2年程前の冬。

 早朝便に乗る必要のあったわたしは、鉄道で空港に向かっていた。


 外はまだ暗い。


 プラットホームはいていて、静かだった。

 当然、車内も寂しいくらいに空いている。乗客はまばらに座っており、みんな眠っているように黙り込んでいた。


 わたしは、大きな窓に面した席に座った。座席が窓の方を向いているので、走行中の風景を眺めることができた。


 駅を出発した時、窓の外は暗いままだった。

 だが少し経つと、建物の隙間から淡い光がこぼれ始めた。

 鉄道が運河沿いに差し掛かった時には、地平線からだいだい色の光が昇り、染めあげるように水辺を照らし出していた。


 夜明けだった。


 鉄道はぐんぐん走り、大きな窓から見える景色は次々に変わっていく。

 でも昇る陽の光だけは、常にそこにあった。


 眠っていた街が、光に包まれてゆっくりと目覚めていく様子は、信じられないくらいに美しかった。

 街の全てが目を開き、湧き上がる活力を一斉に解き放っているようだった。

 夜から朝へと世界が変わる時には、毎日こんなことが起こっているのかと、唖然とした。


 それは当たり前の光景なのかもしれないが、わたしにはまるで、奇跡が起こっているように見えた。


 美しい夜明けに関する歌詞や物語の場面がたくさんあるけれど、その『夜明け』がつまりこれなんだと、ようやく分かったような気がした。


 それくらいに、綺麗だった。

 言葉で正確に表現することは難しい。

 もっと目に浮かぶような文章で伝えたいけれど、綺麗だったと言うのが精一杯だ。



 あの日、鉄道の窓から外を見て、わたしに何か変革が起こったわけではない。

 でも、衝撃に似た感動は、今も心に残っている。

 

 日が昇り続けてくれるなら、何度だって夜明けを見ようと思った。

 どこからでもいい。わたしの部屋の、小さな窓からでも、きっと見えるはずなんだから。


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