嘘告白で全てを失った俺は、嘘告白し返す為に嘘魔王(俺をハメた黒ギャル)に弟子入りする
しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる
♡♡守屋君へ♡♡ 放課後、四階のLL教室で待ってます♡♡♡♡ あこより♡♡♡♡♡
「絶対ラブレターだ! ハート付いてるもんっ!!」
四階のLL教室に至る階段の途中で、
公孝は俺の親友で、走り出したい俺のブレザーを
目線の先には俺が右手に握る手紙。
「真っ当な人間がそんな
彼は巨体を
「
「だから
「フッ、
「……
「え?」
「嘘なのに
「そんな
「大体お前、送り主のこと
「クラスは同じだ。顔もわからんが」
「そんな奴がいきなりお前を好きにならないだろ!」
「
彼は首を
「いいか、その手紙に書かれた先に行けばお前は全てを失うことになる。いいか、僕は親友として止めてるんだぞ!」
「いいや行くね!」
「この先に行ったら
「くっ、だが俺は行く!」
俺は親友の手を振り
「
「そんなことない、でも」
「オタクのデブより彼女とイチャイチャしたいからな!」
そして俺は嘘告白により、親友を失った――。
◆
「ンングググーーーッ!!」
翌日、放課後。
図書室で、俺は机に
「全校中の笑い者だな、今のお前」
「グスッ……もう一日中笑い尽くされたわ、教師共まで。クソ高校が」
「
「悪いのは嘘
「あんな見え見えの
「
「僕は嘘だって言ったけど?」
「ンググーッ!」
「キモい泣き声だなあ」
泣く俺を
「お前さ、高校上がってこの半年、キモオタの
「ああ、まだ学校だけだからいいけど、家族に知られたらもう生きてけねえよ」
「ハハ、お前んち
よく家で遊ぶこともある彼は、そこで今日初めて笑った。
「ま、お前なんてモテるはずないんだし、良い
「……それはどうかな?」
「は?」
「ここに二通目のラブレターがある、と言ったら?」
「……」
そして俺は嘘告白により、親友と家族を失った――。
◆
「ンングググーーーッ!!」
翌日、放課後。
図書室で、俺は机に突っ伏して
「『世界初・二回嘘告白された男』、
対面から公孝がスマホの画面を見せてきた。
そこに
二回目は
「グスッ……
俺は手で顔をゴシゴシ
「こんなことになったのはさ、俺が嘘を
「そうだぞ」
「俺は嘘を見抜ける人間になりたい。そこで」
「で?」
「今日は
「え」
「こんちゃー」
と、手を振りながら現れたのは一人の女子だ。
背は百七十近くあって、長いコシの強そうな髪はほぼ金の茶色。
彼女を見た公孝が目を
「
「マジうけんね」
この女こそ、俺に嘘告白を
「この学校でコイツより嘘が上手い奴はいないだろ。
「大枚って」
「
「大バカ野郎……」
公孝はこめかみを
一方、俺を二回ハメた女は
「じゃあ守屋、
「おう!」
そして俺は嘘告白により、親友と家族と全財産と前歯と奥歯を失った――。
◆
「あれ、泣いてないじゃん」
「もう涙も失くしたわ……」
翌日、放課後。
図書室で、机に突っ伏す俺に声を掛ける黒ギャルが一人。
「何の用だよ、
「それ
林は俺の
「私は
「あのデブのお友達は?」
「あれは
「ウケる、陰キャの友情ドライ過ぎ」
「全部お前のせいじゃい!!」
俺の
今だ、
俺は立ち上がり林を真っすぐ見つめる。
「まあいい。実はお前に言いたいことがある!」
「な、何」
「好きです! 付き合ってください!!」
しばらくして、嘘魔王がポツリと返す。
「いや、フツーに
「あ、あ、いや……」
また少しの
「あ、もしかして嘘告白し返そうとした?」
「えっいや」
「うわバカだな守屋、クッソバカ」
クスクスと周りの
林は
「少しは
…………。
「そ、そうなんだ。嘘魔王、嘘
「魔王だからな」
「そこで、そんなお前に
「はあ」
俺は
「俺をお前の弟子にして
「はあ?」
◆
その日は取り合ってもくれなかったから、
林は俺を見つけるとウンザリ顔。
「お前のせいで俺は
教室まで歩きつつ、必死に同情を引こうとした。
「あんな見え見えのに
が、ノーダメ。
そこで
戸を開けるなり
彼女が一歩踏み出すと、近くにいた生徒が逃げていった。
「お、おい、嘘魔王。何か、
「魔王だからな」
「え、本当に魔王!?」
彼女はチッと舌打ち、それから長い
「やり過ぎた」
「え?」
「やり過ぎたの。さすがに嘘告白三回して人一人
「お前
「うるさいなあ! それもこれも
それで彼女は俺を
◆
え、俺。
あの、え、え、俺、
何で
と、思わなくもない。
ない、けど。
俺の騙されやすさが超ド級なのも確か。
今まで
この先どう生きていけばいいのか正直、不安だ。
でもどうやって嘘か本当か
それから――。
「え、あのバズってた
「AIの
図書室のソファで考え中の俺の耳に、ふと向こうの席の話し声が転がり込む。
「でもどうしてわかったの?」
「うん、このニュースサイトによるとな……」
……。
◆
「ファクトチェックだ!」
「あ?」
翌朝、教室に入ってきた林に俺は言った。
「新聞とかがやってるだろ?
「詳しい奴って誰よ」
俺は手に持っていた物を彼女に
「はい、これ持って」
「ん?」
「はい、
「ん?」
林が持ち手を上げると、紙の花付きの
『
「なっ! おい何勝手に!」
「嘘魔王、先日あそこの
「うえっ!?」
「いや嘘でしょ。あれ
「ぐわーっ」
くたばった公孝やキョトンとする林を無視し、俺は周りに向けて
「さあ、嘘を極めた嘘魔王の手に掛かればこの通り、
◆
その時は誰も来ない。
でも放課後、林を
あの人があの子を好きって本当?
あいつが俺の悪口言ってたってマジ?
そんな
元々人気者で交友関係も広かったし、本当に嘘を極めていたのだろう。
二週間後の放課後、図書室のソファで勉強している俺の耳に、ふと向こうの席の話し声が転がり込んだ。
「えーそれ嘘でしょ?」
「本当やって! ファクトチェックしてもええで!」
ファクトチェックは全校に広まり、
林は立場を取り戻し、またクラスの中心になった。
「嘘告白で全てを失った人間はな、本当に
「どうして?」
「涙が二度と
「泣けなくなるってこと?」
「ちゃうちゃう。涙が落ちるんじゃなくて飛んでってしまうねん。涙も失くして空に取られてしまったんやろなあ」
「絶対嘘じゃん……」
「店は?」
「
嘘魔王は背もたれの
長い足を組んで、
「二十人
「
「はは、どーも。で」
そこで彼女は細い
「
「こ、これって?」
「私が一人で
「べ、別に、嘘を見抜けるようになりたかっただけ……」
林は
「
「え!? なら何で黒ギャルなんてやってんの?」
「
吐き捨てるように彼女は言った。
「高校では
「へー」
「貴方こそ何やってんの?」
今度はまっすぐ見つめられている。
「騙されて全て失ったのにいつまでもふざけて。それとも失ったものは大切じゃなかったの?」
「全部大切だった。だからこうして嘘を学ぼうとしている」
俺の答えを聞くや
「バカ! そんなことしても
「お、おい、何だよ急に」
「うるせえ! その
「貴方は何もわかってない! 私に
「そんなのやってみなきゃ……」
俺の
こちらを
「
「お前」
林吾子の涙は、
◆
俺は
嘘魔王はメチャクチャだ。
嘘吐くし、
ていうか、アイツも嘘告白されたのかよ。
騙される
で、
「嘘を教えてやる」
と、
ついに弟子入りが
それで放課後までソワソワし続けた俺に、ついに奴の魔の手が
「ん」
差し出してきたのは、ファクトチェックの看板。
「まずは
「はあ?」
キョトンとする俺を置いて、林は自分の席に戻る。
仕方なくその
「ファクトチェックってのは初めよく知らなかったが、調べたら嘘の吐き方と似ていることがわかった」
「どこがよ」
「正しさに
「はあ?」
「まあ、だから、見てろ。そのうち
「嘘魔王、
「え? うん、そう」
彼女は
「あ、そ、そうなの」
「ところで」
その
「週末、
「え、うん」
「じゃあさ、一緒に校舎の
「え」
そこ
◆
「オラオラオラ!! 足止めてんじゃねえぞ!!」
翌日、俺は巨大なタイヤを引いて裏山を走らされていた!
「ひいっ、ひいっ」
駅で合流するなりジャージ姿の林が
「オラオラ! やる気あんのか!?」
コイツもう黒ギャルじゃなくてただのヤンキーだろ!
◆
「百九十八……百九十九……うぐ」
西日の
「オラ、
しかも、客が前より来なくなったので長く続く。
飽きられたのではない。
「さあどうだい、うちのファクトチェックは天下一品だよ!」
「いらはいいらはい! ウチが
教室を見回せば
開店から二か月、
「うちは嘘魔王が
「こっちは
最近やっと気付いたが、林のファクトチェックには
当然彼女が知っていることしか検証できないし、自分のリスクを考えて断ることもあった。
そのニーズに
「なあ、客取られていいのか?」
「別にぃ。
林は右手の爪を見ながら、本当にどうでもよさ
「遊びに誘われても『店があるから』って
「ついでって。なあ俺本当に嘘上手くなってる?」
「なってるなってる。ま、もうすぐね」
「もうすぐ?」
返事は無く、俺の腹に
「うげっ」
「いいから
◆
「
「いきなりだな」
冬も近付いてきた日曜、俺は嘘魔王の家に呼び出されていた。
普通の
そう、屏風だ。
黒塗りの
「内容は簡単。今から話すことに嘘かあるかどうかチェックして見ろ。ちゃんと理屈を付けるんだぞ」
「お、おう」
嘘魔王は偉そうに腕組みで語り出した。
「実は先頃近くの動物園からライオンが逃げ出して、うちの屏風に逃げ込んじゃったの。
「おい、俺これ知ってるぞ」
「さあ
「さすがにこれは騙されねえって……。
「よし、
次の
「ガルルル!!」
体重二百キロはあろうかという
「クソ! やるしかねえっ!」
三時間後。
俺はライオンと大地に
もう一ミリも動けないが、相手も同じ状況。
鍛えてて良かった。
「お疲れ。
楽し気に俺を見下ろす嘘魔王。
「もう筋肉以外何も信じられねえよ……次は何だ……
彼女は意外そうに目を少し開け、
「惜しい」
◆
「どうした? 早く来い」
校内のダンスホールの入り口で、林が
俺はドレスを着た彼女にドギマギして動きがぎこちない。
何しろヒラヒラで
それで顔に銀色のベネチアンマスク。
俺も
「変な奴だな、ほら」
林は俺の手を取り
そのままホールに入ると、中はストーブと
俺達と同じく
「誰も踊ってないな」
みんな
「なら一曲」
彼女がそう言うので俺達は手を繋いだまま
激しくステップを踏み、お互いの体を
踊りに集中しているうち、耳が
林の
俺の
誰かの声。
声。
声!
「嘘魔王って中学だと陰キャで、今はファクトチェックで昔いじめてきた奴の知られたくない
「嘘だ!」
俺は踊るのを止めて怒鳴った。
誰かの悪口大会をひたすら繰り広げていた仮面共が、
「嘘魔王はファクトチェックで昔いじめてきた奴の知られたくない話を流してなんかいない!
理屈を付けて言ったつもりだったが、
「でもあの子、中学で
「あそこは検証する情報を
仮面で気を大きくしている奴らや、それどころか。
「え、嘘魔王は昔いじめてきた奴の知られたくない話を流してんのか?
まともに話を聞けない奴も
「だから違えって!」
必死に言い返しても効果は無く、やがて人々は噂話に戻っていった。
「無駄だよ」
林が後ろから俺の肩に手を置く。
「実は今日ここに来たのはこの為なんだ」
「え……」
「
「どうでもいい?」
「初めて嘘告白された時のこと覚えてる?」
彼女は
「あの日、私は貴方に『好き』としか
俺の体を
「わかる? 結局、みんな正しいと信じたいものに理屈を付けて選んでるだけ。ファクトチェックだってその為の道具。嘘か本当かは自分で決めるしかないの。だから貴方も私も独りぼっちのまま、自分の
首を
「ごめんね、守屋。何もわかってない貴方がウザいから、つい嘘告白して、嘘で弟子にしちゃった」
冷気と
「お
「嘘魔王、もういいよ」
振り向き、真っすぐ
仮面の穴から次々空に飛んでいく涙を、
「俺わかった、嘘の吐き方。だからお前に嘘告白するわ」
◇
「――って話が校内に出回ってんだけど」
「な、な、な、何それ!?」
放課後の教室で、話しかけてきた
「違うのか?」
「嘘告白の後から嘘だらけ!」
「でも林さん、守屋君が手当たり
私の周りに
他にも友達や知らない人達が
「みんな、二人の仲の
「なっ」
私は目を
「
「ファクトチェックには確かな根拠が必要、だろ?」
公孝のその発言を聞いても全員
「私は『あーし』とか言わないし別に目細くないし、大体」
「屏風からライオン出ねえだろ!」
「!?」
「あと高校で仮面舞踏会やんねえだろ!!」
「!!??」
室内は
「そういう
「僕にだけ
「
私の
「なんてな」
公孝が嫌みに歯を見せた。
「知ってるよ。守屋、嘘告白の後はほとんど学校来てないしな」
「ウチら嘘か本当かなんてどうでもええねん」
「な、え?」
「守屋君が最後に言ったやろ、嘘告白するって」
『♡♡林へ♡♡ 放課後、四階のLL教室で待ってるぜ♡♡♡♡ 守屋より♡♡♡♡♡』
ニタニタ笑う一同。
「みんな、また林さんが守屋君をけちょんけちょんにするとこが見たいねん」
こいつら!
私は黙って走り出す。
「あ、待ってや!」
誰の言葉も聞かず、あいつのところへ。
守屋!
嘘告白って予告してするバカがいるかよ!?
それもわけわかんない嘘ばっかついて。
てか、通話する
「おい!」
四階のLL教室で、私を十二月の風が突き刺す。
あいつは開け放たれた
「よお」
守屋とはずっとスマホだけの関係。
初めはやり過ぎたかなって
でも、意外と話が合って。
ハブられてること話したらファクトチェックを紹介してきて。
余計なお世話と怒ってからはマジな話もするようになって。
筋肉ある人がタイプ
そう言えば何回か家に上げたりもしたけど。
あの時間は全部こんなことの為だったってこと?
「どういうつもりだよ!?」
思う
そう、私は怒っている。
「お、どうなるんや!?」
追ってきた連中の
「答えろ!」
「嘘告白するつもりだけど。でもここ、うるさいからさ」
あいつの指が私の目元に伸びて、涙を
その一粒を握りしめ、彼は窓から飛び出す。
「え」
「行こう、
もう一方の手で私の手を掴んで。
◆
「えーっ!?」
林の
俺達は他の林の涙と同じように空に浮かんでいた。
そのまま、ふよふよ天上へ。
「いや、涙が飛ぶのは本当なんかーい!」
目を落とすと、まだ追おうとする奴らを公孝が
彼はこちらに叫ぶ。
「守屋、後で友達料払えよ!」
◆
涙の行く先は雲に浮かぶ
その一番高い塔の上に俺達はいた。
「もうわけわからん。何この状況……」
「どう
「つけない」
「ふざけんな!
掴みかかってきた手を握り返した。
「でも前から『
「それは」
「俺、部屋に閉じこもって、お前と話しながら考えてたんだ。どうすれば俺やお前が嘘や本当のことに
「……どうするの?」
「お前は『嘘か本当かは自分で決めるしかない』と言ったけど、あれは間違いだと思う。何が嘘か本当か決めるのはお前と、他の誰かなんだ。どれだけ傷付き失っても、お互いの
「嘘」
「ああ。俺の嘘はこの
耳打ちで教えると、彼女はふんと鼻を鳴らした。
「
「その方が楽しいじゃん」
「……」
「な、この涙を二人で嘘にしようぜ!」
返事は無いが、聞かなくてもわかる。
溶け出した嘘魔王城の上。
俺は彼女に
「吾子、嫌いだ。
◆
それから。
「あの、ちょっとええ?」
春めいた午後、図書室のソファでダラダラする俺と林に話しかける者が一人。
噂好きの小さい女子だ。
「結局君らって何がどうなったん? まず守屋君が林さんに嘘告白されて全て失うやろ、そんで」
「あーそこから違うな。ファクトチェックが要る」
俺は二マッと笑って隣を見る。
林も薄く笑い、俺の頬にキスしてからピースサイン。
「私ら、嘘告白で恋人をゲットして超ハッピーでーす!」
嘘告白で全てを失った俺は、嘘告白し返す為に嘘魔王(俺をハメた黒ギャル)に弟子入りする しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる @hailingwang
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