天狐の恩返し~助けてくれた少年が主様になるなんて!

柚月ゆう

天狐の恩返し

朝、鳥の鳴き声で目を覚ます。

一つ大きなあくびと伸びをして、寝床の祠から小さな境内へと出る。

眩しい朝日に思わず全身をぶるぶると振るった。

ぴんっとした焦げ茶色の三角の耳、長い鼻、すらりとした四肢、茶色く先端が白いふさふさの尻尾。

どこから見ても普通の狐だけど、実は、『普通の人』には視えません。


なにせ私、天狐なので。


なんて、ちょっと気取ってみたけど、お稲荷様からこの小さなお社を任されているだけの、なんてことのない天狐なんです。


*******


10年位前になるかな、このお社を囲んでる樹で木の実を採って遊んでいたら、うっかり地面に落ちちゃって。

足を挫いて蹲っていた所を少年に助けて貰ったんです。


なんとその少年、私が視えたんですよ!!


痛みが引くまで蹲ってやり過ごそうとしていたら、どうしたの?大丈夫?って声を掛けられて。

その時の私は、びっくりして咄嗟に差し出された手を噛んでしまったんです。

それでも助けてくれた少年に、お詫びと恩返しがしたくて、ここを管理していたお稲荷様に直談判(という名の半強奪)してこのお社を任せて貰ったんです!


あとから知ったのですが、少年のお家はこのお社のお隣にあって、なんとなんと、あの有名な陰陽師の末裔だったんですよ!

びっくりです!!


視える人が極端に減り、弱体化した妖怪たちがまばらに存在している現代において、『視える』=『霊力がある』人はそれだけで力が欲しい悪い輩に狙われやすいんです。

そして、『視える度合い』=『霊力の強さ』らしいのです。

なので、恩返しで悪い輩から彼を陰ながら守る事にしました。


*******


今日も今日とて、学校に行く彼に付いていきます。

彼が通学している学校はちょっと変わってて、陰陽師の末裔とか退鬼師の末裔とか生まれ変わりとか、なんかよく分かんないけど変わった力を持った人とかいる。

普通の人もいるけど、教室が違うみたい。


彼が所属する教室は末裔たちが集まったとこ。

一般的な科目に加えて、専門の授業がある。

ちょうど今日は使役する式を呼び出す授業みたい。

むう。私にとってはちょっと面白くない。

だって、そうじゃないですかー!

彼を守れる私の特権がー!!


でも、彼もなんだか浮かない顔。

それもそのはず、なんと彼は『視えなく』なってしまっているから。

だから私は彼の隣を堂々と歩いている訳なんだけど。でも、他の人に視えないように姿を消して。

小さい頃は視えていたけど、成長と共に視えなくなってしまう人もいるんだけど、彼はそのタイプだったみたい。

でも不思議な事に、彼の『霊力』は衰えていないのです。

お稲荷様曰く、なにかきっかけがあればまた視えるようになるかも?らしい。


じゃあなんでこの学校にいるのかというと、彼のお父さんが強引に入学させてしまったのですよ。

なんでも、学校の理事長が彼のお父さんの弟さんということと、視えなくても霊力はあるから、悪い輩から守るためなんだとか。

確かに、この学校の結界は強い。

お稲荷様の眷属じゃなかったら入れなかったね。


次第に彼の番が近付いてきました。

なんだか私もそわそわします。

先生の指導のもと、呼び出しの陣が描かれていきます。

なんでも、自分で描かないと効果が無いんだとか。

そして、陣の前に立って術が唱えられた途端、私はなにか強い力で引っ張られました。


*******


なにが起こったのか、分かりません。

なぜ私は陣の真ん中にいるのでしょう?

そして、目の前の彼は、どうしてひどく驚いた顔をしているのでしょう?


彼の友人達がやってきて、彼の髪をくしゃくしゃにしたり、背中を叩いたり。

口々に彼を褒めています。

おっと、ここで先生が止めに入りました。


恐る恐る、彼が私に近付いてきます。

彼の伸ばした手が、私の頭にそっと触れました。


「………こんにちは。僕は、安部真輝だよ。僕の呼び出しに答えてくれて、ありがとう。」


そう言うと彼は私の両脇に手を差し入れて持ち上げました。

宙に浮いた両足がぷらんぷらんします。


呼び出し………つまり、私は、彼の式になったってこと?

お稲荷様の眷属だから、正確には式神だけど。その辺の式よりは格上よ?

そんなことを思っていたら、彼が、また視えるようになるなんて、と小さく呟いた。


私をちゃんと視られて、私に触れられて。

彼のことなのに、なんだか、私がじわじわと嬉しくなってきました。

彼の式神になった、そのことも嬉しい。

彼は私の主様になったってこと。

そして、彼………主様を守る特権も守られたってこと。それも、陰からじゃなくて、正々堂々と正面から。


「これからよろしくね、狐白」


狐白、私に付けられた名前ですね!

私はとても嬉しくなって、身体全体を揺らして答えた。


『主様!よろしくお願いします!!』


友人達が驚き、どよめきが教室内に広がっています。

先生もびっくりしているようです。

なにより、主様が一番驚いてます。


私、話せない訳ではありませんよ?

それなりに力のある天狐ですので。


なんて、また気取ってみました。


*******


結局、主様が視えるようになったのは、私だけでした。

でも、とりあえず一歩前進ですね。


そして、私はというと。

主様から首輪を貰いました!

そして、今日も今日とて、主様の机の端で丸くなってお昼寝です。

たまに、登下校中や休日には主様を狙う悪い輩を退治しに行くけれど、学校の中は安全なので、基本は主様の近くで寝ています。たまにお膝で丸まってみたり、学校内を散歩してみたり。

なんか分からないけど、学校内で視れたらラッキー、幸運の狐なんて呼ばれてたりするみたいです。


そうそう、私がお稲荷様に任されたお社は、ちゃんとお稲荷様にお返ししました。

お稲荷様曰く、今さら返されても………とのことでしたが、主ができましたので!と押し付け…おっと、お返ししました。

今は主様のお家に住んでいます。


*******


目覚ましの音に目が覚めて、ついでに大きいあくびと伸びをする。

隣の主様は目覚ましを止めて、二度寝に入ってました。


平和な朝。

今日も今日とて、主様をお守りします!!


でもその前に。


『主様~!起きないと、学校、遅刻しちゃいますよ~!!』

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