天の川計画 ~成功率100%のこの恋は前途多難~

@tonari0407

魔の火曜日

天川てんかわ! 明日で『あまかわ計画』一旦終了な」

「はい? 」


「お前に初彼女ができるってことだよ!

 今夜いつもの時間に計画書送るから」


 自分勝手な天野あまの先輩は、今回も言いたいことだけ言って足早に去っていった。


 これはそんな先輩に振り回される俺、天川陸てんかわりくの可哀想な話だ。



 ◇



 ブーブー


 いつも通り、二十時ピッタリに天野先輩からLimeで画像が送られてきた。ルーズリーフの写真を確認する。


 今回のタイトルは……

【勢いで告白!? しちゃった編】


 綺麗な字でビッチリ書かれた計画書。

 捻りもない題名にため息をつき、俺は指示通りに五分で熟読して画像を消去した。


 自室のベッドに横になり天井を見る。

 頭に浮かぶのは天野先輩との思い出の数々……。


 天野先輩は高校三年生、俺の一個上の先輩だ。初めは『ものすごく良い人』だと思っていた。部活のバスケだけでなく、勉強まで教えてくれる。立ち振舞いもファッションも先輩から学んだ。


 そのお陰で俺はバスケ部のレギュラーの座を勝ち取り、成績は上位をキープ、そして暗黒の中学時代からは信じられない位にモテている。


 先輩から羽衣ういちゃんの話を聞いたのはいつのことだったか。容姿端麗な兄と同じ遺伝子を持つ彼女は可愛い。

 それはいつからかわからないくらいに俺に刷り込まれている事実だ。


【桜の木の下で運命の出会い編】

【自宅で再開?! 編】

【梅雨ならでは! 相合傘で下校編】

【夏祭りでばったり遭遇編】……etc


 途中まで気づかなかった。俺は天野先輩を完全に信用してたから、少女漫画みたいな展開に浮かれて先輩に促されるままに話しまくった。


 お兄さんが恋の味方とか最強! とか思っていた。


 違った……あの人は重度のシスコンでそのためには手段を選ばない悪魔だ。


「うん、やっぱり天川は性格も何もかも俺の見込んだ通りの男だわ。お前なら安心して羽衣を任せられる。乙女の夢は壊さない?」


 俺がどれだけ羽衣ちゃんが好きかを熱く語っていたら、ニマリと笑った先輩はそう言ってきたのである。


 最後の二文字には圧が込められていた。


 それからだ。先輩から『あまかわ計画』と称した計画書が送られてくるようになったのは。そこには台本が記されていて、俺はその通りに行動しないと恐らくあの悪魔ラブリー羽衣命の兄に殺される。


 あまのではなくあまのである。これは天野あまの天川てんかわの結婚を意味していると俺は考えているが、先輩に確かめられる訳もなく今に至るのだ。


 計画は毎回決まって火曜日だ。

 火曜の夜は先輩が観たいテレビ番組がやっていないので、羽衣ちゃんの事後報告をじっくり聞けるらしい。ふざけんな!


 今回の計画に対して【急展開ですね】と嫌味を込めて先輩に送ってみる。


【あー、クリスマスとかバレンタインとか考えてたんだけど、俺受験生だから早めに終わらせておこうと思ってw】


 その返事を見て、俺はスマホをベッドの上に投げつけて枕をバシバシを両手で叩いた。


(くっそぉぉぉぉぉ! )


 でも、羽衣ちゃんは可愛いのである。



 ♡



 眠れぬ夜が明け、魔の火曜日がやってきた。【理想の初彼氏】に選ばれた俺はできる限り万全の見た目で告白にのぞむ。


 ため息をつきながら登校し、そして運命の放課後が来た。



「天川先輩っ」

 少し息を弾ませて、部活に向かう途中の俺に声をかける羽衣ちゃん。やや内股で走ってくる。

(うん、今日の演技もバッチリだよ……指導が効いてるね)


「天野さん、どうしたの? 」

「わ、わたし、先輩に聞きたいことが」


 彼女の額には汗がきらめき、唇はピンク色でつやつや。ほっぺたは色づいている。


(メイクもキッチリしてきたね。上等だー)

 なお、彼女のことは普段は名字で呼んでいる。これも先輩のこだわりだ。


「引っ越しちゃうって本当ですか?! 」


 彼女は少し涙目で上目遣いに俺を見つめる。小柄な羽衣ちゃんは180センチの俺を見上げざる得ないが、これもあざと可愛いポイント。

(わかってても、萌えっ!)


「うん、そうだけど……」


「先輩っ、あの……わたし、わたし」

( そこで、距離を縮めてググイっと! )


「先輩と会えなくなるの嫌ですっ」

( 目をじーっと見ながらぁ! )


「だって先輩のこと好きだから」

(ここは少し勢いあまってぇ! )


「あ……」

 羽衣ちゃんは手を口に当てて、『つい本音まで言っちゃったポーズ』をする。


(いや、知ってた。この展開知ってたし俺が引っ越すのは近場だから何の問題もないけど)


「天野さん……」

(いや、ホント。これに乗ったらマジで天の川のコースまっしぐらだけども……)


「俺も好きだよ」

(それ以上に羽衣ちゃんが可愛すぎて、好きだから仕方ないだろぉぉぉ! )


 そのあと、キスして台本からそれてやろうかと思ったけど、根性なしの俺にはできなかった……。



 本当の彼女の性格はわからないし、しばらく知ることもできないだろう。

 でも、俺はいつか羽衣ちゃんをあの悪魔から奪還してみせる。


 多分……できると思う。

 それとも乗せられてた方が幸せだろうか?



 ≪天の川計画 ~片想い編~ 完≫

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