第10話 その後



 現代に戻ると、すぐに時和とわの記憶は時渡りの規定により記憶を消された。時和はまだ時渡りの仕事をしていないからだ。

 翔琉と亘は次の日公園へと向かった。公園はきのうの祭りの片付けをしている人達がせわしくしている。

 翔琉達はその間を通り抜け過去に飛んだ場所――木の下にあった小さな祠へと来る。暗くて分からなかったが、奥には池があった。


「まさかあの池が、水の神の池だったとはなー」


 翔琉と亘がしみじみ池を眺めていると後ろから声がした。ポン吉だ。


「2人とも元気そうじゃな」

「ポン吉! 1日ぶりだな」

「お前は1日でも、わしからしたら900年ぶりじゃぞ。亘にはきのうあったがな」


 翔琉は900年前と変わらない姿のポン吉に眉を潜める。


「お前、まったく成長してねえじゃねえか。もっと大きな神になってるのかと思ったのに」

「しかたないじゃろ。人間の信仰心が大きく影響するのじゃ」

「神の成長は人間の信仰心が大きく影響するって聞いたことあるけどよー、祠があるんだから誰か拝んでくれていたはずだろ?」

「それが、どいつもこいつもわしの姿を見たやつは、神とは思わず妖怪だと勘違いしていくのじゃ」


 あれからポン吉は手を合わせにきた人間に姿を見せたが、化け狸と勘違いされ、祠には誰も近づかなくなっていったのだと話す。

 

「姿を見せるからそうなるんだ」

「なぜ皆、お前達のようにわしが神だと分からないのじゃ?」

「俺達時渡りはリュカ達守護神がいるからね。教えてくれるから分かるだけだよ。翔琉は天眼てんげんを持ってるから分かるだろうけど、俺は最初どっちか分からなかったさ」


 亘の説明に、ポン吉は納得する。


「それが理由で、チビのままなのか?」

「そうじゃ」


 だから自分は悪くないとフンと鼻を鳴らすポン吉の横にハクラが現れた。


「それは言い訳だ。ただチビが修行をしてこなかった結果だ」

「水の神!」


 翔琉と亘は笑顔を見せ頭を下げる。


「こら! ハクラ! 余計なことを言うのではない!」

「真実を述べたまでだ」

「修行はしておったぞ! この前だって――」


 慌てて言い訳をし始めたポン吉は放っておき、ハクラは翔琉達へと視線を向ける。


「900年前は色々とすまなかったな」


 笑顔を見せるハクラは、ポン吉と違って一段と神のレベルを上げているようで、光りが強くなり、過去であった時よりも眩しくてあまりはっきり視えない。


「お前達が帰ってから【つちのえ】の者達が立派な社を建ててくれた」

「そうですか。よかった。で、社は?」


 亘が尋ねると、ハクラは後ろを振り返り指を差す。


「あそこだ」


 見れば、池より少し離れた場所にそれほど大きくはないが、木で出来た立派な祠があり、周りが木で囲まれ灯籠もあった。


「昔ほど大きな社ではないがな」


 この900年の間に立て替えなどで社は色々と姿を変え、そしてこの公園を作るにあたり、あの場所に祠は移動した。その時はちゃんとハクラに許しを請うて作業が進められたと話す。


「よかったのか? 池が近くじゃなくて」


 翔琉が心配そうに尋ねると、ハクラは気にしていないと首を振る。


「別に構わんよ。あの場所にいるわけではないのでな」


 土地神のハクラにとって祠は神の家ではなく、神の存在を示す目印のような位置づけのようだ。


「今日は守護神と時和はおらんのだな」


 ポン吉がキョロキョロして3人を探す。


「シュラとリュカは、天部に戻っているから今日はいないんだ」


 守護神は過去では義骸ぎがいに入り人間と同じ姿になる。そのため波動が落ちるため、終わると天部に戻って1日かけて波動を上げるのだ。

 

「時和は、まだ時渡りの仕事の年齢になっていないため、時和の過去の記憶は消した。だからきのうのことは覚えてないんだ」

「そうか……」


 ポン吉は残念がるが、ハクラは笑顔を見せる。


「分かっていたからそう気をつかわんでよいぞ」

「そうなんですか?」

「時渡りの掟は昔から知っておる。だから時和の記憶も消されることは分かっていた。だからそう気に病むな」


 そこで座敷わらしがいないことに気付く。


「そういえば座敷わらしはどうしたんだ?」

「本当だ。今出かけてるのか?」

「あやつはおらん」

「え? どうして?」

「今休暇中じゃ」

「休暇?」


 座敷わらしはポン吉の眷属のような位置づけだ。そんなシステムがあるのかと翔琉と亘は眉を潜める。


「どうせ愛想を尽かせたんだろ」


 翔琉が冗談で言うと、「違うわ」とポン吉は反論する。


「あやつは、『私がポン吉様の側にいると甘えて成長なさらないので、おいとまさせていただきます』と笑顔で言ったのじゃ。ちょっとお休みしているだけなのだ」


 お暇は、そういう意味ではないがと翔琉と亘は苦笑し聞く。


「ちなみに座敷わらしはいつから休暇をとっているんだ?」

「ん? いつだったかのう。700年前ぐらいからかのう」


 長い沈黙の後、翔琉がボソッと呟く。


「やっぱり出てったんじゃねえか……」

「翔琉、言ってやるな。ポン吉は気付いてないのだ。そっとしておいてやれ」


 亘がポン吉に聞こえないように翔琉の耳元で囁く。


「まあそのうち戻ってくると思うぞ」


 本気で思っているポン吉に翔琉と亘は、


 ――戻ってこねえよ。


 と心の中で呟くのだった。




 翔琉達が神社に戻ると、亘の父親の越時えつときが声をかけてきた。


「お前ら帰ったか。友来が退院して帰って来たぞ」


 応接室へと行くと、友来が産まれたばかりの赤ちゃんを抱き、その横には嬉しそうに時和が赤ちゃんを見ていた。そして翔琉達に気付くと笑顔で翔琉達に挨拶をし、2人もそれぞれ挨拶をした。


「亘君、翔琉君、時和のこと面倒みてくれてありがとね」

「いいえ」


 返事をして2人は赤ちゃん達を覗き込む。男の子だ。


「小さいな」

「時和に似てる」


 するとシュラの声が聞こえてきた。


『じゃあ、将来時渡りだな』


 天部から戻ったんだと思ったが、時渡りの者しかシュラ達守護神の声は聞こえないため翔琉は話さない。

 すると奥のキッチンから越時の叫びが聞こえてきた。


「あー!」


 なんだ? と皆キッチンの方へと首を向けると、すごい勢いで越時が入って来た。


「誰だ! 俺の大事な茶碗割ったやつは!」

「あ!」

「あ!」

『あ!』


 越時は、3人の反応に目を眇める。


「お前ら、何か知ってるな! 言え!」


 するとリュカの声が聞こえてきた。


『越時、亘、翔琉、仕事だ』


 翔琉達3人は一斉に言う。


「リュカ」

「リュカ」

『リュカ』


 呼ばれたリュカは意味が分からず怪訝な顔を向け言う。


『なんだ?』


 すると越時が叫んだ。


「リュカ! お前かー! 俺の茶碗割ったの!」

『あ……』


 翔琉と亘は友来達に挨拶すると、何もなかったように部屋を出て行った。

 シュラも『まだ謝ってなかったのかよ』と呆れながら言う。


「リュカ! なぜ割った! 説明しろー!」


 越時はドカドカと応接間から出て行くのを見て、時和の父親の浩介が首を傾げる。


「お義兄にいさんは誰に話してたんだ?」

「ああ。守護神の人とだと思うよ。兄ちゃんよく話しるから。気にしないで」


 友来はいつものことだと笑うのだった。



 リュカは越時に謝りどうにか許してもらったが、こっぴどく愚痴を言われ、仕事の話に戻ったのはだいぶん時間が経った後の話だ。


「準備は終わったな。じゃあ行くぞ」

「はあ、俺の休みも当分お預けか」


 時渡りをする時の格好の着物と袴姿に着替え、翔琉はため息をつきながら神社の本殿の下にある部屋にある過去へ行くための曼荼羅魔法陣へと行く。


「翔琉、そう文句言うな。きのうの分の休みは近いうちにやる」

「本当か? 越時のおっちゃん!」

「ああ。だからしっかり仕事しろ」

「おう!」


 そんな翔琉を見て「現金なやつだな」と亘達は笑う。


「今回はレベル3の仕事だ! 盗賊と魔物の両方だ。気を引き締めろよ」

「了解!」


 翔琉達は魔法陣の所定の位置に立ち、守護神も同じく重なるように立つ。そして最後に越時が立った時、曼荼羅魔法陣が光りだした。発動開始だ。


「よし! 仕事がんばるぞ!」

『なりふりかまわずに突っ走るのだけはやめてくれよ』


 意気込む翔琉にシュラが嘆息しながら忠告する。


 上空から光りが降り注ぎ、周りの空間が地下室のそれから一瞬にして星のない宇宙色の空間に変わる。そして幾何学的な模様が現れ、曼荼羅魔法陣の外の風景が流れ星のように流れ始めた瞬間、翔琉達の姿は魔法陣から忽然と消えたのだった。

 




――――――――――――――――――――――

 


 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 楽しんでいただけたでしょうか?(^^;)心配


 この話は『時渡り』のその後の話になっております。

 もしまだでしたら、そちらもぜひ覗いてみてください(^^)


 よろしければ、☆評価、コメントなどいただけたら、めちゃくちゃ嬉しいです(≧∀≦)

 お願いいたしますm(_ _)m



                     

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時渡り2ー水の神と子狸編ー 碧 心☆あおしん☆ @kirarihikaru

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