【悲報】魔王城、爆破される。犯人は・・・元・部下らしい

「ひやっぽい! 追放、最高!!」


 忌まわしきワイバーン隊の襲撃から一週間後。

 私は、辺境の開拓村で、思う存分ぐ~たらライフを満喫していた。


 なぜか知らんが、この村の中で、私は神のように崇め讃えられていた。


 起きたら何故かお供え物がしてあった。

 大好きなみかんがあったので反射的にもぐもぐと食べてしまったら、可愛いと近所のおばちゃんに言われてしまい真っ赤になったものだ。

 わけわからん。

 

「おい、そこの変態メイド。写真撮影の許可などやらんと言っているだろう!?」

「えぇぇぇえ!? もったいないですよ、絶対儲かりますって!!」

「まったく……、主人を利用して金儲けに走るメイドがどこにいるって言うんだ」

「ここにいますよ!」


 胸を張って言うことじゃない!



 変態メイドは、普段の調子を取り戻していた。

 ゴブリン山賊団の面々は、なぜかはわからんが修行に精を出していた。まあ、村人たちに恐れられない程度に、ほどほどに頑張ってくれ。


 今日も村は平和だった。

 第三部、完。私は寝━━



「た、た、た、た、大変です~~!! カリン様!!」

「ふぇ……!?」

「魔王軍の副団長を名乗る者が、面会を求めています!!」


 突如、飛び込んできたのは、そんな報告。


「カリン様、布団に潜らないで下さい!」

「い~や~だ~~! ぜっっったいに面倒ごとじゃないか!!」


 粘ったが非力な私では、変態メイドの怪力にはかなわず。

 村から外れた空き地で合流し、話し合いの場を設けることになってしまった。



「また、カリン様のご意向が理解できぬ者が現れたというのだな」

「ふっふっふっ、我々でボコボコにしてやろうではないかーー」

「できるだけ穏便にな……?」


 日々の修行の成果を見せる時です、と血気盛んなゴブリン集団をなだめておく。

 相手は、魔王軍の幹部なのだ。

 ワンパンされて終わりぞ?



「さあ、カリン様! 出撃のご命令を!!」

「まったく、少し頭を冷やしなさいこの脳筋集団。 今回は話し合い━━その見届け人を頼まれたのでしょう?」


 お、いいぞ。

 私と同じ穏健派がゴブリン集団にも……


「少しでも優位な条件で、交渉が進むよう……力の見せ所というのはですね━━」


 あ、これは駄目なやつだな。

 ゴブリン集団の中でもわずかな知性派ことメガネ君まで、そんなことを言い出した。私は遠い目になって、そのままカミーユの後をついていくのだった。



 歩きながら私は、隣を歩く元・ゴブリン盗賊団(この村に移り住んでからは足を洗ったらしい)の男に質問する。


「ところで、訪ねてきたのはどんな人だった?」

「はっ! それが騎士服を着た吸血鬼(ヴァンピール)の一族で……」


 ふむ……。

 ヴァンピールといえば上位魔族。こりゃ、私が戦ったら一撃で殺られるな。


「所属は第4小隊。なんでも副官を名乗っており━━名前はアルフレッドというようでして……」

「……へ?」


 聞き覚えのある名前であった。

 と言うか私の部下の名前である。


「た、たまたまという可能性もまだ……」


 平穏が崩れ去る予感を感じながら、私は村の入口に向かうのだった。


※※※


「おお、カリン様! よくぞご無事で!!」

「うむ。日々とても楽しく過ごしておるぞ!」


 会合の席にて。

 アルフレッドは私をみるなり、輝かんばかりの笑みを浮かべた。



「ところで一体何の用だ?」


 アルフレッドは、忠誠心暑苦しい熱血漢である。


 私の100億倍ぐらい四天王の地位に相応しい。

 今頃、四天王の業務に忙殺されているのだろうと予測していたのだが、こんなところで油売っていて良いのだろうか。



「カリン様にご報告申し上げます」


 そのアルフレッドは、恭しく私に頭を下げた。

 なんだろう……、嫌な予感しかしない。



「我々、第四部隊は、無事、国賊ガルガンティア・エキスプレスを討ち取りました」


 ……なんて?



「クーデターです! クーデターが起こったのですよ、カリン様!」


 楽しそうなカミーユが、そう捕捉してきた。

 衝撃冷めやらぬ私とは大違い。人生、楽しそうで羨ましい限りだ。


「カリン様を無断で追放したことで、暴徒と化した我が隊の連中が、あの愚か者の演説中に襲いかかりまして……」

「いや……、いやいや!? なにしてるの!?」


 これが魔王城クオリティ。

 こっわ!


「近衛をぶっ飛ばして袋叩きにしてしまいまして」


 誇らしそうな笑みを浮かべるな!

 私は、根っからの平和主義者だ。本当に追放されて良かった……。


「何をやっているんだ、お前たちは……。そういう暴動を抑えるのが、アル。お前の役割じゃないのか?」

「いえ、我々の忠誠はカリン様だけに向けられておりますので」


 そんな危険な忠誠はいらん。



「マジ……?」

「大マジですね、カリン様。遠見の魔道具を使って覗いたところ、お城が燃えているようです」

「…………は?」


 カミーユが、また恐ろしい報告をあげてきた。



「お前らマジで何してんの? リズに殺されるぞ」

「ご安心を、魔王リスベット様もこちら側です。 カリン様の追放は過ちだったとお認めになられたのですよ」


 いいや、私を追放したのは大正解だ。

 私が保証しよう。


 だから、鎮まれ嫌な予感……。

 アルの後ろにたたずむ見覚えのあるシルエットは、もしや……、



「申し訳ありませんでした、カリン様」


 深々と頭を下げたのは水晶を抱えた小さな少女。

 上手く化けているが間違いない。魔王リズベットの擬態した姿だ。



「お前まで城を抜け出して……。いやいや本当に何やってんの?」

「ごめんなさい、カリン様。ですが……、もう今までの弱い私はもうお別れです!」


 目に強い光を宿らせ、リズベットがそう言いきる。

 その手はガッツリと私の手を掴んでいた。



 嫌な予感が止まらない。

 ひとときの平穏が、がらがらと崩れ落ちていくような…………。



「私、なんでもこれまではガルガンティア宰相の言いなりになってしまいました。理想を抱き、国のために尽くしてきたカリン様のことを追放してしまった事を、ずっとずっと悔やんでいたんです」


 理想(弱者=私も笑って暮らせる世界)のことか。

 

 ただ正体バレに備えて、それとなく価値観を変えられないか試みていたんだよな。

 純度100%、私のためだ。理想を抱き、国のために尽くしてきた聖人って一体誰のことや……、という私の内心のツッコミにも関わらず、アルフレッドや第4部隊の面々、さらには後ろに控えていたゴブリン山賊団の面々すら、真面目な顔で頷いているではないか。



「リズ、今回の騒動に加わったやつは一体誰がいるんだ?」


 とても嫌な予感がする。

 さっきから私の脳内でアラートがなり続けているのだ。


 願わくば、ガルガンティア宰相とリスベットで、ともに平和な国を築いていって欲しいものだ。

 ただ私は、ここで平穏無事に暮らしたいだけだというのに。



「やっぱり私には魔王の座は務まりません。この地位をカリン様に明け渡します! さあ、カリン様! ガルガンティア宰相から魔王城を奪還しましょう!」

「「「カリン様、カリン様、カリン様!!!」」」


 ……駄目だな。

 リズは混乱しているみたいだ。

 私は、私の名を呼ぶコールを見なかったことにした。



「なあ、カミーユ。暴徒化した集団が目の前にいるんだがお帰り願うことは━━」

「カリン様が魔王に! 素晴らしいことです!」

「なあ、アル。なんかここに犯罪者の集団がいるんだが…………」

「何のことでしょうか、カリン様。あなた様に仇なす犯罪者とはガルガンティアのことでしょう」


 ………………。

 私は、全力でなかったことにしたかった。


  しかし、リズベットは私にべったりと張り付いたまま離れようとしなかったし、アルフレッドをはじめとする第4部隊の面々は、私に忠誠を捧げるがごとく平伏したまま動こうとはしなかった。

 私は、ずっと涙目である。



「ど、どうにかしてくれカミーユ!?」

「かしこまりました」


 主の願いなどなんのその。

 変態メイドはそそくさと集団の前に立ち、



「カリン様はこう仰られています! 必ずしや憎きガルガンティア宰相を打ち倒し、魔王城に平穏をもたらすと!」

「うおおおおお!」

「カリン様、カリン様、カリン様!!!」



 言・っ・て・ね・え!

 私の悲痛な叫びは、熱狂する雄叫びにかき消され、まるでどこにも届かなかったのである。



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