5

 世界の真実を語ってから、あいつは前よりも俺に甘えるようになった。あいつが言わんとしていたことも俺は理解ができた。幸福な不自由となんでもない自由、その両方が世界には存在していて、幸福な不自由は仮初のものだった。だからあいつは正しいものを求めた。気持ちはわかる。自分の存在以外全てが信じられないような世界で、縋ることができる存在があることは、どれだけ尊いことだろうか。


 そして一年。あいつは双子、お前らを産んだ。唐突に感じるかもしれないが、そしてすぐあいつの死期が訪れた。


「もう、逝くのか」俺が言った。涙がぽろぽろと零れた。「もっと、俺と生きて欲しかった」心からの本音だった。リバティに戻って延命治療を受ければあいつはもしかしたらもう少し生きれたかもしれない。結局あいつが"車掌"に頼ったのは一回きりだった。今ではその理由も分かる気がするけれど。

「愛は素晴らしいな。お父さんとお母さんは私を愛してくれていたのか、世界を愛していたのかわからないけれど、君からの愛は、きっと本物なのかな?」あいつはそう言った。あいつの世界じゃそうだったんだろう、愛が向けられているのが自分なのか、世界に対してなのか、分からなくなってしまうような、管理された世界。

「ああ、間違いなく俺は、お前を愛しているよ」「ありがとう、私もだ。そして、私は私たちの子も、愛している。この感情は、素晴らしいな、なんだか、ぽかぽかするんだ。とてもいい気持ちだ……」「俺もそう思う」あいつはそう言って、俺を抱き寄せて、耳元に口を近づけ、少し話をした後、死んだ。


 ってわけで急ぎ足になったが、あいつの話はおしまいだ。すまない、語り口が変だったかもしれないが人生で一回、こういう語り方で後世に話を伝えたかったんだ、いつか思い出して、笑ってくれると嬉しい。


 あいつと俺が最期に交わした言葉は内緒にさせてくれ、こっぱずかしくて言えそうにもない。そんなわけで、あいつは死んで、お前らが生まれた。事情を知っているボロ街のみんなには黙っててもらうように頼んだ、もしかしたらお前らの寿命は短いかもしれねえ、本当にすまねえな、死に際になって罪の告白をするなんざ。でもあいつは確かに天才だったんだ、お前らを、外で適用できるように、少しいじったんだな、まあ車掌のおっさんの力を借りてリバティに戻って、遺伝子の操作をして、またお前らを腹に戻し、ボロ街に帰ってきた。あいつのお前らへの愛は本物だったよ。そして俺のお前たちへの愛も本物だ。


 未来を見据えられず誰よりも愛を求めた少年が出会った女の子は、身分違いの姫君でもなく、同じように愛を求めた女の子だった。少年は少女と出会い、ボロ街で特に目的も無しに生きていた理由に気付いた。そして少女もまた、そんな少年の想いを感じ取り、愛した。少年は愛されることの幸せを知り、いつか少女が残した愛を、子供たちにも伝えたいと思った。そんなわけで少女を失っても笑顔を絶やさず、子供を育てて、やがて彼にも死期が訪れた。そんなわけで、今とっておきの話をしたわけだ。この話をできて、幸せに思う。おいおい泣くなよ、俺は幸せだったし、あいつも幸せだった、そして俺が望むのはもう、お前たちの幸せだけだ。まあ、そんなところだ、聞いてくれてありがとうな、父親として足りないところはあっただろうが、精いっぱい頑張ったつもりだ、許してくれ。じゃあ、あいつが待ってるから、またな。


 俺の話も、これでおしまい。

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2401 軽盲 試奏 @siso-keimo

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