第4話

るるの誕生日が近づいていた。 Vtuberの誕生日とは盛大に祝われるものだ。 SNSではプレゼントを準備している信徒を何人も見かけるようになり、彼は嬉しかったが、心のどこかに引っ掛かるものがあった。

 シオリはまた配信を観に来るようになった。 相変わらず変わった文章をコメント欄に残している。 彼女が配信に戻ってきたタイミングで、SNSが更新された。


「ごしんぱいpかけしましたげんきです」


 仲良くしているVtuberとのコラボ配信後、コラボ相手に心配された。 いつもと様子が違うそうだ。 エゴサをしてみても、古株の信徒ほど彼の変化に気づいたようだった。


「なんか今日のるる様元気なかったね」

「るる君、最近忙しいから無理してるのかな?」

「推しの苦しみはファンの苦しみ!!!!!無理しないで!!!!!!」


 彼はSNSを閉じ、目頭を押さえた。 


「特別扱いは集団の秩序を乱す・・・か」


 やがて、彼の誕生日配信の日がやってきた。 信徒やよくコラボするVtuberからの数えきれない祝いの言葉、沢山のファンアート、欲しいものリストに載せていたものが届いたりと、忙しいけれど感謝と喜びがいっぱいだった。 シオリもコメントしてくれた。


「るるさん お誕生日おめでとうございます」


 今日は誤字がなかった。



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 陸沢紫織はるるの誕生日配信が終わった後、しばしの余韻に浸ってから布団にもぐりこんだ。 今日は楽しかった。 るるさんの仲がいい人とるるさんが沢山話してたし、お祭りムードで私もワクワクした。 ファンアートもたくさん描かれている・・・らしい。

 Vtuberというものを教えてくれた兄には感謝している。 おかげでるるさんに出会えたし、この先が見えない暗闇しかない世界でも頑張って生きていける。 そう・・・るるさんの配信があれば頑張れるから・・・大丈夫・・・うん、大丈夫。

 せめて、せめて一瞬でいいからるるさんの姿を見てみたいな。 見てみたかった。



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眠りに落ちたはずの彼女は何故か椅子に腰かけていた。 そこは本棚が並んでいる薄暗い部屋で、床や壁には魔法陣のようなものが描かれていた。 


「るるさんの配信画面ってこんな感じなのかな?」


 辺りを見渡して、彼女はそう考えた。 考えたと同時に気づいた。 目が見えている。

 別段驚きはしなかった。 目が見えるということはこれは夢なのだ。 もともと後天的に失明した彼女にとって、視力が戻る夢は今まで何度も見てきた。 しかし、今いる空間は初めて見る場所であり、過去目が見えていた時に行ったことがある場所以外の夢を見るのは初めての経験だった。

 シオリが物珍しそうに辺りをキョロキョロしていると、その空間に男性の声が響いた。


「ごきげんようシオリ。 気分はどうかな?」


 彼女が聞き慣れた声のした方へ振り向くと、そこには暗闇の中でランタンを掲げる銀髪の男が立っていた。 シオリは反射的に両手を口に当てた。 その姿は兄に教えてもらったるるの姿そのものだった。


「・・えっと・・・あの・・・えっと・・・・・」


「実は僕は本物の魔族でね。 魔族の力で君の夢にお邪魔したのさ。 不快に思ったなら申し訳ない。」


 シオリは首を横に振った。 るるさんが見える。 そこにいる。 言葉が出てこない。


「そうか、よかった。 他の信徒には内緒だよシオリ。 今夜はみんなに色々よくしてもらったからね。 僕なりのお返しさ。 紅茶でも飲みながらゆっくり話そう。 ・・・・さて何から話そうか。 なんせ、夜はこれからだからね」

 

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一夜の夢 癒鷹 Yutaka @HIBOYOSUI

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