第5話
ストレッチが終わる頃にスタッフが僕たちのところへ戻ってきて、筋トレ用の器具の説明をする。腹筋に効くだとか、下半身を鍛えるものだとか、様々だ。
ダイエット目的のメシコはお腹周りと太もも付近をメインに鍛えて、すっきりとした身体づくりを目指す。ちょっときついなと思うところで筋トレをやめて、あとは有酸素運動で脂肪を燃焼させる。食事は三食しっかり食べること、とスタッフに言われてほっとしていた。
ダイエット=ご飯を抜く、というイメージがまだ抜けきれていなかったらしい。食べるものにさえ注意すればいいだけのことなんだけどね。
「
「あはは……そうですか……」
「シックスパック目指しましょうよ!」
僕は健康維持が目的だと話したはずなのに。しかも筋肉がつきやすいだなんて、僕が一番気にしていることをさらりと指摘しやがった。
下手に鍛えて筋肉がつきすぎると、僕が着たい服がことごとく似合わない身体になるから、それが嫌で悩んでいるというのに。
うるせえ、と言い返したいのをぐっとこらえる。僕は負けん気こそ、そこそこにあるものの、無駄な争いは好まない。とりあえず愛想笑いをしてから、ゆるゆるとトレーニングを始めた。
僕とメシコを見て、スタッフさんは満足したように頷く。それからべつの客に呼ばれでその場を離れた。
「美晴さん、すみません。私に付き合ってもらったばっかりに」
「うん? なにが?」
「筋トレ、本当はあまりしたくないのでは……」
スタッフと僕の会話のことを言っているのだろう。
変なところでメシコに気を遣わせたことが申し訳ない。
「大丈夫だよ。僕は僕のペースでちゃんと運動するから、メシコは気にしなくていいの。それよりメシコ、入会したからには恋愛成就させるんだからね」
「え……ああ、はい」
「なーんか返事が弱いな。運動終わったら、カフェ寄って作戦会議するよ」
メシコの目に光が宿った。やっぱり好きな人のこと想うと、元気とやる気が出るのだろうか。メシコにこんな顔をさせる男が少し気になる。どんなやつなのだろう。
「カフェですか! 実はもうふたつくらい気になっているところがありまして……!」
──いや、カフェに反応したんかい……。
メシコは痩せたくらいで恋を成就できるのだろうか。なんだか、痩せればいいというわけでもなさそうだ。
大丈夫、きみはかわいい 来宮ハル @kinomi_haru
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