第6話

 しかし一度くらいブラックに頼みに行こうかとも考えた。売った後では彼に言っても仕方の無い話で、ブラックに相談するなら早いうちにと思った。

また私は彼の土地を早い中に買っておけばよかったと後悔もした。以前彼はお金が要りようになって私の家に土地を買わないかと持ちかけてきたことがあった。しかし、彼が私にお金の話を相談すること自体に憤慨して会いもしなかった。お金が要りようなら相場以下で相談するのが筋であろうし、彼の言ってきた金額は相場より2~3割高かった。私に土地の売買によるお金が入っていることを知った上で、高めの金額を提案してきたことは明らかであった。彼の土地の隣に土地を持っていることは以前から気になっていた。トラブルの元になりかねないと心配していた。だから土地を買おうとも考えたこともあったが、彼にお金を掴ませるのが癪に障った。しかし彼は10年以上も前から、そこに道路ができるから将来的には値上がりすると言っていた。教会を平穏に保ちたいなら自分で土地を買って、管理するのが良いと言っていた。今になって考えると、彼の言ったとおりに事態は進行していた。だから余計癪に障った。また信仰心も無いのに平穏を保てなどと言う彼に腹を立てたことも事実だ。

 彼が土地を買ってくれといって、私の家を訪れたとき、彼に関わらなくてはいけないことに煩わしさを感じたが、それを玄関先で断ったことは、私に若干の優越感を与えた。彼を家の中にもいれず、玄関先で話を聞いて、断り、彼が玄関先にいるときに戸を閉め、玄関の電気を消したあのときの行動を彼はどのような気持ちで受け止めたのか私は今まで考えもしなかった。私が彼にした無礼はそれまでの私と彼の関係からいって、私にとって自然のことではあった。しかし今度は自分が彼に頼みに行く段になって、私のあの時の無礼が余計に自分を苦しめた。だからなるべくなら、彼に頼みに行かなくて済む方法を選択したかった。でも心の何処かでは、だからこそ今回は私が彼に頭を下げる屈辱を受ける番であることを覚悟したりもした。色んなことを車のなかで、その会社のビルの前で考えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蛙が出てくる話 二重一意 @ABCDBOOK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る