しんどかったイベント
昨年、いとこ(年下)の結婚式に参列した。
めっちゃおめでとう、良かったねと祝福の気持ちでいっぱいだったけれど、それはそれとして、めちゃくちゃしんどかった。
まあ、少し話を聞いてください。
わたしは恋人どころか友達もいないフリーター戦士。
普段はそんな自分LOVEだけれど戦士も人の子。
正社員としてバリバリ働いている年下のいとこが職場で出会った素敵な人と結ばれて、愉快な仲間達そして家族に祝福されているという場面を眼前にすれば、流石に居心地の悪さが込み上げてくるのを止められない。
しかも昨年は色々あって、ちょうどこの時、わたしは無職のタイミングだった。
『生き方いろいろ……生き方いろいろ……』と念じてみても、踏み込んだ先が別世界すぎて心は今にも折れてしまいそうだった。
結婚式当日のことを振り返ろう。
ちなみに、結婚式に参列するのは三回目。
一回目も二回目も、身内の式だった。
今回の式場があったのは超ハイソサエティーなシティー。歩くだけで自己肯定感という名のHPがジワジワと減っていく毒の沼地。
通販で安く購入した『THE結婚式のゲスト』なドレスを身に纏い、わたしはひとり寂しく、駅に降り立った。
鏡でチェックした自分の姿はあまりに残念で、この時点でもう帰りたくなる。
これだったらいっそのこと上下ジャージ姿の方が格好つくんじゃないだろうか。下手に着飾っているから余計に滑稽で、我ながら見ていられない。
ドレスは似合っていないし、メイクはただただ厚いだけ。
ショートであるのをいいことにセットしていない髪は、なんとなくだらしない。
新調しなかった古いパンプスは、一歩進むたびズブズブと見えない沼地に沈んでいく。
いやいや、頑張ったんですよ。
やったんですよ、必死に。
メイクも勉強した、ドレスも寸法を調べてから購入した、その結果がこれなのです。
わたしは心の砂漠に崩れ落ちた。
大人になってからほとんど言葉を交わしていないとはいえ、幼少期はそこそこ交流のあった大切ないとこの、一大イベントである。
親族に不審者みたいな風貌の奴がいたら、いとこに恥をかかせてしまう。
そう思って気合いを入れたはずが、結果はどう見ても落第点である。
ああ、どうしよう。
しかしもう戻れない。
遅刻するわけにもいかないし、わたしはHPを削られながら式場へ向かった。
親族紹介というジャブみたいな苦行の後、式が始まる。
式は素晴らしかった。
神聖な雰囲気で、なんというかこう、気が引き締まる。
なんやかんや言っても心が洗われた。
そして披露宴へと続く。
披露宴も、いっぱい計画していっぱい準備したというのが伝わってくる、愛情盛り沢山の素晴らしいものだった。
だが、会話不可避の丸テーブルにストレス値は急上昇。
賑やかな会場。
華やかな参列者達。
盛り上がる周囲の会話。
居た堪れない気持ちはMAXで、わたしは披露宴の大半をテーブル上の皿を見つめることでやり過ごした。
それにしても結婚式の持つ陽の力は凄まじい。
新郎新婦のこれまでを振り返る映像やらスピーチやら、諸々の催しが展開されていくうちに、わたしもなんだか幸せな気分になっていった。
新郎新婦が親への手紙を読む場面では、わたしまで感動して泣いてしまった。そして披露宴が終わる頃には『わたしもこの幸せ空間の一部なのだ』と内心で勝手に盛り上がり、うんうんと喜びを感じていた。
だが、その魔法はあっけなく解けてしまう。
結婚式が終わり、参列者達は順に式場を後にしていく。
わたしも式場を出て、ハイソサエティーなシティーを駅に向かって歩きだした。
ひとりで。
数歩進んだ瞬間、これまで経験したことのないレベルの強烈な孤独感と焦燥感がわたしを襲った。
ついさっきまで幸せ空間の中にいたのが嘘のようだ。
めっちゃ寂しいし、なんかめっちゃ不安。
苦しい。
さっきの手紙とは全く別の意味で、涙が流れちまいそうだった。
言うなれば『大雨が降った後に虹が見えた』の、逆パターン。
虹を眺めて浮かれていたら大雨に降られた、みたいな気分。
勝手に一体感覚えちゃってたけど、実際のところわたしはあの空間に全然馴染めていなかった──ということを急に自覚し、恥ずかしくなった。
賑やかだった式場は一秒ごとに遠ざかり、心はどんどん冷えて、虚しくなっていく。
自己肯定感ゼロくらいの状態で、わたしはフラフラと家路についた。
あの時のことは今思い出しても、ううっ……となる。
わたしが学んだ教訓は一つ。
少しでも自分の人生に疑問があるのなら、結婚式に参列した時はひとりで帰らない方がいい、ということ。
だが、次に身内の誰かが結婚して式に参列した時も、わたしはきっとひとりで帰るのだろう。そしてまた、ひとりよがりのエッセイを投稿するのだ。
せめてその時には、今よりも文章を書くのが上手くなっていたらいいな、と思う。
行き詰まりさん 胡麻桜 薫 @goma-zaku-12
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