第21話 ゾディアック教団編 エピローグ
「君にはクロエ・ノワール嬢救出の功績を称えて褒章を与えたいと思ってね。それで君の体調次第で行う日程を決めようと思って今日はここに来たんだ」
「え?」
えーっと頭が混乱してきたぞ?
エドワードさんが国王様で僕のところにやってきて。
困惑している僕を置き去りにエドワードさんは続ける。
「医師に聞いたところ君の体調はもう完全に回復したらしいね。式典を行うなら早い方がいいと思って明日にでも執り行おうと思うんだけどいいかな?」
「え? あ、はい」
流れに任せて思わずうなずく。
「うん、分かった。それじゃあ私は公務があるからこれで失礼。さあ、フランス、グラン行こう」
そうして嵐のように過ぎ去ったエドワードさん達の背中を見送って僕は一人部屋に残された。
「え……?」
♢
翌日、早朝から僕は王城に呼び出されていた。
というのも式典を行うにあたって正装をする必要があるからだ。
着の身着のまま王都にやってきた僕が正装何て持っている筈もなく貸してくれるとフランスさんから後に通達があってこうして訪れたわけなのだが……。
「よくお似合いですよ」
「そ、そうですかね……」
「はい! 物語の王子様みたいです」
衣装の着付けを手伝ってくれたメイドさん達は可愛いかっこいいと褒めてくれたが僕にはどうにもそうは思えない。
普段は適当なヘアゴムで纏めている長髪を今日は紺色のリボンで留め、白色の騎士服のような物に袖を通している。
これから国王陛下の前で授章するなんて僕に出来るんだろうか……。
このような式典の作法何て全く分からないし。
今からもう既に気が重い。
「「はぁ……」」
衣装室を出た廊下で溜息を吐くと隣から同じように溜息が聞こえた。
振り向くと黒いドレスに身を包んだリディアさんと目があった。
「り、リディアさん!?」
「シン!? お前こんな所で何してるんだ!」
「それはこっちの台詞ですよ! もしかしてリディアさんも今日式典に?」
「ああ……。私はそんなものが欲しくてやったわけでもないし人前に出るのも嫌だったんだが……式典に出ないならば功績も公のものにならないから賊と同じ扱いになってしまうかも、だとか脅してきやがってな」
「あ、あははーそうだったんですねぇ」
ふつふつとした怒りを滲ませ拳を握るリディアさんを横目に少し距離を置く。
二人で気を重くして式典の開始を待っていると背後から声を掛けられた。
後ろをかえり見ると立っていたのは紺色のドレスを着たクロエさんだった。
「え、クロエさん!? クロエさんも式典に出席するんですか?」
「ええ、もちろん。というか殆どの貴族が今日の式典に出席すると思うわよ」
「はぁ……」
「うへぇ……」
僕とリディアさんが溜息を吐く姿を見てクロエさんは面白そうにクスクスと笑う。
「何が可笑しいんですか……」
「ごめんなさい、だって二人共これから褒章されるというのに凄く嫌そうな顔をするものだから」
「僕が人の多い所苦手なのクロエさんも知ってるじゃないですか……」
「あら、でも克服したんじゃないの?」
「式典なんて凄い数の人に注目されるのは別ですよ!」
「ふふっ、そう。リディアはどうして嫌なのかしら?」
「……別にお前には関係ないだろう」
「そんなこと言って。せっかく私が二人のために式典の簡単な作法教えてあげようと思ったんだけどな~」
ちらちらと横目でリディアさんを見ながらクロエさんが笑う。
「うっ……。悪かったよ、貴族とか人前とか私もあんまり得意じゃないんだ。これでいいだろ……?」
「よろしい。それじゃあ――」
簡単な作法をクロエさんから教わり僕とリディアさんはついに呼ばれた。
式典を行う場所のことは知らされていなかったのだがこれは……。
場所は王都の中央、王城のテラスのような場所。
その場所は大勢の市民が集まる広場からよく僕達の姿が見える位置にあった。
最奥には豪華な椅子とそれに座る国王陛下。
その左右には昨日エドワード陛下と一緒に僕の病室を訪ねてきた二人が並び、テラスの左右には正装に身を包んだ貴族らしき人々がずらりと立ち並んでいる。
「これより叙勲式を始める! 叙勲者の二人は前へ!」
その声を前に僕達は国王陛下の御前まで進む。
だがこんなにも大勢の人に見られていると思うと緊張で身体が思うように動かない。
ぎこちなく御前まで出るとリディアさんとタイミングを合わせて膝を着く。
「良い、楽にしたまえ。面を上げよ」
威厳に満ちた声。
顔を上げエドワード陛下の顔を見ると昨日見たものとは全く異なっていた。
あの柔和で優しそうなエドワード陛下の姿はなく、そこにあったのは紛れもない王としての威厳に満ちた姿だった。
そこからのことはあまりよく覚えていない。
エドワード陛下から褒めて頂き勲章を受け取り、気が付くと僕は再び膝を着いていた。
あ、ようやく式典が終わるのか。
そう思うとほっとして僅かに息が漏れた。
ついにこの緊張感ともおさらばできると思っていたら最後に陛下からとんでもない発言を貰ってしまった。
「せっかくだ、どちらか広場に集まった民に対して一言何か言ってやってくれ。新たな素晴らしい
何を言っているんですか!?
ぎょっとして目を見開くと貴族らしき人々もそれはいいなどと口々に進めてくる。
「失礼ながら発言宜しいでしょうか陛下」
「許す。面を上げよ」
突然声を上げたのは隣で僕と共に膝を着くリディアさんだった。
「私は今回の騒動において隣のシンからの要請を受けて動いたに過ぎません。ですので市民が求めているのはクロエ公爵令嬢を思い行動に移したシンの方が相応しいと思います」
「え? リディアさん、え?」
小声で再び膝を着いたリディアさんに語り掛けるとリディアさんは僕に目で語り掛けてきた。
すまん、頼んだ。と。
「そうであったか、それではシン。そこから民に何か一言声を掛けてやってくれ」
頭が真っ白なままテラスの端へと歩いていく。
僕の姿がより見えるようになったところで下の広場に集まった人々の歓声が大きくなるのを感じた。
ど、どうしよう……。
何を言えばいいんだろう?
真っ白な頭で何て言えばいいのかと考えていると僕の言葉を待ってか広場が静まり返る。
やめて!!
そんな風に静かになったら余計どうすればいいか分からなくなっちゃうから!
どうしていいか分からずもう駄目かと思ったとき僕の隣に誰かが悠然と歩いてくる音が聞こえた。
隣を見るとそれはクロエさんだった。
クロエさん……!
縋るようにクロエさんを見つめると視線に気づいたクロエさんが悪戯っぽく笑みを浮かべた。
その笑顔を見た途端何だか途轍もない嫌な予感が頭を過った。
「私を助け救ってくれた彼はシン。彼は少し恥ずかしがり屋なので代わって私が一言お話します」
僅かな笑いが起きた後、再び静まりかえり広場に集まった人々はクロエさんの声に耳を傾ける。
「私は婚約を発表したライオネットによって誘拐され拘束されていました」
広場の市民のどよめきがここまで伝わってくる。
「
「おおおお!」と声が湧く。
クロエさんの語りにも徐々に力が入り始めそれに聞き入る市民の熱量も同じように上がってきたように感じる。
「これで逃げられる、そう思ったときライオネットが私達の前に現れ私のことを渡すようシンに言ったのです。そしてそれに対しシンは言いました、僕の大切なクロエは渡さない、と」
「え?」
「おおおおおおおお!」と先程よりも沸く広場。
どよどよと困惑する貴族の人々。
それ以上に言った記憶の無い言葉を言ったことに捏造されている僕の方が困惑しているんですが……。
「あの……クロエさん……?」
僕が声を掛けるとやっぱりクロエさんは僕に悪戯っぽく笑いかける。
「そしてライオネットを破り、私のことを助け出してくれたのです。ですが私のことを助けてくれたのは彼だけではありません。彼の剣の師でもあるリディアと二人で私を助け出してくれたのです。勇猛な二人の新たな
そう言葉を締めくくりクロエさんは場を後にする。
そうして式典は終了した。
♢
式典の翌日、学院に再び登校することになる僕の気持ちは重かった。
何故なら昨日の式典を経て王都中、僕の話で持ちきりだったからだ。
今朝僕もその号外の新聞を目にした。
内容は以下の通り、王国に二人目の男の
それもこれもクロエさんがあんな風に言ったのがいけない。
「はぁ……」
「あら、溜息を吐くと幸せが逃げるわよ?」
「誰のせいですか……」
支度を整えた僕達は学院へ向かう。
寮から出て学院へと向かう道中の視線が痛い。
だが視線が痛いことは廊下でも教室についてからも変わることはなかった。
教室では既にリディアさんを中心に人の輪が出来ていてその中心のリディアさんは居心地悪そうに席に座っている。
こんな風に今回の騒動を経て変化してしまった僕の生活だったが、変化したことは他にもあった。
放課後いつもの修練場に向かうとそこには既に鍛錬を始めているリディアさんの姿と――。
そこに並ぶクロエさんの姿があった。
誘拐騒動を経て己の力不足を痛感したとクロエさんがリディアさんに剣の教えを請いに来たのだ。
そうして僕とリディアさんとクロエさん。
三人並んで今では剣の修練に励んでいる。
「それにしてもまさかお前が私に剣を教えて欲しいと言ってくるとはな」
「あら? いけない? だって今の私よりもあなたの方が剣の腕が上なのは確かだもの。なら教えてもらった方が効率的でしょう?」
「前までは私に負けて以降ずっと私を見かける度に憎悪の籠った眼で睨んできてたけど随分と変わったものだ」
「なっ、あれはあなたがハリボテの剣だなんだと言ってきたのが悪いんでしょう!? それにあなたの方こそシンに剣を教え始めてから随分と丸くなったじゃない」
「ばっ!? それは関係ないだろう!?」
「ふ、二人共落ち着いて――ひぇっ……」
徐々にヒートアップしていく二人の口論を止めようと間に入ると二人の鋭い視線に射抜かれてすぐに委縮してしまう。
「シン、お前はどっちの味方なんだ?」
「え?」
「そんなことは言わなくても分かると思うけどな~。勿論シンは私の味方よね」
「えーっと……」
二人共目が、目が怖い……。
「どっちもの味方……とかじゃ駄目ですかね」
「「シン?」」
「無理です決められません!」
徐々に近づいてくる二人に背を向けると僕は修練場から逃げ出した。
じいちゃん僕は、僕はどうすればいいのでしょうか。
果たして僕はこの騎士学院で上手くやっていけるのでしょうか……。
※これにて第一幕を終了としたいと思います。
ここまでお付き合いいただいた皆様に感謝したいと思います。
今後なのですが一度この作品の投稿をストップしてもう一つ構想を練っている作品に手を出そうかと考えています。
その作品でも同じように区切りの良いところまで書き切ったらこの作品と新しい作品、より続編を期待されている方の続編を続けようと思います。
それではまた。
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伝説の鍛冶師の孫、騎士学院で無双する 赤井レッド @Famichiki_Red_1060
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