EPISODE 45:未来
ズズン……。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
バキバキグシャグシャドンガラガッシャーン!
“
「うわぁ、酷い有様」
後に残るのはこんもり盛られた
ものの見事に破壊し尽くされた景色。遊はへたり込み、呆けて弛緩した面持ちで眺めている。
それもこれも、全てがうまくいったからだ。
視線を落とす。そこにはたおやかな寝顔。恋い焦がれ追い求めていた女性、囚われだった姫のえるが、心穏やかに寝息を立てている。絶賛
「……あれ、ここは?」
えるが
「おはよう、える姉さん」
何事もなかったように、穏やかに告げる。
すると、えるはむくりと体を起こし、
「よかった、夢じゃなかったんだ」
「え?」
「遊君が、助けに来てくれたんだよね?」
待ち望んでいた、とびっきりの笑顔を咲かせてくれた。
見計らったかのように、街の景色が鮮明に彩られていく。支配の証たる赤黒い粘菌は消滅し、本当の塩塚地区の街並みが蘇ろうとしているのだ。
「ありがとう……あたしのために戦ってくれて」
「ううん、僕なんて全然だよ。……むしろ、今までずっと守ってもらうばかりで、やっと恩返し出来たと思う」
「別にいいのに。遊君のことが大好きだから頑張っただけだもん」
「……そ、それって」
不意に「大好き」と言われて、耳がかっと熱くなる。嬉しさのあまり、顔もだらしなくにやけてしまう。
えるの言う「好き」とは仲の良い友達としてなのか、それとも男女の仲としての意味なのか。もし後者なのだとしたら、それは両想いという意味を示すのだろう。
告白するなら、今だろうか。
愛する相手を救い出した瞬間。映画ならキスシーンが挟まれる絶好のチャンス。彼女に好意を伝えるとしたらベストタイミングじゃないだろうか。
しかし、もし失敗してしまったら? 断られてしまったら? 望まぬ未来が否応なく脳裏を
歓喜と高揚、不安と緊張でパニック極まり、思考がグルグル渦を巻いていく。口の中は乾いてもうカラカラ、高まる鼓動で心臓は爆発寸前だ。
「あの、お取り込み中のところ悪いんスけど」
と、そこへ割り込む者が約一名。キュームが上目遣いで迫ってくる。おかげで告白の機を逸してしまう。わざととしか思えないムードクラッシャーっぷりである。
「救出作戦大成功な訳だしさ~、もうそろそろいい頃合いじゃない?」
のしっ、と遊の頭に重く柔らかい物が乗せられる。ハウリがおっぱい置き場にしているのだ。彼女も告白を妨害したいのだろうか。
「ご褒美の時間」
更にはセルピアまでもが参戦だ。背中に豊満な乳房を押し当てて貼り付いてくる。この流れは明らかにまずい。よからぬ方へと全速力で突き進んでいる。
「勝利記念にママといいことしましょうよ。……ね?」
駄目押しにピットだ。瀕死の重傷で動くのがやっとのくせに、命を削って絡みついてくる。
四人の目的は、遊を性的に美味しくいただくこと。初志貫徹、本能に従い
すっかり忘れていたが、現在彼女達はコントロールの範囲外。隷属の鍵を四本同時に解放中なので実質暴走状態だ。当然の結果、むしろ最終決戦で戦ってくれた方が奇跡である。
「お、お前ら裏切る気ランか!?」
「違うわよ、ただ遊ちゃんとイチャラブエッチしたいだけだもの」
「それ同じ意味ラン――ぎゃんっ!?」
お約束のように、グランはガラガラで殴られ星になる。
これで最後の
手元には鍵が四つ。襲われる前に封印すれば事なきを得るが、果たして彼女達に敵うだろうか。否、不可能。怪人一人でも無理難題なのに、四人同時に相手なんて多勢に無勢。圧倒的戦力差で
もう駄目だ、と思われたが。
ばたり、どさり、ばたん、どたん。
ピットも、セルピアも、ハウリも、キュームも、一人残らず力なく倒れ伏した。
その中心に立つのは唯一人、安納える。
「まったくもう、油断も隙もないわね」
彼女が倒したのだ。
塔の最上階にて衛兵を倒したように、その身ひとつで沈黙させた。
えるは更なる進化を遂げて帰ってきた。怪人に改造する下準備とやらが、良くも悪くも功を奏したらしい。その身体能力は、もはや人間の域を優に超えていた。
泡を吹いて倒れる四人を再度封印していく。彼女達は性欲に取り憑かれた猛獣だが、それでも共に戦う仲間。胸元へ
「オイ、目的は達成したけど、今後はどうするラン?」
タンコブで身長が二割増しになったグランが帰ってきた。
地球の神秘が生み出した力で怪人を使役、“
なら、これからどうするか。
「僕は、これからも戦うよ」
決まっている。
それ以外にあり得ない。
「塩塚地区は解放されたけど、他の場所はまだ怪人に汚染されっぱなし。だから地球全部を取り戻さないと。それに、父さんも母さんも、たくさんの人が
この力を手にした瞬間から確定したであろう使命、宿命、運命。
全てに決着がつくまで戦う。それこそ、力を与えられた者の責務。遊はそう決意していた。もっとも、大半は好きなヒーロー番組からの受け売りだ。憧れを真似しているだけである。
それでも、小さな背中を押すには十分。
ヒーローがいないのなら、自分がなるまでだ。
「あと、える姉さんの体も、元の人間に戻さないと」
「あたしは別に。遊君を守れるなら半分怪人のままでもいいけど?」
「いや、よくないよ!?」
やることは山積み手一杯。いつ戦いが終わるのか、見通しはさっぱりつかないほどに遙か遠く。
だが、やるしかない。
澄み切った青空の下、四本の鍵が鈍く輝いていた。
完。
メイデン☆クライシス~地球は女怪人に征服されました~ 黒糖はるる @5910haruru
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