地球最後の男……に、なるはずだった

藍条森也

地球最後の男……に、なるはずだった

 その日、おれは地球最後の男になった……はずだった。

 おそらくは、どこかの国が開発していた生物兵器だったのだろう。未知のウイルスがどこからともなく流出した。致死率百パーセントのその恐るべきウイルスはたちまち世界中に蔓延し、感染した人間すべてを殺し尽くした。

 しかし、おれは生き残った。

 どうやら、世界中でおれだけはこのウイルスに対する免疫を持ち合わせていたらしい。さすが、生命の神秘。どんな事態にも対応できるように様々な遺伝子変異が生み出されている。

 そうして、おれは地球最後の男になった……はずだった。ところが――。

 人類はさすがにしぶとかった。死んでいった人間全部、まとめて幽霊になっておれに取り憑きやがった!

 ふざけるな!

 何十億だぞ、何十億!

 そんな数の幽霊にまとめて取り憑かれて見ろ!

 肩こりがひどいだろ!

 おまけにおれは、こいつらのせいで大切なものまで失って……。

 もちろん、おれだって手をこまねいていたわけじゃない。丸ごと幽霊どもを追い払おうとやれることはやった。


 まずはオーソドックスにお経を唱えてみた。

 そうしたら、丸ごと幽霊ども全員が大合唱しておれのお経の音をかき消しやがった。くそう、だめだ。おれひとりの声量じゃ何十億という丸ごと幽霊の声量に太刀打ちできない。


 次には修行を積んで霊能力を得てやろうと滝打ちの修行をはじめた。

 あいにく、丸ごと幽霊のなかには霊能者の幽霊もゴマンといた。滝打ちのおかげでそいつらの力が増してしまい、おれはますます取り憑かれ体質になってしまった。


 こうなったら最後の手段!

 おれも死んでやる!

 おれも死ねば、さすがに取り憑いてはいられまい!

 というわけで、おれは崖から飛び降りた。めでたく全身打撲で死ぬ寸前。ところが――。

 丸ごと幽霊の一体がおれに取り憑き、おれの体を操って、自分で手術して治しやがった。お前らのなかにはブラックジャックの幽霊もいるのか⁉


 ああ、だめだ。どんなに抗っても丸ごと幽霊の力には逆らえない。おれは意識を乗っ取られ……。


 気が付くと目の前に全裸の女性たちがいた。みんな、若く、絶世の美女ばかり。

 そう。例のウイルスが感染したのは男のみ。男という男が滅び去り、地球には女だけが残された。そのなかで先天的にウイルスに免疫があったおれだけが男として生き残り、地球丸ごとハーレムウハウハ生活を送れるはずだった。それなのに……。

 肝心なところになるとリア充イケメン男の幽霊に取り憑かれ、意識を乗っ取られる!

 おかげでおれは美女と美少女相手のアレコレを何も感じられず、覚えておらず……まちがいなくおれの体を使ってやっていることなのにいっ!

                   完

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