14話:八魔将テスタ

 フェイドの前に手が差し伸べられたので手を取りフェイドは起き上がる。


「ありがとう」

「気にするな」

「凄いな。戦ってみて分かったが、剣技だと俺はモードレッドに及ばないようだ」

「そう言ってくれると鍛えてきた甲斐があるというものだ。フェイドの剣は素人同然だが、身体能力がそれをカバーしているように見える」

「魔法以外にモードレッドに勝てると言えば、力技くらいしかない」

「謙遜するな。純粋な剣技のみの勝負なら私の勝ちだったが、魔力を使った戦闘なら私の完敗だ。フェイドには手も足も出ない」


 モードレッドの言う通り、魔力を使った勝負ではフェイドの圧勝だ。フェイドは力技では磨いてきた技術には勝てないと理解させられた。


「時間がある時は俺に剣を教えてくれないか?」

「いいのか? 俺はお前より弱い」


 モードレッドは的確にフェイドの実力を見抜いているからこその発言であった。

 だがフェイドにとってはそんなことどうでもよかった。それは――。


「強くなるために、その道に長けている者に頼むのはダメなことか?」


 フェイドの言葉にモードレッドは目を丸くした。「弱い者に教えを乞うつもりはない」と言うと思っていたからだ。

 だからフェイドがこのようなことを言うとは思っていなかった。

 思わず笑みを浮かべてしまう。


「ふっ、面白い。いいだろう。私がフェイドに剣を教えてやる」

「助かる」


 互いに握手を交わすのだった。

 そこに声が聞こえた。


「二人ともすごかったよ!」


 テスタが駆け寄ってきた。

 そしてフェイドを見てフフーンとドヤ顔をする。


「モードレッドは強いでしょ!」

「ああ、強いな。純粋な剣技では勝てる気がしないな」


 フェイドは素直にモードレッドの強さを認めていた。魔力も使えば、勇者など余裕で倒せる実力がモードレッドにはあった。

 エリシアがいなければ魔王になっていた男である。剣技のみでは魔族一の使い手であり、エリシアですら勝てないと言わしめるほどだ。


「魔王様も認める、魔族一の剣の使い手だもん!」


 周りの魔族も二人の戦いを見てモードレッドの強さを改めて実感していた。

 加えて、フェイドの反応速度と基礎的な身体能力を見て驚いていた。それは魔族が身体強化をした時以上の能力値である。

 モードレッドがテスタの頭を雑に撫でる。


「な、何をするのさ!?」


 モードレッドの方を向き恥ずかしそうにするテスタ。だがテスタには反応せずにフェイドを見て修練場にやってきた要件を尋ねる。


「それでお前はどうしてここに?」

「テスタに用があってな」


 その言葉だけでモードレッドは察していた。


「なるほど。支配者を探しに行くから、その挨拶のようなものか」

「エリシアに言われてな」

「だそうだ」


 モードレッドはテスタに視線を移す。話を聞いていたテスタはモードレッドから離れてフェイドに向き直る。


「ボクは第五軍団長のテスタ! あらためてよろしくね、フェイドさん!」


 笑顔で差し出された右手をフェイドは握り返した。


「よろしく頼む。それと、俺のことはフェイドで構わない」

「よろしくね! フェイドさん!」

「まあ、それが呼びやすいなら構わないが……」

「フェイドさんはこの後も暇なの?」


 テスタに挨拶をした後は、のんびり散歩をしようかとかんがえていた。そのことを話すと、テスタの顔色が喜色に染まる。


「つまり、暇ってことだよね!」

「まあ、そうなるな」

「ならボクとも模擬戦をやろうよ!」


 期待するような目でフェイドを見るテスタ。


「フェイド。私はこの後予定がある。悪いがテスタの相手を頼みたい」

「やることもないんだ。それくらい構わない」

「助かる。テスタ、フェイドに迷惑をかけないようにしろ」

「はーい!」


 そう言ってモードレッドは去っていった。残るのはフェイドテスタ、魔族の面々である。

 そしてテスタはフェイドの手を引いて満面の笑みを向けた。


「じゃあ、今度はボクとも模擬戦をやろう!」

「その後は俺とも!」

「ずるい、俺ともやってくれ!」


 次々に声がかけられ、フェイドはやれやれと頷くのだった。


「うんじゃあ、一人ずつかかってこい」


 こうしてフェイドはテスタのみならず、次々と魔族の兵士を相手して全勝するのであった。

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