15話:空の旅
出発当日になり魔王城の庭にはフェイドとエリシア、テスタのほかに八魔将の面々が見送りへと来ていた。
「ネロ」
名前を呼ぶとフェイドの影が広がって一匹の黒銀色のドラゴンが現れた。
首を下げて乗りやすい姿勢をとる。
エリシアが八魔将に告げる。
「事前に伝えた通り、私はしばらく魔王城を開けることになる。その間の指示はモードレッドを中心に行うように。他はそのサポートをできるだけするように」
全員が跪いて「はっ」と返事を返す。
それを見て満足そうに頷き、先にネロへと飛び乗った。
「テスタ。魔王様に迷惑をかけないようにしろ」
「もう! モードレッドはボクのことをなんだと思っているさ!」
「私から見ればテスタはまだまだ子供だ」
「子供じゃないもん!」
「魔王様の言うことをしっかり聞くのだぞ」
「もちろんだよ!」
モードレッドはテスタの返事に満足そうに笑みを浮かべる。そしてフェイドを見た。
「魔王様とテスタのことを頼んだぞ」
「任せておけ」
「お前がいれば安心だ。無事に戻って来い」
それだけ言うとモードレッドは少し下がった。他の面々も何も言うことがない。
「フェイド、往くぞ」
エリシアに言われてフェイドはネロに飛び移ると、指示もなくゆっくりと翼を羽ばたかせて飛び上がった。
一瞬で魔王城の上空までいくと、そこから目的地である北西へと向かって移動を開始した。
「ふむ。やはりドラゴンの背から見る景色は良いな。フェイドもそうは思わないか?」
「そうだな。風が気持ちいい」
「ボク同じだよ! 風が気持ちいい!」
フェイドはネロの背で横になり、エリシアに目的地までの時間を尋ねた。
「エリシア。どのくらいで到着する?」
「そうだな。ドラゴンでの移動ってことを考えると、二日しないで着くだろうな」
「ならそれまで暇になるのか」
「私はやっとできた暇な時間だ。有効活用しよう」
そう言ってエリシアは横になって目を瞑った。エリシアは寝る時間も惜しんで様々なことを行っていた。
加えて配下に指示を出してたりと多忙な生活を送っていた。
「暗くなったら起こしてほしい」
「分かった。少しは冷えるだろうから、これでも使ってくれ」
そう言ってフェイドは影から一枚の毛布を取り出して、横になっているエリシアへとかけた。
エリシアはフェイドがこのようなことをするとは思っていなかったために、思わず顔をそちらに向けてしまった。エリシアが見ていることに気付いたフェイドは顔を向けた。
「どうした?」
「なに。思ったより優しいところがあるのだと思ってな」
「俺だって良心や優しさくらい持ち合わせている」
フェイドの発言にエリシアは可笑しそうに笑った。
「連合軍を殲滅した冷酷な男が良心や優しさを持ち合わせているとは」
「いいからさっさと寝ろ」
「ふふっ、ではそうさせてもらおうか」
「魔王様、周囲の警戒はこのボクにお任せください!」
「そう警戒する必要もない。ゆっくり体を休めておけ」
「は、はい!」
そう言ってエリシアは寝るのだった。
フェイドがのんびりしていると、そこにテスタが声をかけてきた。
「ねえ、フェイド」
「ん?」
「どうしてフェイドは魔王様に協力したの? それだけの力があれば、魔王軍だって倒せたはずだよ」
テスタはフェイドの底の見えない力と、陰に潜む軍勢を感じてそう言ったのだ。
その陰に潜む軍勢も、気配だけで魔王軍以上の戦力と力を秘めていると感じていた。それゆえの発言だった。
「俺は魔王軍になんの恨みも持っていない。家族を殺されたわけでも、親しい友を殺されたわけでもない。何もされていないのに恨むのは見当違いってものだ。だから俺は、家族や村のみんなを殺し、人類の裏切り者と扱った国を恨み復讐を望んだ」
テスタは何も言わない。ただ、表情は聞いたことを悪いと思っており暗かった。
フェイドは寝そべって空へと右手を伸ばす。
「俺のこの力は復讐のためにある」
そう言って伸ばした右手を強く握りしめたのだった。
勇者断罪~ギフトが覚醒した俺は闇の軍勢を率いて魔王と共に勇者と人類に復讐する。人類には失望しているので今更謝られたところでもう遅い~ WING/空埼 裕 @WINGZERO39
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