第9話 水の神と社



「どうじゃ。ここならいいじゃろ?」


 ポン吉が案内した場所は、水の神の池があった場所から少し南に下った場所の平地にあった。


「近場にこんな池があったとはな」


 見れば小川の水が池に流れ込んでいた。


「ここは、寛太の親がせき止めた川の水が行き場を無くしてこちらに流れ込み、新たに出来た池じゃ。だから水自体は前と同じじゃ。だからハクラも気に入ると思うのじゃ」


 埋め立ててから100年は経っている。その長い年月をかけここに池を作ったようだ。

 ハクラは池の水の中へと歩みを進め、水面の上を歩き中央まで来ると、じっと水面を見つめる。


「どうじゃ? ハクラ」


 ハクラはポン吉の質問には応えず、見つめ続けた。しばらくして、両手を挙げ上を向き目を閉じる。するとハクラの全身が光りにつつまれた。刹那、水面に弧を描くように、ツンと中央から外に向かって波がたつ。池全体を浄化し、水の神がこの場にいれるように波動を上げたことが分かった。

 

「だがこのままでは駄目だな」

「ああ」


 リュカの言葉にシュラが頷く。


「なぜじゃ?」

 

 ポン吉は首を傾げる。


「水の神の社をこの時代の者に作ってもらわないと、また同じ二の前に成りかねない。今回のことも水の神がいることがわかっていれば防げたことだ。これからどんどんこの辺は開拓されていく。いつまたこの池が埋められるかわからないからな」

「じゃあ俺らで作ってやればいいじゃないか! ポン吉にも社を作ってくれって頼まれてるんだし」


 翔琉の安易な案に亘は呆れて嘆息する。


「あのなー翔琉。社が今すぐ作れると思っているのか?」

「あ! そうか」


 社を作るにしても今日明日で作れるものではない。ましてやここはホームセンターへ行けば、すぐ材料が揃う現代ではないのだ。


「さあ、どうするかだよな」


 困っていると、遠くから竹笠を被り、袴姿の1人の男性がこちらにやって来た。そして翔琉達の所まで来ると、左手で竹笠を少しあげ「ほう」と声を上げる。


「誠であったか」


 男性は、竹笠を脱ぎ挨拶する。


「失礼。お見受けしたところ、時渡りの【きのえ】隊の方でしょうか?」

「!」

「そんなに驚かれなくても大丈夫です」


 男は笑顔を見せ言葉を繋ぐ。


「初めまして。私は時渡り【つちのえ】隊の三次さんじと申します」

「つちのえ……」


 【つちのえ】も翔琉達と同じ仕事仲間だ。だから同じ格好をしているのかと納得する。


「依頼がありまして、今日、この時間にこの場所に行って、時渡りの者にあることを伝えるという指示でしてな。馳せ参じた次第です」


 どういうことだと訝しげに三次を見る。まず通常の仕事では過去の時渡りの者と接することはないからだ。


「社に関してお困りじゃないですか?」


 三次は意味ありげに微笑む。そこで何故三次がここに来たのか理解した亘は、三次の前まで歩み寄り握手を求める。


「はい。その通りです。私達は【きのえ】隊の者です。時渡りしてこの時代にやってきたものです」

「やはりそうでしたか」


 2人は握手をする。


 翔琉は驚き亘へと小走りに走り寄ると、耳元にささやく。


「いいのかよ。言って」

「ああ。隠しても三次さんにはばれてるから」

「え?」


 どういうことだと翔琉は眉を潜め三次を見ると、頷き返された。


「そうですね。見てすぐに気付きました。守護神が姿を現して見えますし、まず私が知っている【きのえ】の方達とは違いますからね」



 そういうことかと翔琉も納得する。


「今回私がお伝えすることは、土地神様の社の再建を私達【つちのえ】が請け負うことをお伝えしに来た次第です」

「やはりそうでしたか。今、その話をしていたところでして。どうしようか悩んでいたんです」


 そして亘は事の経緯を三次に説明する。三次は大層驚いていた。


「この土地でそのようなことが……」


 そして三次はハクラへと歩み寄るとその場に正座をし頭を下げる。


「土地神様でございますね。この度は私達人間が大変失礼をいたしました。今後はこのようなことがないよう丁重にお祀りさせていただきたいと思います。どうか私達【つちのえ】隊に社を献上させていただけないでしょうか?」

「うむ。お主に委ねる。よろしく頼む」


 ハクラの言葉に三次はもう一度深々と頭を下げる。


「ありがとうございます」

「三次。あと1つ頼みがある」

「はい」

「そこにいる狸の神にも社を作ってもらえぬか」


 ハクラはポン吉を見て微笑む。


「わしの大事な神なのだ。頼む」

「ハクラ……」


 ポン吉は目をうるうるさせる。


「承知いたしました」


 ポン吉は涙を流し喜んだ。




「では、私はこれで一旦帰らせていただきます。後はお任せください。では皆様、お元気で」


 三次は頭を下げ帰って行った。


「ポン吉、これで一安心だな」

「うぬ。ありがとう」


 ハクラも笑顔を見せている。そんなハクラに時和が金魚を差し出す。


「神様、はい。金魚」

「時和、これはお主のものだろう」

「ううん。さっき神様にあげたから神様のものだよ。金魚がいれば寂しくないでしょ。もう泣かないですむでしょ」

「!」


 ハクラは目を一瞬驚き、そして笑顔を見せる。


「ありがとう時和。では、この池に放してやってくれ」

「うん!」


 時和は池へ金魚を放す。すると元気よく金魚は泳ぎ始めた。その様子を少しの間ハクラと時和は笑顔で見ていた。


「じゃあ俺らも現代に戻るか」


 亘が頃合いを見て促す。


「そうだな」

「翔琉、亘、シュラ、リュカ、ありがとう」


 ポン吉と座敷わらしは頭を下げる。


「よかったな」


 翔琉達も笑顔を見せる。


「今度会うのは900年後か?」

「そうじゃな。われからすればあっという間じゃ」

「その頃には立派な神になっているだろうな」

「当たり前じゃ!」


 翔琉とポン吉の会話に、


「いや。変わってないぞ」


 と亘はボソッと聞こえない小声で突っ込みながら、スマホを取り出し、曼荼羅魔法陣を展開させる。


「じゃあ帰るぞ」


 全員、曼荼羅魔法陣の中へと入る。


「ありがとうじゃ!」


 ポン吉と座敷わらしは手を振る。


「神様、ポンちゃん、座敷わらしさん、バイバイ!」


 時和は手を大きく振る。ハクラも笑顔を見せている。



 そして翔琉達はその場から消えた。




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