第53話 僕の結婚
この物語も、ここで貯蓄切れです。今後は1週間に1話程度の頻度で更新していきます。よろしければお付き合いください。
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僕の家族は世間的には目立っているよね。父はノーベル賞学者、母は大企業(といってもいいよね)の社長、姉は新進気鋭の学者の妻で、世界に数人しかいない医療用WPCを活性化できるWP能力者で、更に僕だ。
僕が知られている限り世界一のWP能力者であり、異世界の大賢者バーラムを宿した存在であることはすでに公知のことである。そうでないと、人々へのWP能力の処方とWPCの利用は説明がつかないのである。
これらはいずれも、僕に行きつくのであるが、平凡でぽっちゃり、ぼんやりだった僕がいきなり変わった理由はバーラムのことを明かすしかないでしょう。だから、当然のことながら“いのちの喜び”の他に、WPCの開発の多くに僕が絡んでいることは知られているし、当然莫大な収入があることも世間は知っている。
そのことを、揶揄しまたいかがわしい存在として、週刊誌などマスコミ書き立てられたこともあった。
さらに、父が創設した形になったWPC物理学についても、父の正(ただし)の成果などではなく、全てバーラムの知識から来たもの、すなわち僕によるものであるという説もマスコミに広がった。
しかし、僕は知っているけど、WPC物理学は確かにバーラムの存在なくしてはあり得なかったし、僕にも理解はできるけど、僕が仮にバーラムと協力しても到底体系化できないものだ。
それに、父はちゃんとバーラムとどのように協同したかを明らかにしているし、それは正直なものだ。マスコミと学会の一部に広がる悪意のあった説に対して、学会では父を擁護する人々の方が多かった。それは、主として、僕にバーラムが宿ったころ、父が執筆して発表する論文を高く評価してくれた学者達だった。
彼等は、あの素晴らしい論文を書いた浅香正であれば、バーラムという存在と協力すればWPC物理学を創り出すことは、十分可能であるという信頼をしてくれたのだ。一方で、世間はそのようなネガティブな議論にさほど関心を示さなかった。
彼らはWPCの恩恵を大いに評価しており、それを学問として位置づけた父を文句なしに評価したのだ。ノーベル賞の審査にあたっては、そのネガティブな議論からはそれなりに時間が経っていて、父の声価はすでに定着していた。
父は自分で書いた、WPC物理学を世界の学会で発表する中で、その独自性、先進性ですでに揺るぎない評価を得ており、全く選出に異論は出なかったと言われる。
また、僕の収入を過大とする報道は、バーラムの協力の下で僕によって挙げている効果に比べれば、僕の収入など何ほどでもないという味方する論がでて、むしろ叩いた方が悪者になって治まった。
加えて、医療用と産業用のWPCの効果を経済的に評価する論文が3年ほど前に出て、その結論が今後10年間の総計で千兆円を超えて世間を驚かせて、これも追い風になった。
その試算によると、医療用WPCの効果も全体の3割を占めるほどで極めて大きい。これは、医療用のWPCの普及による医療費の極めて大きな削減、さらに病気や怪我さらに死去で長期職場から離脱することなく働く人々の労働による効果などを含めると、なるほどこの程度にはなるだろうというものだった。
さらには、火薬を検知・発火させることで火器を無効化するWPCに加えて、核兵器をも無力化されることになった。その結果として、先進国によって人道防衛隊が結成されたという、最近の動きが大きく報道されており、僕の貢献も語られている。お陰で、世間的に大いに評価される存在になってきたと言っていいだろう。
だから、少なくとも日本国内においては、有名になって煩わしさはあるが、誘拐や危害を加えられることを恐れることはなくなった。ただ、気軽に話すことのできる人が少なくなった点は正直に寂しい思いがある。とは言え、住んでいるのは僕が育った実家の隣に自分で建てた家だ。
だから、周りの人は皆顔見知りで、僕には普通に接してくれているので助かっている。それに、僕にはアジャーラがいるものね。アジャーラは婚約者としては公表しているけど、結婚はしていないのでまあ田舎のことだから、一緒に住むのははばかれることになる。
だから、彼女は母親と2人で住んでいたアパートを継続して借りていて、一人で住んでいる形になっている。ちなみに彼女の母のベジータは、みどり野製菓に努める高菜氏と結婚して、市内の彼の家に住んでおり、3年前に子供翔を産んだ。
結婚した当時の彼女も美人だったが、42歳の彼女はふっくらしてきて、ますます美貌に磨きがかかってきた。
アジャーラは一人暮らしの訳だから、大体月の半分くらいは、僕がアパートに泊まったり、彼女が僕の家に泊まったり、一緒に京都のアパートに泊まったりで目立たないように一緒に暮らしいる。京都にはK大に通う彼女のためにアパートを買っており、僕がK大WPC工学研究所行く時は一緒に泊まることになる。
僕も彼女も医療用のWPC活性化のノルマがあって、大体1日の起きている時間の1/3位を費やすことを要求されている。また、僕もアジャーラもWPSは850ほどに伸びていてお互いの差がなくなってきている。
能力が上がって来ているのに加えて、複雑な医療用のWPCの活性化には手慣れてきてだんだん早くなっている。2人の活性化の処理能力には殆ど差がないが、僕の方のノルマが多いせいで必要な時間は2時間半、彼女が2時間強で活性化が終わるようになっている。
このノルマは新しいWPCの活性化もあるが、既存のものの再活性も含まれている。再活性は新しいWPCの活性化に比べると楽であり、新規の活性化は大体再活性3基に相当している。
医療用WPCは3千回の使用を経ると、効力が急速に落ちることがすでに確かめられている。このため、使用回数を記録しておいて、2500回を上回ると10回使用ごとに活力をチェックすることになっている。だから、効率よくWPCを活用している日本の場合には、平均で2年半に1回の再活性が必要である。
このような僕らの能力の底上げは、納入先のWPC製造㈱も掴んでいるが、ノルマの増加は勘弁してもらっている。正直に言えば、もっとノルマを減らしたいが、人命と人の健康に直結している医療用WPCの製造についてはなかなか我儘も言えずに我慢している格好だ。
僕は延べで言えば最も時間をとっている医療用WPCの製作と共に、他のWPC開発と製作を主たる業務としてやっている。その中でも、とりわけ時間がかかる開発については、バーラムが宿っている僕は他の研究者に比べると非常に効率が良い。
アジャーラは学生の身だから、学業があるので開発されたWPCの活性化を手伝う他は医療用WPCの活性化を行っているということで、比較的余裕がある。一方で僕は、京都と東京を往復する新幹線の中でも、何らかのWPCを活性化している場合が多いくらいで、普通に考えて結構激務なんだよね。
だから、医療用WPCを始めとして活性化については、アジャーラに結構ノルマを肩代わりしてもらっている。
このように、僕は彼女と一心同体なのだよ。WP能力は知り合った頃は、彼女のWP能力は僕の半分くらいだったけど、体の関係が出来てからはぐんぐん上がっていったなあ。僕自身もそれからはそれまで以上のペースで上がっていったから、愛し合っているペアが互いにWP能力を高め合うと言うのは確かだ。
4年前にWP能力が、WPSで数値化されるようになって、数値で表示されるようになっている。多くの人は結構頻繁に測定しているようだけど、僕らも1月に1回ほどはWPS値を測定しているよ。
ちなみにWP能力については、日本では処方が100%終了して、6歳以上の全員が発現しるのでそれが当たり前になっているが、世界に見れば10歳以上でまだ60%程度と言われている。その処方を、他の人に行うにはWPS 80以上が必須で、その時の疲労などから専門的に行うは120以上が望ましいと言われている。
そして、通常でその数値に達することが出来る人の割合は1%前後と言われている。だから、それ以下の数値ではWP能力そのものに余り価値はないことになる。だけど、処方により脳の活性化が起き知力増強と心身のスタミナ増強があるために、こぞって処方を受けたがることになる。
実際に、WPの処方が始まって以来、先行した日本の産業や社会システムにおけるイノベーションは著しいものがあり、とりわけWPCを活用した画期的な開発が続出している。それは、先進国と呼ばれる国々の成人が概ねWP能力者になった今は、世界的に伝播して世界中で新たな発見・発明に沸いている。
また、個人として考えれば、WPSの値が100を超えると様々なWPCの活性化が可能になってくる。この場合には、活性化した基数ごとに報酬が得られるが、それが高度なものほど報酬は高い。WPCの産業への活用の拡大に伴って、より多様で複雑化したWPCの活性化必要になることは当然だ。
具体的には、WPCとしての回路を刻んだ台版を、WP能力を用いて活性化するのだけど、活性化する人は必要なWPSの強さとその回路の理解が必要である。後者は勉強すれば身に着くが、前者はその時点でのWPS値なのであるから、WPSの値の強弱は今や個人の価値を決める大きな要素になっている。
とは言いながら、回路の理解と活性化は、本当の意味でそれを意識にその意味を思い浮かべながら、WPを回路に注ぐことが必要なのでそれほど容易ではない。自動車に使う回転のWPCなどは単純だけど、発電や熱変換などのWPCはWPSが必要値に達していても活性化に至らない人がけっこういる。
そして、値が200を超えれば発電など大抵のWPCを活性化できるので、通常は専業者として雇われるか自営で働いていて人並み以上の収入が得られる。
そして、そのWPSは自分より値が高い相手とセックスパートナーの関係になれば、相手の値近くまで上がる訳だ。姉さんと義兄の真中さんとの関係はそんな風だよね。だから、WPSが高ければ良いという訳ではないが、WPSの値が人の優劣を表すが如き風潮はある。
そのせいで、僕なんか女性から結構誘惑があるけど、無論僕にはアジャーラがいるからね。ただ、そのWPSがパートナーに誘導されて高まるというのは、1回や2回セックスをしたからって殆ど変わらないことは確かなようだし、基本愛し合っていないとだめのようだ。
まあ、そういうことで、WPSの値は個人の重要なプライバシーということになっている。勿論、それを自らアナウンスしてモテようという人はいるし、実際の値が高ければモテることは事実だ。
個人のプライバシーは本人が公開する分には問題ないので、最近では美醜などよりWPSの値が高い方が結婚には有利になる傾向があるようだね。
ところで、アジャーラとの結婚まで残り1週間になって、僕も少し仕事のペースを落としたのだけど、準備もあってもっと忙しくなった。僕としては、結婚式を地味にやりたかったのだが、付き合い上でそうもいかなくなったし、アジャーラはやはり華やかにしたかったようだ。
また、出席者は政治家、大企業の社長また大物官僚とかいろいろ話があったが、そういうのは全て断った。そして、実際に親しくしている研究仲間を中心に絞りに絞って100人として、東京駅近くのホテルでやることになった。まあ、便利だし、お金には余裕があるからね。
そして、専属のコーディネーターを1ヶ月雇って、色んな準備とアジャーラの望みを叶えるようにしたが、どうなることやら。まあ、お金は常識の範囲で使って下さいということにしたけど、その点で苦労することがないのは助かるよね。
「アジャーラ、随分遅れたけれどようやく1週間後には結婚式だね」
僕は村山市の自宅の居間で、風呂に入った後にアジャーラと隣り合ってソファに座り、テレビのニュースを見ながら言った。
「ええ、知り合ってもう8年になるのね。あなたが14歳で、私が15歳の可愛い少女だったわ」
「うん、そうだね。確かに可愛かったけど、君は一生懸命だったから圧迫されたよ」
「それは、そうよ。お母さんが助かるかも知れないということだったから、必死だったわ。ウズベキからどうやって来たかもよく覚えていないもの」
彼女との最初の出会いは、日本人女医に焚きつけられたアジャーラが、重い金属中毒を患った母を助けるために日本にやってきて、僕に土下座をして懇願したことである。あれが、神秘的なまでの美少女だったアジャーラでなく少年とかだったら、僕は多分ウズベキスタンまでのこのこ行かなかっただろうね。
色んな偶然が重なった出会いだったけれど、僕にとって他の女性は考えられないから僕にとっても良かったのだと思う。彼女とは知り合って3年で、彼女が高校を卒業した頃に体を交わす仲になった。よく我慢したよね、僕は。その際に口説く時に、結婚したいと彼女に言ってな。だけど、プロポーズはちゃんとしたよ。
「ところで、コーディネーターの藤田さんはどうだい?ちゃんと君の思いをくみ取ってくれているかな?」
「ええ、彼女は最高よ。私の思いを十分汲んでくれているわ。そういう意味でも専任のコーディネーターを付けてもらって良かったわ」
「ああ、僕も君もそればかりにかまける訳にはいかないものな。それで出席者はもう固まっているけど、君の親戚は3人だったっけな。ウズベキから来るんだよね」
「ええ、ある意味幸いに、そんなに付き合いのある親戚はいないから、アリョーナ叔母さんにアジゾフ叔父さんとカーマ叔母さんの3人だけよ。2日後に来てお母さんが案内して回ることになっているわ」
アジャーラは母のベジータと共に帰化して、ウズベキスタンから日本に国籍を移した訳だけど、ウズベキスタンには親戚も残っていることもあって相当に貢献している。彼女の貢献で、ウズベキの医療用のWPCは日本に余り遜色のないレベルで備えられているし、故郷の村に水処理のWPCを使った水道設備を寄贈している。
だから、ウスベキ政府との関係は良好であるので、彼女は母と共に時々里帰りをしている。22歳のアジャーラと21歳の僕の結婚は、学者は出席しているけれど普通の式として行われた。マスコミは厳重にシャットアウトをしたけれど、完全にはいかず会場の外ではやはりカメラは構えられていた。
ところで、空間転移の出来る僕らは、駅や空港でマスコミに捉まることはなく、式場から直接太平洋のフィジーで予約していたホテルに跳んだ。フィジーはビザが不要ではあるが、パスポートコントロールを通っていないので、日本大使館を通して、税関で手続きをしてもらった。
外務省とはすでに話をしていたので、特に問題はなかったが、医療用WPCを提供させられたな。海の美しいフィジーでの新婚旅行は素晴らしかったけど、狭い島では3泊で十分だったな。
異世界の大賢者が僕に憑りついた件 @K1950I
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