第4話『魔王様、バ美肉になる?』
第四話『魔王様、バ美肉になる?』
その日の夜、某達四人は、渋谷の叙々苑で食事をしつつ、作戦会議ということで、今後の打ち合わせを行った。個室席に通され、他の人間共の視線はない。人間界に来て、焼肉という物を食べたが、これは絶品だ。異世界には、こんなに柔らかい肉は存在しなかった。特にカルビというものは油が乗っていて、美味い。某のVtuberとしての別名候補、タン塩魔尚の語源であるタン塩も、爽やかさの中にも甘みと柔らかさのある食感がたまらない。フラルはハラミという肉を口にし、その後に白米をかき込んでいる。中々に豪快な食べっぷりだ。よほど焼き肉という食べ物が気に入ったらしい。
一方、向かいの席に座っている、うには、肉も碌に食べず、端末に視線を落としている。どうやら誰かの動画をチェックしているようだ。
「ハーラル様、このYoutuberの、とある動画を見てみて下さい」
唐突に、うには手を伸ばし、某に端末を突きつけてきた。某は受け取り、画面に映っている動画を確認する。きわめて間抜け面で、仕事の出来なそうな雰囲気の男が、何やら意味のわからないことを画面に視線を向けて喋っている。その動画の再生数は、1万を超えていた。投稿日は、今から3週間ほど前。これが何を意味するのかは、某には解らない。
「ハーラル様、配信の世界は、金と運と力のある人間が成功できる場所です。そして今、ハーラル様が観ているとある方は、配信界隈ではそこそこの人気Youtuber、通称ストリーマーであり、チャンネル登録者数は実に40万人を超えているんですよ」
「40万か。それは、人間界では凄いのか」
「この方は炎上系に分類される方で、常に発言内容には賛否が分かれていますが、チャンネル登録者数はとても多いんですよ。ド素人で、男で顔出しして、不細工で、常にピントのズレた発言をする割には、同類の中でも突出した人気があります。とはいえ、勉強して台本を準備すれば誰でも出来そうで、誰でも言えそうなことを言ったりしていても、小遣いにちょっと毛の生えた程度の収入しか得られません。ストリーマーとして大成するには、この人じゃないと出来ない、この人だからこそ言える、というような、代えの利かない、オンリーワンな存在にならないといけません。そしてVtuberは、誰かの偶像、心の支えとして、オンリーワンな存在になることが強く求められます。容姿は良くなくてもゲームが上手いとか、歌が凄い上手だとか、喋りが達者とか、そんな人間は、世の中には腐るほどいます。そういう人達の中で他のライバル達と決定的な差をつけるためには、自分だけしか持ってない強烈な個性をいかんなく発揮することが大事です。単にしゃべりが上手い、だけでは終わらず、物の例えや感性が独創的、みたいな、そういう唯一無二感のある人でないと、いくら波乗っているVに転身したとしても、大成功はできないんですよ。凡人では駄目なんです。そしてそういう唯一無二感がある存在を、ある人はスターと、また、ある人はカリスマと、更にある人はアイドル等と呼称します。本当のアイドルは職業として自分から目指すものではなく、気が付いたらそう呼ばれるようになっている存在なんです。本人はミュージシャンのつもりでも、飛びぬけたルックスの良さからアイドル扱いされる歌手とか、本人は女優のつもりでも、容姿がよいせいでアイドル扱いされてしまう俳優とか、本人は実力派声優の気持ちでいても、ルックスが無駄に良いばかりにアイドル的な人気を得てしまう不遇な声優さんだっています。ここだけの話、20過ぎの良い年した大人がアイドル扱いされて恋愛を厳しく規制され、30過ぎるまでは結婚も許されない、だなんてのは、人間の尊厳を奪う非人道的な行為だと、うには思ってますよ。ですが日本の芸能界では、そういう非人道的な行為が、未だに平然と行われているのが現実です。」
そう語る、うにの表情は真面目そのものだった。一方、うにの隣に座る二頭身こと柊かのこは、せっせと自分が食べる肉だけを一生懸命焼いている。やはりこの女だけは信用ならない。表面的には仲良くしても、心は許さないように心掛けねばなるまいな。
『何故貴様が言う、その、唯一無二感のない人間の、この一切中身のない、下手したら誹謗中傷ともとられかねないチャンネルが、他のまっとうな配信をしたり、丁寧に編集された動画を投稿している者達よりも、チャンネル登録者数が圧倒的に多いのだ? 某には理解できんな』
某の理解の及ばぬ現象に対し、白米を食べ終えたフラルが、米粒を口元にいくつか付けつつ、いつものように冷静に、某にテレパシーを送ってくる。
『お父様、人間ってのはね、野生の猿に遭遇するのは嫌がるけれど、動物園の檻の中にいる猿を観るのは大好きなの。炎上系Youtuberってのは動物園の猿と同じで、臭いけど、自分には一切危険の及ばないところから見ているだけなら凄く楽しい存在なのよ。更にネガティブな情報は、ポジティブな情報の7倍以上の拡散能力がある、と言われているしね。悲しいけれど、世の中には、自分より劣っている者、自分より不幸な人や物を見つけて見下して、自分の方が優れている、と悦に浸ったり、ネガティブな意見を共有し合いたいと考える下種な輩が沢山いるわけ。特定の創作物や個人に対して自分と同じ下種な感情を抱いている人間を見つけたい、負の感情を共有したい、と考える、人として低俗な輩が本当に後を絶たずに、ゴキブリみたいに沸いてくるのよ。炎上系ユーチューバーというのは、そういう人間の負の感情を集めるだけ集めて拡散させて金を稼ぐ、人でなしに該当する、人として低俗な輩なのよ。仮に今は調子が良かったとしても、そういうことをし続ける人間というのは、いつか必ず天罰が下るわよ。人の不幸は蜜の味、人の失敗をあざ笑い、負の感情を共有し合う低俗な人間達が、ネットにも溢れ返っている。お父様が見てるそこの間抜け面の不細工なストリーマーは、そういう人として低俗な輩、動物園の猿山にいる一匹の臭い猿にすぎないの。そういう猿を見て面白がってる人間達にも罪はあるのよ。需要があるから、供給されてるわけだし。その手の炎上系Youtuberの存在を求めてる人達がいて餌をあげちゃうから、猿が人の振りして芸をするのよ』
『ふん、なるほどな。人間とは、実に下らぬ生き物だな。人間界の空気は、放屁よりも悪辣。魔界の方が、まだ緑豊かで綺麗だったぞ』
某とフラルが心の中で話している間、二頭身は焼き肉を頬張り、ご満悦だ。しかし、うにの表情は、柄にもなく険しい。何かを言いたそうな様子だ。ここは言わせてやるとするか。
「どうした、うに童。何か某に言いたいことでもあるのか」
うには、某に青く光る眼差しを向け、とんでもないことを口走り始める。
「・・・現在は、スター不在の時代です。ネット社会の発達は、芸能人が持つ神秘性を剥がし、善人面した悪党を、いともたやすく炙り出してしまう世界になったんです。日本のYoutubeでヒカキンが頂点に立てた理由の一つには、彼がプライベートでも究極の善人であり、動画作成に人生を捧げてきたような人だったから、というのもあるでしょう。これまでもそうでしたが、ネット社会によって、芸能界は、これまで以上に、本当にありのままの人柄の良さ、性格の良い人、真面目な人、善人で面白い人が正当に評価され、持て囃されていく傾向がより顕著になってきました。Vtuberも芸能人ですから、タレント適性も大切ですが、まず一番に求められるものは、人として最低限のマナーや常識、モラルを身に着けているか否かであり、ありのままの人柄の良さ、最後は人間力の勝負になってくるんですよ。頭の可笑しい変人とか、過激な言動ばかりする毒舌家が頂点に立つ時代は、もう終わったんです」
「人間力。つまり、人柄採用ということでしょうか」
「ぶっちゃけると、そうですね。昨今のアメリカでは、採用の際に人柄を重要視する企業が増えているそうです。現代は心の時代と言われており、IQが高い人よりも、EQと呼ばれる心のIQが高い人の方が、組織で重要な役割を担う機会が増えてきています。ストリーマー、Vの世界というのは芸能界と同じで、悪人や、性格が悪い人、いわゆるEQが低い人は、いつか必ずその醜い本性が暴かれ叩かれて消えていき、面白い善人、EQが高い人が圧倒的勝者になれる可能性が高い場所なんです。口は悪いしひねくれた感性をしてるけれど、性格は悪くなく、実は意外と良識人である、ということが、凄く大事なファクターになってくるんですよ。ですので、配信者としてやっていくためには、基本的には善人でモラル意識が高く、リスナーに対して誠実な人でいないといけません。そんな配信の世界、特に今波が来ているVtuberは、男性Vも、女性Vも、ライバルが非常に多い状況で、善人同士のプロレス、殴り合いの様相を呈してきています。毎日数え切れない数のVがデビューしています。うにのネームバリューをもって新Vtuberグループを売り出したとしても、安定した軌道に乗せられるかどうかは未知数です。タン塩魔尚も、霜城フラルなどの半端なキャラ付け路線もちょっと不安になってきました。フラル様は女性ということもありアドバンテージがある分、短期的にみればぐんぐん伸びていく逸材とみてますが、ここは研修結果次第では、男性Vでハーラル様には、他の男性Vのライバルと決定的な差をつけるための何らかの策、場合によっては変化球を投げてみようかな、とも考えています」
「変化球? 何を投げるつもりだ」
「・・・バ美肉、です」
バ美肉。聞いた事もない言葉だ。家畜がVtuberでもするというのか。
「バ美肉とは・・・某に、家畜になれとでも言うのか? うによ」
「いいえハーラル様。バ美肉とは、バーチャル美少女受肉、の略で、女キャラのガワで中身は男の人のことを指します。ハーラル様には、乙女を演じてもらおうかな、とも考えているうにです。その方が、女性のうに達とも絡みやすいですしね」
「言ってる意味がわからん」
「うには、新Vtuberグループで、Vtuberの新たな可能性と明確な方向性を打ち出し、V界隈での地盤を築きたい、と考えてます。そのための切り札として、ハーラル様には、乙女キャラを演じてVtuber活動をしてもらう、ということも検討しているんですよ。世の中には、女の子の姿に受肉してチヤホヤされたいと考える男性もいますし、ネトゲなんかでも、イケメンの男性キャラを使ってるけど中の人は女性、というケースは多々あります。昔MMOをパーティーを組んで遊んでいた時、イケメンキャラだけど、中身はおばさんだったことがありましてね。そのおばさんは、ゲームの中でイケメンになってみたかったのよ、ゲーム下手くそでごめんね、とうにに謝ってきたんです。と、まあこのように、男性も女性にも、受肉願望は意外と多いものなんですよ。そんなわけで、ハーラル様は女性になってみたい、という願望はありますか」
「何が、そんなわけで、だ、この大うつけが! やはり貴様の言っている事の意味がわからん。男なのに女のフリをしろというのか? 貴様は某の魂を切り落とせ、とでも言うのかっ」
「そういうわけではありませんよ。ただ、男性Vの数が予想外に増えてきてしまい、どれも似たり寄ったりになってきていて、大手事務所所属のプロの企業V以外、個人Vさんは、ほぼ息をしていないのが現実ですので、研修次第では奇策に出るのもありかな、と考えているんです」
「そんなにVの世界はライバルが多いのか」
「非常に多いです。Vに限らず、配信の世界は、金と実力と運が大事ですからね。」
「Vtuberは、実力というものがあるのか」
「勿論です。Vtuberが時代の波に乗れて、今日の地位があるのは、単純に実力もありますが、コロナ過の巣ごもり需要の影響も無視できないでしょう。おうち時間を強要されたことにより、世界中の多くの人間が、一人の時間の尊さ、楽しさに気が付いてしまったんです。そんなコロナが落ち着いて人々が再び外出するようになり、これからV界隈が少しづつ斜陽になっていくのか、文化としてしぶとく生き残っていけるかどうかってところでしょうかね」
「なるほど。つまり今のブームが一時的な特需で終わってしまうのか、それとも新しい文化と認知され、順調に進化していけるかどうか、という次元の話か」
「そうですね。とはいえ、チャンネル登録出来る数に制限はありませんから、誰かがチャンネル登録10万行ったからといって、新たにデビューしたVさんがチェンネル登録10万人いけない、ということはありません。運と金と実力が全てです。ただこれからプロとしてVtuberをやっていくためには、話題性は大事ですよ。才能はピカイチだけど世間的には無名で実績が全くない新人監督とスタッフ達が情熱だけで作った低予算のオリジナル映画の方が観てみたら面白かったとしても、既にヒットしている小説や漫画を原作にして、かつ実績ある監督やスタッフや人気俳優が湯水のように金をかけて、大々的に広告を打って作った映画の方が、話題性があり、大規模な集客につながって興行的な成功を収めるのと理屈は同じです。これはビジネスの話しですので、この世間に名の知れた実績のある天才Vtuberで大物のあわふくうに、が、新規Vtuberグループを大々的に立ち上げてプロデュースする、という話題性が重要になってくるんです。無名の個人Vのデビュー配信よりも、大手事務所所属Vの新人のデビュー配信の方が人がわんさか寄ってくるもんです。そんな中で、現状他のライバルと差をつけ辛い男性Vの場合は、プラスアルファの要素がより重要になってくるんですよ」
ふむ。よくわからんが、女っぽい声なら出せるぞ。某の悲鳴は乙女のそれだからな。バ美肉か。タン塩魔尚とかいう別名には、丁度良い設定ではないのか?
しかし何故、タン塩魔尚なのか。うに童に名前の由来を聞いてみた。
「Vtuberとか配信者の名前というのは、視聴者が一目見て、頭にスッと入ってくるような、解りやすいものにしないと駄目なんですよ。基本的には苗字は漢字で名前はひらがな、か、カタカナ、その逆、あるいは、あわふくうに、みたいに全部ひらがな、とか、です。政治家が選挙のときだけ名前をひらがなにしたりしますでしょ? あんな感じで、苗字か漢字のどちらかをひらがなとかカタカナにすれば、その分、名前を覚えてもらいやすくなるわけです。例えば、我流院吉秋、みたいな、妙に捻くれたラノベに出てきそうな名前の男性個人Vがいたとして、名前だけは無駄にカッコよくても、そもそも視聴者が漢字を読めなかったり、名前が覚えづらかったりしたら、全く意味がありません。それなら、いっそ開き直って、うどん先生、とかにでもした方がまだ解りやすいですし、インパクトもあるでしょう。一番良くないのは、苗字も名前も微妙に読みづらい漢字にしてしまうことですね。配信者の名前には、苗字か名前、どっちかには、ひらがなかカタカナを差し込むか、全部ひらがなかカタカナにした方が、とっつきやすくなるんですよ」
「ふむ。それで、タン塩魔尚、というわけか。そして娘は、霜城フラル。確かに貴様の言う通り、テンプレート通りな肉っぽい名前だな」
「そうでしょう。はらみライスと迷ったんですが、焼肉は、タン塩から入るのがマナーだそうでタン塩マナーからのタン塩魔尚、我ながら、キャッチーな名前ではないかと、自画自賛しています。焼肉チェーン店とか、肉系のお店とのコラボも狙えそうですしね」
某が少し感心していたところに、娘のフラルが真面目な顔つきで、うに童に質問をぶつけた。
「うにさん。今のお話の中で、女性の私にはアドバンテージがある、とおっしゃっておりましたが、Vtuberは、女性の方が多少有利なんでしょうか」
これに対し、うに童は一瞬の間も置くことなく即答する。頭が高速回転しているのか、本当に、とにかく光の速さで喋りはじめる女だ。
「そうですね。そもそも、Vtuberは、その起源になるのは、恐らくは、ラブライブ、という声優発信のアイドルユニットだと思われますが、バーチャルユーチューバーという立ち位置で、きっかけはバーチャルアイドルとして、女性発信でメジャーになった文化であり、世間的にはまだまだVtuberは女性がなるもの、というイメージが強い状況です。というわけで、現状では、女性の方が男性よりも、多少アドバンテージがあります。あくまでも短期的には、ですがね。株にも、短期的には得でも、中長期的には怪しい銘柄や、先行き不透明な業界があったりしますよね。女性Vってのは、まさしく短期的には得しかないですし、伸びるのが解っているから買うしかない、というような銘柄です。」
「では中長期的には、どうなんですか」
「結論から言うと、中長期的には雲行きが怪しいですね。早めに損切りしておかないといけない株だと思います。かつてあれだけ人気のあったラブライブも、初音ミクも、今や完全に過去の遺物です。それに対し、男性中心声優グループであるヒプノシスマイクは、社会現象を起こすほどに爆発的な人気や知名度は得られないものの、しっかりと地盤を固めて、安定した活動を続けられています。もしこの先、男性のみのVグループで飛びぬけた男性Vが現れて人気者になり、本格的に台頭してくるようになったら、男性V達の方が、時間が経てば経つほどに女性Vグループよりも優位性を保てるようになってくる可能性は充分ありますよ。今でもVtuberではないですが、男性実況者4人組ユニットが、世間的には非常に人気があるご時世です。東海オンエアとか、フィッシャーズみたいな男性Youtuberグループの根強い人気ですし、最近はバキバキ童貞と自称する新星まで現れてきました。結局のところ、女性よりも男性の方が、ゲーム得意な人が圧倒的に多いですし、喋りも達者ですし、体力もありますし、コミュ障や童貞みたいな人を傷つけない笑いというのはクリーンな笑いが取れますし、男性の方が面白い人の絶対数が多いですし、生物として守るべきものが多すぎる女性とは違い、いざとなれば男性は男にしか出せない男のノリ、いわゆる最終兵器、それこそバキバキ童貞さんみたいに男の世界を炸裂させて、葉っぱ一枚の裸芸とか、人前でうんこ漏らす、とか、赤ちゃんプレイしてる姿を公然と見せつけるとか、女性には絶対出来ないような無茶苦茶な企画とかも、面白おかしくこなせちゃったりするんですよ。それが男の武器であり、強さであり、恐ろしいところなんです。今はVtuberというと、女性のイメージが世間的には強いですが、これから5年、10年、更に20年と、長期的にVtuber業界が続いていくと仮定した場合、男性Vtuberの方が、人気に火がつけば、地道に息の長い活動を続けていけるようになるんじゃないですかね」
「女性だけのアイドルVグループでは、駄目なんでしょうか」
「駄目、ということはありませんが、うにのように個人勢はともかく、グループアイドル、いわゆる組織として運営していて、かつ箱人気を継続していこうと考えたら、どこかのタイミングで必ずメンバーの卒業、新規加入、いわゆる人材の入れ替えは避けられなくなってしまいますね。一人プロのVtuberを育成するだけでも設備投資など、凄いお金が必要になりますし。それにVtuberといっても、中身は人間です。病気になったり身内の不幸があったりと、人間であるが故のヒューマントラブルというのが何かしら起こりえます。仮にAIがVtuberになったとしても、AIを作ってるのは結局人間ですので、やはり人間が関わっているが故のヒューマントラブルが起こることは容易に推察されます。これは女性Vtuberグループに限らず、Vtuber、ストリーマーが絶対に避けられない宿命のようなもんです。大手事務所に所属すれば売り出してはもらえてお金は沢山稼げるかもしれませんが、その分事務所に所属すると、当然組織内での激しい競争がありますし、権利関係や事務所全体の活動の方向性などで、自分が本当にやりたいことが思うようにできなくなってしまうかもしれません。おふたりさま、は天才Vtuberあわふくうにの一人Vtuberグループで、劇団ひとりやTMレボリューションみたいな一人Vtuberグループ扱いでこれまでやってきましたが、そこに、本当にこれから新人2人が加入することになるんです。新規立ち上げのVtuberグループですので、フレッシュさや手探り感がある分、一期生の二人と一緒に何がしたいか、フラル様に一体何が出来るのか、何がしたいのか、を時間をかけて一緒に考えていく余地がおふたりさまにはありますが、大手企業Vグループみたいに、既に完成されてしまったピラミッド型の組織、ガチガチの縦社会になった先輩の多いところに今から新人として新規加入する、となると、相当な勇気と覚悟、人知を超えた努力と常人の限界を超えた根性がないと難しいですよ」
流石世界一のVtuber、喋るのがお仕事だけあって、口が止まらないな。
「そうですか。男性Vは、女性Vとはまた違うんですか」
うに童、まだ喋るのか。
「男性Vの場合は、男性のゲーム配信者を観てもらえばわかりますが、年齢を重ねても、見た目や声に大きな変化が無く、かつ大きな不祥事などを起こさなければ、突然極端に人気が落ちる、という事例は少ないんです。女性はともかく、男性実況者や配信者はアイドル扱いされませんので、結婚しても人気が極端に落ちることがなく、むしろ嫁がいる男性ストリーマーの方が人気が出るぐらいです。人気が出ない男性実況者や配信者というのは、単純にゲームが下手クソだったり、声がカッコよくなかったり、活舌が悪かったり、ホラーゲームが出来なかったり、遊ぶゲームの選択が微妙だったり、トークがつまらなかったり、という、つまり実力不足なんですよ。
男性で、アクションゲームやシューター系、ホラーゲームを得意にしていて、声がイケボで、かつトークが爽やかでリアクションが良く、礼節を知っていれば、普通にチャンネル登録者数1万程度はほっといても自然と伸びますし、更に顔出しして若くて少し容姿も整っていれば、チャンネル登録10万以上は余裕で伸びますよ。更に基本素顔を出さなくていいVtuberならば、女性Vより、男性Vの方が、仮に将来禿げたり太ったりしても、そういう見た目の衰えをガワで隠せる分、人気者になれれば長く活動していけるんじゃないでしょうか。それは同じ声を武器に仕事をする今の声優業界の実情と照らし合わせてみても明らかです。男性声優は、実力と人気があれば、年を重ねてもある程度仕事がもらえますけど、女性声優というのは、20代の若い頃は可愛くて声が良ければそれだけでアイドル扱いされて人気者になれますけれど、30過ぎた辺りから、突然実力を強く求められるようになり、そのまま実力派に転向できず、結果も出せずにもたもたしていると、本当にあっという間に、他の自分よりも若くて可愛い女性声優達に仕事をガンガン奪われていっちゃう、凄い残酷な世界なんですよ。ストリーマーも結局中の人は年を取りますし、人間年には絶対勝てませんから、年を取ると長時間ゲームするのが自然と苦痛になってきます。私の先輩の40代後半の男性が、最近ゲーム機を起動するのがもうしんどくなってきて、昔のようにゲームを長時間遊べなくなった、と嘆いてましたからね。
それに女性はゲーム苦手な人の方が圧倒的に多いですので、女性だけのVグループを作るとなると、まずゲームが人並み程度に出来る女性じゃないとVになれませんし、箱人気を長期的に維持していくために、結局、最後は定期的な卒業と新規加入の繰り返しを、どこかのタイミングで断行し、常にフレッシュなイメージを継続していかないと、ある日突然、本当に嘘のように急速に没落していってしまうんです。それはバーチャルとか一切関係なく、日本という国が多く輩出してきた女性アイドルグループが辿ってきた歴史が証明している事実です。ということで、うには、おふたりさま、を女性だけのアイドルVtuberグループにはせず、基本男女混合で、タレントと芸人の中間的な存在のVtuberグループにしていこうと決めました。女性アイドルグループみたいに社会現象的な爆発的人気は得られないかもしれませんが、しっかり地盤を安定させて、固定ファンを獲得出来さえすれば、大幅に落ちぶれていく、という可能性も少ないでしょうからね。アイドルとか人気商売というのは、最終的には女性と子供に支持されないと長続きしません。ディズニーランドが今も変わらず栄華を極めているのは、女性や子供、ファミリー層をメインの客層にしているからです。ディズニーランドは、女性をメインの客層に絞っていて、男性客は基本相手にしていません。なのでカップルでディズニーランドに行くと、大抵はしゃぐ彼女と冷める彼氏との間で温度差が出来、最悪破局にも繋がるんです。ディズニーランドは家族か女友達同士で行った方が圧倒的に楽しいところです。ナンジャタウンに行くカップルは別れる、というジンクスは、都市伝説、というわけでもなく、案外あってます。男性って、彼女とプールや海に行くのは好きでも、遊園地で遊ぶのが大好き、という人は少ないんです。ですのでVtuberを長く続ける上での一番の理想形は、子供と女性に安定して支持され続けるキッズチャンネルですね。本当の意味で人気が欲しいのなら、男性相手の商売だけでは駄目で、女性や子供にも支持されないといけません。そういうこともあり、潜在的に女性や子供を惹きつけやすいイケボの男性ストリーマーというのは、爆発力は低くても、実力があって人気が出れば、安定した活動を行っていきやすいんですよ。」
「つまり女性アイドルは、女性というだけでアドバンテージがあり爆発力がある一方、女性であることのリスクもあり、アキレス腱を晒している状態、というわけですか」
「うっう~む、まあ女性アイドルとかの場合、特に恋愛絡みの不祥事というのは致命傷になりかねませんので、ね。女性Vが男性Vとコラボしただけで、あいつらひょっとして付き合ってんのか、みたいにリスナーにすぐ勘ぐられちゃいますし。もし交際がバレたら極端に人気が落ちますし、売り方次第では、最悪辞めていただかないといけなくなってしまいますので。常に細心の注意を払って活動していかないといけないって部分はあります。ちなみに失礼ですが、フラル様は今、お付き合いされている男性はいないんですか」
「本当に失礼な質問ですね」
「すみません。一応社長兼プロデューサーとして耳に入れておきたいんで、教えてください」
「私は、生まれたときから父の仕事を手伝ってきた身で、色恋には一切興味ございませんし、現在そのような人はおりません。今後作ることもありえません。私は人にアキレス腱を晒すほど愚か者ではありませんので、その辺はご安心くださいませっ」
フラルが、少し語気を強め、眼前のうにに強烈なプレッシャー、いわゆる、圧、というものをかけにいった。どうやらアイドルというものになりたかった娘は、今、厳しい女性Vtuber界隈の現実を知り、少々機嫌を損ねている様だ。その圧倒的威圧感に、うに童はひゅーと冷えた声を出し、少し怯えたような表情を見せている。明らかに心拍数が上がっている様子である。魔界では、娘が怒ると、よく雷が落ちたものだ。今も少しだが、某には雷鳴が聞こえたような気がする。
「そっ・・・そう、ですか。まあ、私も仕事だけが恋人で生きがいの、寂しい女ですので、あはは、はは。お互い気が合いそうですね、あはは、うふふ、おほほ」
「・・・そうですね、私もうにさんと出会えてよかったですよ、うふふ、おほほ」
あわふくうにと我が娘、フラル・ヴィガンスのコンビ。ひょっとしたら日本を騒がす凄い存在になるかもしれない、と、そのとき某は直感した。元々新人V兼相方を募集していたうにのところに、娘がSNSを通してコンタクトを取り、それにうに童が答えたわけだし、この両者の出会いは必然であろう。若者ではない某にとってはともかく、フラルにとって、うに童はよき相棒となりえるかもしれん。
魔王様はVtuber 伊可乃万 @arete3589
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