよ!ふふふ。」


「…やめてくれ、恥ずかしい。自分で食べるよ。」


この晩も、いつものように月明かりの下でたわいも無い話をして過ごした。


指には青いダイヤを輝かせながら。




☆.*゚•*¨*•.¸♡o。+ ☆.*゚•*¨*•.¸♡o。




最後までお読み頂きありがとうございました。



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月下の見送り 米太郎 @tahoshi

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