桶狭間の戦いを魅力的に描き出した短編ならではの意欲作です。場面変化、情景描写、人物についての言及が必要最小限に削ぎ落とされた結果、一種、舞台演劇的な想像力を掻き立てる効果に繋がっています。絶妙なバランスの上に成立した作品ではありますが、筆者の卓抜された言語センスならではの真骨頂と言えるでしょう。ラストの一気呵成のシーンをあの文字数で過不足なく描ききるのには感服の一言です。芸術的な一作、ぜひご一読ください。
本作は戦国時代を舞台として、織田信長と今川義元が雌雄を決した桶狭間の戦いの異伝、或いは異聞です。上洛の慣らしとして前守護・斯波義銀を擁して尾張に侵攻する今川。一方、徹底抗戦の構えを見せる織田は、乾坤一擲の策として輿の人物に狙いを定めるが……。夢か現か幻か、誰も知らない桶狭間の戦いが幕を開けます。