お題短編小説
浅瀬ワカル
迷子の二人
「いい加減仕事見つけなきゃな……」
俺はハローワークに来ていた。求職者登録をするためである。
俺は
祖母が亡くなったという知らせを受けたのはつい数日前のことだった。祖母は本を読むのが好きで、よく祖母の家に行っては小説を読ませてもらっていた。お気に入りは長編のファンタジー小説だった。その小説は祖母も気に入っていたシリーズで、祖母とよくその小説の話をしたものだ。そんなこんなで、俺は空想の世界に浸るのが大好きになった。
そして、俺の空想の舞台はいつしか小説からゲームに移っていき、祖母とも疎遠になっていた。そんな祖母が、亡くなった。
母が言うには、俺が最初に「読みたくない」と言って返事をしなかったときからもずっと、祖母から母のアドレスに俺のことを心配するメールが送られてきていたという。とても悲しい思いをさせていたに違いない。
たとえば、もし俺がいる世界がもう少しキラキラした物語なら、祖母と一緒に楽しんだような小説を書く小説家になる夢を追いかけるなんてのもアリかもしれないだろう。しかし、いざワードプロセッサを立ち上げると、頭の中が真っ白になってしまうのだ。小説家になるのは一瞬で諦めた。あとは介護とか一般事務とかそういう仕事だろう。俺には特に夢がなかったのだ。
そうして俺はハローワークにたどり着いた。すると入口近くに、幼い少年が立ちつくしていた。迷子だろうか?でも、俺みたいな成人男性が声をかけようものならたちまち不審者扱いだろう。
「わあああああ!!」
それ見たことか。少年は俺を見るなり泣きだした。とっさにスマホを取り出し、「迷子を見つけたら」と検索をかけた。俺がこの子どもを連れまわして親を探すというのは現実的ではないということが改めて分かっただけだった。この辺りで頼れる大人といえばハローワークの職員ぐらいだろう。俺はハローワークの中に入った。
中は思ったより静かではなく、色々な利用者が職員と会話しながら職探しをしていた。まあ明るい場所ではないだろうが……。俺は手近な職員を見つけて、話しかけた。
「あ、あの」
「何でしょうか?」
「外に、迷子の子どもがいるんですけど……」
「わかりました、話をしてきますね」
職員が外に出る。
そしてその職員の話術たるや。少年はすぐに泣き止み、職員についていった。
結局、彼の母親はハローワークの中で職員と話をしていただけだった。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「え……俺何にもしてないけど……」
「私を呼んでくれたじゃないですか、普通なら『誰かが何とかするだろう』と見てみぬふりをしますよ」職員は言った。
あれから数年が経った。俺は今、ショッピングモールの迷子センターで働いている。きっかけは本当に些細なことだったが、なんだかんだ天職に巡り合えたと思っている。親と合流できた子どもが安心した顔を見ると、俺まで嬉しくなるのだ。
お題短編小説 浅瀬ワカル @asase_wakaru
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