《領民視点》優しい領主様

 この地区は、奴隷地区と呼ばれていた。

 モンスターとの戦いに負けた人間が、奴隷として働かされている場所だったのだ。



 特に、先代領主のモンスターは、邪悪の一言であった。

  税の取り立てのたびに、愉悦交じりに殺されることも度々あった。

 領民たちは、常に飢餓状態であった。



 そんな中、聞こえてきたのは新たな領主の噂だ。

 やって来るのは元・四天王の地位を持つというモンスター。


 領民たちは不安に怯えていた。

 最弱モンスターだからという理由は建前。手のつけられない暴れものだから島流しにされた、という噂が領内に駆け巡った。



 どんな者が訪れるのかと領民たちは怯えていた。

 そんな彼らが見たのは、すっとぼけた顔をしたカリンという名の少女であった。


 

 愛嬌のある笑み。

 絶世の美少女ではないが、見ていて安心する雰囲気を持っている。

 正直なところ住人たちは、最初、カリンのことを新たな領主だと気がついていなかった。

 それほどまでにフレンドリーで、村に溶け込んでいたのだ。



 そんな少女が、真の力を示したのは絶体絶命の村の危機。


「まじかよ倒しちまった!?」

「 あれだけ恐ろしかったワイバーンを、ゴブリンにバフをかけるだけで!?」


 カリンという少女は、噂に違わぬ強さを持った四天王であった。しかも、それだけの強さを見せながら、彼女は領民たちに行動を強いることはなかったのだ。


 それどころか、領民を気遣う様子を見せている。ただの少女のように村人と一緒になって遊んでいるし、ある日には近所のおばちゃんに餌付けされていたという。


 あれだけの強さを見せつけたのだ。

 力ずくでこの地を支配することなど容易だろう。

 それでもなお、腕っぷしには頼らずに領地を収めようと心がけているのだ。圧倒的な力に怯えていた領民達は、少しずつ気持ちを変えようとしていた。



 今、土地は痩せ細っている。

 取れる果物や野菜も、正直なとこ質が良いとは言えないものだろう。しかし、カリンはそんな不満を言わず、美味しい美味しいと言って食べていた。

 こちらが申し訳なさそうに謝ると、こんな美味しいものを食べさせてもらってるのにどうして謝るんだ? と本気で不思議そうな顔をするのだ。


 きっと先代の領主が、横暴働いたことを悔いているのだろう。


「新たな領主様がカリン様で、本当に良かった!」

「間違いない。カリン様は、神が使わしてくださった救世主に違いない!」

「神は我々を見捨ててはいなかった!」


 領民の暮らしは、またたくまに改善した。

 カリンという少女は、問題を聞くや否や、瞬く間に部下に命じて解決してしまうのだ。

 水が足りないといえば、翌日にはゴブリン集団が工事を始めていた。近くの川から水を引いて用水路を作るということを、わずか一週間足らずでやってのけたのだ。


 野生の動物や時折襲ってくるモンスターは、根こそぎカリン率いるゴブリン傭兵団が返り討ちにしている。

 この村の生活環境は、まさしく一変した。




 そんな救世主たる彼女は、今日も何をしているかと言うと……、


「カミーユ、助けてくれ! 体重が、体重が増えた……」

「それはずっと食っちゃ寝食っちゃ寝していれば当たり前ですよ」

「そんな現実はいらない」

「なら、モンスター討伐の旅にでも行きますか? ゴブリン山賊団が今から向かいますよ」

「そ、それはまたの機会にな……?」


 カリン様は、きっと今日も屋敷に引きこもって重大なことを考えているのだろう。

 それが何なのかは分からないが、平和を望む元四天王なのだ。きっと素晴らしいことを考えているに決まっている。


「俺たちも自立しないとな」

「ああ、いつまでもカリン様にぶら下がってはいられねえ!」


 領民たちが決意を新たにした数日後。

 彼らはカリンの決意を垣間見ることになる。


※※※


「魔王城で革命が起きた!?」

「指揮していたのはカリン様だって話だ!」


 ある日、そんな噂が村を駆け巡った。

 魔王城から使いの者がやってきたのだ。

 もたらされた知らせは、悪逆の限りを尽くしたガルガンティア宰相を見限り、カリンに忠誠を誓うものたちが続々とこの村に集結しているという情報であった。

 なんでも、魔王本人すらこちらにやってきているらしい。



 歓迎パーティーが開かれる事になった。

 領民たちの間に、またしても緊張が走る。

 もし魔王の機嫌を損ねれば、民が皆殺しにされるかもしれない。しかし、そんな心配は杞憂であった。


「カリン様、あ~ん!」

「おい、ばか。離れろ、リズ! まったく、私にも威厳というものが…………、パクリ。うむ、美味しいな!」

「カリン様……。こっちも美味しいですよ? はい、あーん」

「カミーユもいいから離れろ! 何をそんなに何をそんなに羨ましがっているんだ!?」


 勝ち誇った顔するリスベット。

 何か勝ち誇っているカミーユ……、一体この二人はどうしてしまったのだろうか。


 そんな二人に囲まれ、カリンは慌ただしく叫ぶ。

 そんなカリンの様子を、どこか孫でも見守るように領民たちは見つめていた。


 きっとこの少女は、このような弱小領地など、一瞬で消し炭するほどの力を持っているのだろう。

 しかしそんな様子はおくびにも見せず、あくまで親しみやすい領主として優しい顔をしている。


 そんな彼女だからこそ、ここに集った面々も心を開いたのだろうし、魔王ことリスベットも懐いているのだろう。



「ほら、祭りが終わったら帰れよ?」

「帰る時は、カリン様も一緒です。凱旋です、凱旋!」

「や~め~て~く~れ~~!?」


 楽しそうに微笑むカリンとリズベットの間では、そんなささやきが交わされていたとかいないとか。

 今日もカリンの周りは(不本意ながら)騒がしかった。


===


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《普段はこんなもの書いてます!》

【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう

https://kakuyomu.jp/works/16817330654185599310

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ポンコツ少女に四天王は務まらない!?~魔王城をクビになったので辺境スローライフを始めようと思います(始まらない)~ アトハ @atowaito

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