第9話 死ぬかもしれない

腹に空いた風穴に、触手が突き刺さっている。

触手の蓋があってもなお溢れ出す血が、ワイシャツを赤く染め上げる。


時間がない

俺は必死の思いでポケットを探り、菌心を手に取った。

しかし神のイタズラか、俺の手に乗っかる菌心は綺麗に割れていた。


「クソッ!!」


割れた菌心を放り投げ、包丁を手に取る。だが、出血が酷いためなかなか手に力が入らない。


震える手で包丁をしっかり掴む。

菌心の位置は心臓の対局にある、つまり右胸辺りだ。


今持てる全力の力で、俺は包丁を突き刺した。だが、前も言ったように変異系のゾンビは異常なほど硬い。


ガキンッッ!!!!


金属なのかと疑うほどの音が響く。

俺は欠けた包丁に舌打ちしながら、今度は肋骨の隙間を狙って刃を振り下ろした。


ドスッ


今回はきちんと刺さったようだ。

そのまま包丁を横にスライドし、拳ほどの大きさの傷を付ける。


呼吸が不安定になり始め、視界もぼやける。前世含めこれほどまでの瀕死状態は経験がない俺は、不安で胸が締め付けられそうになる。


無我夢中で内臓をかき回し、手が汚れることなど気にしていられないほど必死で菌心を探した。


「あ゛っだ!!!!!」


ペットボトルのキャップほどの大きさの菌心を、腹に流し込むように俺は飲み込んだ。


「んぐっ、おぇ…」


一瞬むせては吐きそうになるが、口を押えて無理やり飲み込んだ。

口の中は唾液と血で鉄の匂いが充満し、初めての菌心の味は全くと言っていいほどわからなかった。


菌心を飲んだ瞬間、俺の体は限界に達した。




ドサッ……



__________________________

~原作主人公サイド 三人称視点~


旧校舎は現在、とても暗い状況に陥っていた。

物理的にではなく雰囲気的な問題だ


小鳥 沙那ことり さなが教室の端で泣いている。

ソレを慰める原作主人公 阿久津 弘あくつ ひろ


クラス全員が沈黙する中、沙那の鳴き声だけが響き渡る。

舞が学校に登校することは決して多くはなかった、それでもかなりの人気を持っており、クラスの中心人物と言っていいほどだ。


そんな人が死んだ(と思っている)皆は、この世界がいかに残酷で冷酷になったのかを自覚せざる負えなくなったのだ。


ここで舞が死んだおかげというのは失礼極まりないだろうが、自分はどうせ助かる

ゾンビに自分だけなら勝てる、逃げられる、そのような甘い考えは消し飛んだであろう。


そうアニメでの舞の役割、それは視聴者にこの世界の残酷さを突き付けインパクトを与えること。さらには今後の主人公が所属する2年E組の皆を、引き締める役割があった。


美人でもモブでも気を抜けば死ぬ、たとえ主要人物だと死ぬと視聴者はこれで理解せざる負えないのだ。


そんなこんなで葬式ムード

しかし、ずっとこうしているわけにはいかない。


ここで動いたのが主人公…ではなく男子のクラス委員長こと崎山さきやまくんだ。残念なことにアニメでは下の名前は出ないモブなのだが、割と生き残るカッコイイモブなのである。


「みんな、聞いてくれ」


クラス中の視線が集まった。


「一葉さんのことはとても残念だ、でもいつまでも落ち込んでても無意味だ」


ぴしゃりと言い切る崎山君に、クラスの女子が反発した。


「そんな言い方!ヒドイよッ‼一葉さんが死んじゃったんだよ⁈」

「だからこそだ!!!!!!」


大きな声が響く


「一緒に戦った僕だって悲しいし、つらい。でも、でも…一葉さんがつないでくれたこの命を、僕はクラス委員長として守らなきゃならない!!!」


「「「「「ッ……!??!!!?!」」」」」


皆に衝撃が走る

普段声を荒げることがない冷静な崎山くんが、大きな声で叫んだのもそうなのだろうが、何よりその決意のこもった瞳に気圧されたのだ。


「反論は?」

「「「「「……」」」」」


崎山はぐるりと辺りを見渡し、誰も反論しないのを確認すると再び話し始めた。


「まずゾンビたちは力がとても強かった。力自慢の男子数人がかりでやっと取っ組み合いで勝てるってぐらい。それと奴らは血の匂いに敏感で、何よりも優先して襲ってくる。耳はわるいっぽい、で目に関してはよくわからないけど普通に見えるのかな?襲ってきたときの感じから理性もなし、頭も悪い。とりあえずそんなとこかな」


崎山は冷静にゾンビについての情報を開示していく


「他に戦ったメンバーで気づいたことがあるやついるか?」


すると一人の運動部の女子が手をあげた


「あの~気のせいいかもしれないんだけどさ、あいつら体温が高い奴から順に追っていた気がする」

「根拠ってあるか?」

「うん、舞ちゃんの話になって悪いんだけどさ、後半熱出てたって言ってたじゃん?思えば攻防戦の後半結構舞ちゃん集中砲火されてたんだよね。これだけじゃ根拠薄いかもしれないけど…」

「いや、けっこういい線言ってると思う。あいつらはイスや机を蹴っ飛ばしながら突撃してきた、俺らの攻撃に関しても避けるそぶりもない。最初は単にバカなだけかと思ったけど、熱をあまり持っていないイスや机が感知できていないのなら納得がいく」


そこからどんどんとゾンビへの考察が続くも、琥珀ほどの情報までは到達できなかった。(当たり前)


「ゾンビに関してはここまでにしよう。次は寝床と食料だ、できれば風呂も考えたい」


崎山は淡々と説明していく


「ゾンビは予想するにウイルスもしくは細菌関連だと思われる。だから消毒や衛生面はしっかりしなきゃだめだと思うんだ。それに寝る場所と食料、寝床はこの旧校舎なんだが、ここには保健室ぐらいしかまともな寝床がない。そうなると床に寝ることになるんだが、さすがにそれはみんな体をこわしかねない。食料もこっちにはあまり備蓄がないし…」


崎山から突き付けられる現実に、皆は頭を悩ませた。


「だぁ‼考えてもわかんねぇ!とにかくこの旧校舎を探索して何があるのかぐらい把握しようぜ?」


不真面目そうな男子が声を上げた。

だが今回に限ってはなかなか言っていることは正しい。


「そうだな、探索したほうが速いな」


こうして二年E組の方針が決まった。

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