第3話

 るるがシオリの秘密を知ってから数週間が過ぎた。 その間、特に何も起きなかったし、何なら彼の中の彼女の存在感は薄れていた。 決して忘れたわけではない。 有難いことに、毎回配信開始ボタンを付けるたびに彼女はコメントを残した。 しかし、彼にとってすでにシオリという存在は謎が入った箱ではなくなり、ただの1人の信徒となっていた。

 ある日からシオリは配信でコメントを打たなくなった。 どんな配信者やVtuberの常連リスナーも配信を毎回視聴できる訳ではない。 人間であれば予定もあるし事情もある。 そんなことは彼も承知だった。

 しかし、二日三日・・・一週間二週間と顔を見せないので、彼もだんだん心配になった。 まさかと思いSNSも確認してみた。 もともと頻繁に呟いてはいなかったが、配信に現れなくなった時期から全く更新されていなかった。

 一人の信徒を気にかけすぎるのは良くないと思いつつ、事情を知っているがゆえに我慢できず、彼は鏡を使った。 シオリは相変わらず自室にいた。 昼間だというのにカーテンを閉じて暗くなった部屋で体育座りをしたまま、何をするでもなくボーっとしていた。

 彼はホッとした。 少なくとも生きてはいるらしいが、様子がおかしい。 彼は力を使って彼女に何があったのかを視た。  


「紫織さん、お母さん、よく聞いてください。 紫織さんはこれまでよく頑張ってきました。 一時期からリハビリに文句を言わなくなりましたし、最初はあんなに嫌がっていた点字の勉強も今や教えることがないと聞いています。 辛い薬剤治療も続けてきて、今は自宅で療養していただいていますが・・・・再検査の結果、今後紫織さんの視力に回復の見込みがないことが分かりました。 つきましては障害者手帳の発行の手続きを・・・」


 彼は鏡を閉じた。 鏡を閉じた後の静けさが、やけに耳に響いた。

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