第10話 目覚めと始まり
「……くん…が…くん」
誰かに肩を揺すられている。
若い女の子の声
だんだんと意識がハッキリしてきた。
そうだ、この声は確か舞だ。
しかしなぜそんな声が?テレビをつけっぱなしにした覚えはない。
「犬神くん!!」
「はっ!え?!なんで?」
「なんでって犬神くんが助けてくれたんじゃないんですか?」
「舞?」
「ッ…!!そ、そうです…けど、あの…いきなり名前呼びはその…恥ずかしいって言うか……べ、べつに嫌ってわけじゃなくて!あの、うぅぅぅ」
何やらモジモジしている一葉は、俺を少し恨めしげに睨んでいる。
「あ、そうでした!これ!コレなんですか?!」
そう言った一葉は自身の髪と胸元を俺に見せる。
「え?髪染めたん?」
「違いますって!髪の毛の方もそうですけど、こっちも!」
一葉はワイシャツを少しはだけさせ、右胸辺りを俺に見せつける。
そこには五百円玉より少し大きいサイズの入れ墨があった。
人魚のようなマークで周りには音符が散らばっている、色は濃いピンクだが黒くなったりもしているので普通の入れ墨ではなさそうだ。
「なにこれ?」
「それ、私も聞きたいです。それに犬神君もおんなじなんですよ?髪の毛黄色のメッシュ入ってるし…」
それを聞いた俺は急いでスマホを取り出し、髪の毛を確認した。
「マジやんけ…」
俺の日本人代表みたいな黒い髪に、黄色いメッシュが入っている。胸元にもきちんと入れ墨があった。俺の入れ墨は電池のようなものの中に雷のマークが刻まれ、音波のようなゆらめきを示しているのか、揺れるような表現がされていた。色はもちろん濃い黄色、偶に黒くなる。
「ななななんだコレェェ!!!!!!」
「シッ!!ゾンビ来ちゃいます!!」
「むぅ〜!むむんむ!」
一葉に手で無理やり口を塞がれた俺だが、未だに理解が追いついていない。原作にもこのような展開は存在しなかった。入れ墨はもちろんメッシュも入るなんて知らないのである。
知らないことが起きた、わからないことが起きた。
それはこの世界がアニメの世界通りに動くわけではないことをはっきりと示しており、同じ世界ではなく似ている世界という線が濃厚になった瞬間でもある。
メッシュになろうが入れ墨があろうが、極論どうでもいい。だが、原作通りに話が進まず、俺の知識が無駄になる可能性が最も怖い。
「あ、あぁ、大丈夫…少し焦っただけだ。わりぃ」
俺はそう言って立ち上がろうとした、その時
足にうまく力が入らなかったのか、俺はふらついてしまった。
とっさに近くにあった机に手をかけるも、無理な姿勢もあってそのまま転ぶ。
ガシャンッ
それなりに大きな音を立ててころんだ
「わ、だ、大丈夫ですか?」
一葉が少し驚きながら俺を心配してくる
「ごめんふらついた、怪我も痛みもないっ…は?」
起き上がって状況を確認しようと、手元に視線を向ける。
そこには見るも無惨にひしゃげた机と、真っ黒に染まった俺の腕あった。
「え?」
一葉の声が漏れる。
「なにこれ」
今日何度目かわからない疑問が俺からもれた。
黒く染まった腕、正確には関節辺りまで黒く染まっている。端は黄色にグラデーションされ、バラバラに細い線が肩まで伸びていた。
肩まで伸びた線はそのままカクンッと曲がって入れ墨まで伸びている。
少し意識をそこに持っていくと、黒く染まった腕がまるで巻き尺を巻き取るかのように縮んでいき、ニュルリと俺の入れ墨に収まった。
入れ墨は相変わらずの濃い黄色、時々黒くなっている。
「これ動くの?」
「し、しらない」
困惑気味な一葉
俺はもう一度入れ墨に意識を集中させ、腕に力を寄せる感覚をイメージした。
すると入れ墨から先程の線が一気に伸び、腕を覆っていった。
「動くなこれ、しかもこの状態だと相当やばい。力加減ミスったらまたなんか壊しそう」
「そ、そうなんですか?」
「おう」
不思議そうに俺の手をまじまじと見つめる一葉は、何を思ったのか触ってもいいかと聞いてきた。
「す、すごいですよこれ!固くて温かいです!!」
捉え方によってはセンシティブな発言をしながら、一葉は俺の腕を突いたりニギニギしたりしている。
「これって私もできるんですかね?」
「多分できるんじゃんじか?」
それを聞いた一葉は少し開けた場所に移動すると、両手に力を込めて目を見開く。
「ふんッ」
すると俺のときと同様に、線が伸び腕を覆った。
関節まで黒く覆われた一葉の腕の境界はピンクと黒のグラデーションが起きており、線は明るいピンク色だ。
「わぁ!すごいですよできました!」
まるでおもちゃを与えられた子供のごとくはしゃぐ一葉は、目をキラキラさせながら自分の腕を眺めている。
『う゛う゛う゛あ゛ぁぁぁ』
「まずいデカい音出しすぎた!」
「そ、そうですね!一旦旧校舎に逃げましょう!そこにみんなもいるはずです」
「いやだめだろ」
「ふぇ?」
「お前噛まれてゾンビになってる予定だったんだぞ?たとえ生きてても、いつゾンビになるのかわからないやつを信用できるか」
「で、でも犬神君が治してくれたって言えば…」
「この髪と入れ墨がなかったら行けただろうな」
「そんなぁ〜」
落胆する一葉をよそに、ゾンビは着々と集まってきている。
「とりあえず保健室に逃げるぞ!」
「なんで保健室かはわかりませんがわかりました!」
俺は荷物が入ったカバンを手に取り、ベランダに向かう。
一葉は教室の廊下に向かって歩いた。
「え?廊下から行くんじゃ?」
「バカ言え保健室はここの真下、ベランダからのほうが早い」
「で、でも危ないです」
「コレがあるだろ?」
俺はニヤリと笑いながら腕を黒く覆ったのだった。
ゾンビが溢れるアニメの世界に転生した俺〜せめて生き残れる奴に転生したかった〜 アズリエル @azurieru
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