大好きなお姉ちゃんのために

夢色ガラス

短編 完結

明日は、私の大好きなお姉ちゃんの誕生日。いつも優しくて、私を大事にしてくれるお姉ちゃん。お姉ちゃんは頻繁にカレンダーへ目を向けている。

「お姉ちゃん!明日はとうとう16歳だね!」

私は満面の笑みでそう言った。お姉ちゃんは、ほっぺを手で持ち上げて嬉しそうにうなずいた。

「うん!!」

お姉ちゃんが私を見た。お姉ちゃんが幸せそうに笑っている。そんなお姉ちゃんを見られて私も嬉しい。

「お父さんも明日は会社、休めるってね!」

お父さんっ子のお姉ちゃんにそう言うと、お姉ちゃんは元気にうなずいた。今日はお父さんが仕事だから家にはいないけど、明日は有給をとれたらしい。なので、今日の間に最低限の準備をしておきたい!



「牛乳が切れちゃったんだけど、買ってきてくれない?」

お母さんだ。優しいお姉ちゃんが返事をする前に、スッと手を挙げた。

「私が行くよ!」

そう言うとお姉ちゃんは、首を横に振って言った。

「私が行くよ~。走って行けば、ダイエットにもなるしね!」

それからお姉ちゃんは、おどけたように笑った。

「気分転換!私が行きたいから行くの!いい?いいでしょ?」

すると、お姉ちゃんはちょっと困り顔になってから言った。

「…じゃあ、お願いしよっかな」

得意げになって、うなずいた。

「お母さん!まだ手伝いある?」

「ないわよ。ありがとう、いい子で助かるわ」

実は私、まだお姉ちゃんへのプレゼントを用意出来ていないんだ。欲しいものに目星はつけてあるのだが…。値段が高くて、迷っていた。実際買ってしまえば、私の手持ちのお金の半分以上が無くなるのだ。そんなことを考えていたら、前日になっていた。走って荷物を取りに行く。お財布を持ってきた。そして、たくさんものが入る、大きめな鞄に詰め込んだ。お姉ちゃんのためだ。大好きなお姉ちゃんのためだったら、何でもするつもりだ。私は、ずっと文房具が欲しくて貯めていたお金の半分を、お姉ちゃんの誕生日プレゼントに使おうと思った。5000円もあれば、十分に良いものが買えるだろう。

「じゃ、行ってきます!お姉ちゃんは、ゆっくりしててね。あっ、わざわざお見送りしなくていいからね!」

手を振るお姉ちゃんとお母さんの顔を見てから、家の外へ出た。そして、慣れた手つきで二人乗りバイクにまたがる。


近くのショッピングモールにバイクを停めた。目の前に落ちていた空き缶を、近くのごみ箱に入れる。みんなが感心したように私を見てる。私は優しくていい子だからね!


お店の中に入る。ショッピングモールの中は、エアコンが効いているのか、涼しかった。まず牛乳だ。かごを持って、スーパーの中を探す。チラシを見つける。お、やった!今日は5%引きだ!お母さんが喜んでくれる。近くにあるパン売り場の隣に私の目当て、牛乳売り場。

「まぁ、おつかい?えらいわねぇ」

腰の曲がったおばあさんが声をかけてくれる。笑顔でうなずいた。

「はい!お母さんに頼まれたんです!」

ほめてもらった。いつもは当たり前にやっていることが世間では、えらいことなんだ。私は心の中でニヤリと笑った。


次に、若い女の子に人気のお店に行った。流行りのブランドで、お姉ちゃんのお気に入りだ。最近、お姉ちゃんは、青色のベルトに白と水色が合わさったようなきれいなロングスカートを欲しがっていた。値段は5980円。お姉ちゃんがお母さんにおねだりしていた。が、高すぎて却下されていた。その後も、何度もお店に来て見ていたのを私は知っている。今でもずっと欲しがっているそのスカートを、プレゼントしてあげようと思っていた。ラベルを確かめてから、状態がきれいなスカートを選んだ。


用事を終えたので、急いで家に帰ることにした。入口を後にした時だった。ビビビビィ!大きな音がして、思わず大切なスカートが入った鞄を落としそうになった。大丈夫かな。鞄をぎゅっと抱きかかえて、走って入口から出た。買い物、思ったより遅くなっちゃったから、早く帰らないと。後ろでの騒ぎを無視して、私は家へと走った。


次の日

「「「お誕生日おめでとう!!!」」」

お母さんとお父さんと私は、16本のろうそくを見ているお姉ちゃんに言った。お父さんが買った、10人で食べても満足できるくらい大きなケーキを囲んでそう言った。お父さん、太っ腹だ。

「うわぁ!みんな、ありがとう!」

ストロベリーケーキを見つめるお姉ちゃんは、少し恥ずかしそうだった。

「どういたしまして」

お母さんが幸せそうに微笑む。温かいまなざしでお姉ちゃんを見つめていた。お父さんも、成長したお姉ちゃんを見て泣いているようだ。俯いて、ずびずびいってる。みんなのタイミングをうかがって、プレゼントを渡した。

「お誕生日、おめでとう!!!」

スカートの入ったブランド紙袋を渡すと。

「うそ…!?これって…?!」

お姉ちゃんは口をぽかんと開けて、ブランドのロゴが入った紙袋を二度見した。

「お姉ちゃん。このスカート、欲しがってたでしょ?」

紙袋を開けてスカートを見ると、お姉ちゃんはきらきらと目を輝かせた。満天の星空を見てはしゃいでいる子供のようだ。

「ありがとう!嬉しい。でも…これってすごく高いよね。ちょ、さすがに受け取れないよ」

お母さんとお父さんは、びっくりして私を見ていた。

「あんた、お金あるの?さすがに高すぎない?」

お母さんが、戸惑ったように私に聞いた。

「うん!あるよ!まだたっくさん!」

近くに置いてあったお財布の中身を見せる。一万円もあるよ!安心して!私は大きくうなずいた。

「でも…」

「私、頑張ってお金を貯めたの。お姉ちゃんに穿いてほしかったから!」

必死でそう言うと、お姉ちゃんは考え込んだ後、こう言った。

「ありがとう!大事にする!」

お姉ちゃんは急いで目元を手で隠した。お父さんと一緒で、涙もろいのだ。

「ありがとう!ほんっとにありがとう!!!」

お姉ちゃんが目をウルウルさせながら言った。お姉ちゃんは、念願のスカートと私をぎゅっと抱きしめた。


その一週間後

私が学校から家に帰って自室で読書をしていた時だった。

ピンポーン!

大きな玄関のチャイムの音がして、インターホン越しの景色を見た。外はザーザーと雨が降っている。中心には険しい顔をして立っている男性がいた。

「警察です」

とうとうばれたか。私は焦りもせず、舌打ちをした。残念だったな。今回はうまくいったと思ったのに。

                              <物語おしまい>

<解説>

『私』は、優しくて、いいこなんですね!


…でも、ほんとうでしょうか?


まず、バイクを運転していたのは誰なのか…。お父さんは仕事、お母さんとお姉ちゃんは、家にいたはずですよね。法律では、16歳未満は運転をしてはいけないと定められています。メイドや執事を雇っていた…。それも無さそうです。なぜなら、『私』の家は、そこまでお金持ちなわけでは無いからです。ショッピングモールに行ったときに、5%引きでお母さんが喜ぶ、と言っていたのは、家計が苦しいからじゃないかな、なんて思います。16歳の妹なのに、16歳未満で運転をしているって…、どういうことでしょうか? 

 そして。『私』は、スカートを盗みました。5000円くらい、自分のお金の半分を使っているというのに、『私』は、一万円お財布にあると言っています。ということは…、お金は払っていないことになりますね。お店の外でビビビビィ!と音がしたのも、これは『私』が盗んだスカートに反応した盗難防止装置だったのでしょう。『私』が走ってバイクに乗ったのも、そのせいでしょうね。『私』は、大人が言うえらい子、なわけですが…。やってはいけないことと、やってもいいことがあることを理解する必要があります。とても危ない橋を渡っているようですね。

                  <おしまい>

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