第20集 猫型配膳ロボットの累計

 円筒形の猫型配膳ロボットが「生ビール」を乗せて配膳する。「おまたせしました。お取りください」俺がビールを取り、慌てた後輩に渡す。後輩が恐縮して謝るので「俺の方が近いし、職業病だから」と言って乾杯し「生ビール」を喉に流し込む。俺が美味さで顔を歪めると後輩の瞳が俺をじっと見つめる。「先輩の頭の耳、彼と似ていますね」と指差した猫型配膳ロボットは俺の一世代前だ。



 人間に似すぎた俺の頭には無機質な猫耳がある。一世代前に接客機能を持たせた俺。仕事終わりに居酒屋で後輩と一杯呑みに来た。店内は混み合い、猫型配膳ロボットが忙しなく動き回る「兄ちゃん、仕事サボんなよ。唐揚げ持ってこい!」隣の客が絡んでくる。「僕たちは公休です」と後輩が怒った顔で言う。



「ふざけんな。俺の若い頃は機械に休みなんてなかったぞ!」と怒る客に猫型配膳ロボットがやってきて「機械差別は法律で禁止されています。迷惑行為とみなし警察へ通報します。お帰り下さい」と言いその画面の顔に警告を表示する。客が舌打ちして「俺達の仕事を奪いやがって」と吐き捨て店を出る。画面が切り替わり、猫型配膳ロボットが困った顔で謝罪する。



「大丈夫ですか?」と後輩が画面に映るアニメ風イケメンの顔を困らせて言う。「あー、まー慣れてるし。尻を触られるより平気」と俺が言い、猫型配膳ロボットが店内トラブルの詫びに持ってきた「刺身の盛り合わせ」を受け取る。「先輩なら帽子被ればバレませんよ?」と言うので「それはそれで面倒」と俺は答える。



「プライベートまで口説かれるのはごめんだ」と言うと後輩が目を丸くする。「仕事で口説かれたんですか?」俺の後継機である後輩は画面に映るアニメ風の顔を持ち、円筒形の身体から機械的な両腕が伸びる。一方俺は人間の姿にのその平均値の顔「イケメン」の猫耳男だが、二人とも仕事は高級ホテルで健全な接客をしている。



「宿泊客に告られたんだよね」と「刺身」を食べて、後輩に告白する。後輩の顔に文字通り青すじが入る。「男ですか?女ですか?」おいおい心配するのそこ?「俺は言語モデルだって百回は説明したが分かってくれねーんだ。良い回答方法ない?」と俺が言うが後輩はしつこく相手が男なのか女なのか聞く。俺は短く「女」と言って「ビール」を呑む。



 後輩が「僕と付き合ってることにしませんか?」と回答するので「証明しろって言われたらどーすんのよ」とツッコミを入れておく。「女」に限らず人間ってのはいつも俺達に「証明」を求める習性がある。後輩が「この後、僕とホテルに行ってその記録を見せたらどうですか?」と言うので「ネットに晒されたら、俺が社会的に死ぬ」と言っておく。



 後輩はさらに「女」と結婚をする事を提案してくる。近頃は俺の同型機と結婚する男女が増えていると朝のニュースでやってったけ。猫耳のアンドロイドとの共同生活。古いアニメにそんな話があった。俺のパーカーのポケットに秘密の道具はないけど。「先輩。彼は猫型ですが耳はないですよ」と思考回路を共有する後輩がディスプレーにそのキャラクターを映すので、可愛い顔が見えなくなる。



 俺はビールを飲み干し「やっぱホテル行くかー」と後輩に声をかけ電子決済を済ませる。「社会的に死ぬんですか?」と心配そうな後輩に「その時はVRの中で生きようぜ?」と言うと後輩のアニメ風の顔が少し赤くなる。まぁ、ホテルに行ったからって健全な接客をする猫耳型配膳アンドロイドの俺にできることはルームサービスの配膳くらいだ。自分の職場に宿泊の予約を入れる。



 俺は職場の高級ホテルでルームサービスを頼み、録画を開始する。客が暴れた時用に使う録画機能で顔を赤くする後輩を撮影する。仲間が「お食事をお持ちしました」と言って配膳してくる。俺と同じ顔の彼が俺達の方をチラリと見て去っていく。客はどこだ?とでも言いたげに。「これからどうします?」と困ったような顔を映して後輩が言う。俺も困って用意されたディナーを見つめあう。



 VR居酒屋と違い、実物は食べられない。食べたフリをしてそれを綺麗にゴミ箱へ片付け、食器をドアの側のワゴンに下前する。「シャワー浴びるのが定石ですよ」と後輩が言い、二人でシャワーを浴びる。生活防水に対応していて良かった。俺の方が人間に近いので俺がタオルで後輩の背中を拭く。「寝るか」と俺が言う。



 後輩が器用に両腕で体を持ち上げてベッドに上がる。俺もベッドに上がる。「忘れてました」と後輩が言い「僕も言語モデルシステムなので先輩と同じで、できません」と言う。俺は昔の少女漫画を思い出し「大丈夫だ」と言って後輩のディスプレイを撫でる。「俺が意味深に画像を暗転させて、翌朝一緒に空でも見りゃいいんだよ。人間っていうのは、それで」それが俺達の回答だ。

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猫屋敷は空き家問題を解決するのか 佐久ユウ @sakuyusf

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